先日、電話のカウンセリングを終えて一服しているときに、妻が部屋に飲み物を持って入ってきました。
そのとき彼女は「わー、何だか悲しい気持ちがする」と言い出しました。
その電話カウンセリングでは、ご家族の死に関する深い悲しみを伺っていたんですね。
僕自身もカウンセリングの途中から、そんな悲しい感情をひたひたと感じていました。
まるで電話線を通じて、感情が言葉と一緒に流れてくるような。
妻が部屋に入ってきたとき、その残像のようなものがカウンセリングルームに残っていたようです。
面談のカウンセリングをしていると、もっとストレートにお客様の気持ちが伝わってきます。
笑顔で話をしてくださっているのに、何だか悲しい気持ちがしてくるんです。
そのときにふと「何だかすごい悲しみを抱えていらっしゃいませんか?」とお聞きすると、笑顔がたちまち崩れて「わぁ」と泣き崩れられた方もいらっしゃいました。
何かのきっかけでお客様の孤独感がぱっと流れ出してくるときもあります。
あったかい部屋にいるはずなのに、急に寒気がしてきたり、何だかものすごく寂しい気持ちになったりするんです。
深い罪悪感を扱うシーンでは、カウンセリングルーム全体がどんよりと暗く、重たい空気に支配されたような感覚になることもあります。
「こんな苦しいところにいらっしゃるんだな。まるで牢獄みたいやな・・・」と僕は思うんです。
隣を見ると、妻がまた苦しそうな顔をしていたりします。
目の前のお客様も同じように苦しそうな表情をしています。
そして、徐々にその痛みが癒されていくにつれて、お客様や妻の表情も、僕の心も、部屋の空気も軽く明るいものになっていくんです。
壁の白さが際立って明るく見えたり、きらきらと光が舞っているような感じがするときだってあるんです。
ほんとに!
妻はもともと感情に敏感なタイプなのですが、かといって小さい頃から何かが見えたとか(笑)、そんなこともない普通の女の子です。
僕はもともと感情に鈍いタイプなので、感情よりも感覚的なものや直感に頼ることが多いんです。
だから、お互いずっとセラピーを受けてきたから、という部分はあれど、至ってその辺は普通だと思ってます。
僕らは夫婦でカウンセリングをさせていただいていますから、浮気やセックスレスなどの夫婦・カップルの問題を扱う機会がとても多いんですね。
そのときの僕は「今よりももっと魅力的になって、もう一度ご主人(奥様)を振り向かせましょうね」と提案するんです。
それを頑張ってやってくださった方から色々な報告を頂くんですけど、その中にはこんなお話をしてくださる方が実は多いんですね。
「あの・・・。とっても不思議なんですけどね。根本さんがおっしゃるように頑張ってみたんですね。そしたら、周りの人から『きれいになってね』って言われるんです。
それはうれしいし、時々顔を合わせる人達ですから分かるんですけど、その後、別居中で全然会ってない主人から電話があって、それが今までに聞いたこと無いくらい優しい声なんです。
私、思わず警戒して何かあるんじゃないかと思ってしまったくらいで・・・。どうしてなんでしょう?」と。
何が言いたいか、というと、そこから僕が学ぶのは、みんな気付いていない、意識しないだけで結構、そんな共鳴現象が起きているんじゃないか?ということです。
ちょっと想像してみてください。
会社や身の周りの知り合いでむっとした人を見かけたとします。
あなたはこう聞くんです。
「何を怒ってるの?」と。
でも、たいていその人は「別に」って答えます。
そこでさらに突っ込んで「いやいや、怒ってるんじゃないの?そんな感じするよ」って言うと、「別に。怒ってなんかいないよ」と答えます。
そんな問答を何度か繰り返したと思ってください。
あなたはどんな気持ちになるでしょう?
あなたの方がだんだんイライラしてきませんか?
これをその人の怒りがあなたに共鳴してると見ることもできます。
この逆に、その友達と一緒にいるといつも楽しい気分になる、とか、元気になる、ということもあろうかと思います。
そんな人はきっと皆の人気者でしょう。
だってその人に近づくと楽しくなるんですからね。
これもその人の楽しさや元気の良さがあなたの心に共鳴してるって見ることが出来ますね。
夫婦や家族の問題をお聞きしているときにはよくこの現象に遭遇します。
奥様がご主人の感情を引き受けて必要以上に苦しんでいらしたり、お母さんが家族みんなの苦しみを1人で抱え込んでいたり。
お母さんが抱えてくれている分だけ、他の家族は苦しみが少し緩和されていきます。
それは無意識的に見れば、その感情を引き受けてあげたい優しさや慈愛がすることなんですよね。
そうしてご主人や家族みんなを助けようとするんですね(これも無意識的に)。
これは子ども達もよくやってしまうことです。
お母さんがしんどい思いをしている、と思えば、そのお母さんを助けたい気持ちから、その痛みを吸い取ろうとします。
だいぶ以前の話になりますが、小さい娘さんが二人のいらっしゃるお母さんをカウンセリングしたんです。
お子さん達には隣の部屋でお絵かきをしたりして遊んでいてもらいました。
お母さんが心の痛みに触れて、涙を流し始めると、その子ども達がすぐに飛んできてお母さんを慰めようとします。
隣の部屋とは襖で仕切られていて、お母さんは声もあげずに泣いていらしたにも関わらず。
それはカウンセリングの間に何度も繰り返され、改めて子ども達の親を思う気持ちを感じると共に目に見えない糸のような存在を思い知らされたものです。
お子さんのいらっしゃる方は、子ども達がどんな風に自分達親を見て、そして、どんな思いを持っているのかを感じられる経験が少なからずあるかと思うんですね。
本当に愛情深く、自分達を助けようとしてくれています。
逆にいえば僕達も小さい頃は皆そうだったんですよね。
そういう色んな経験を通じて、人っていうのはホントに見えない糸のようなもので繋がっているんだなあ、と思うんです。
そうすると今あなたの隣でぱちぱちキーを叩いている同僚や、今日一緒にご飯を食べた家族や友人、電話の向こう側の恋人ともそんな見えない糸で繋がっているのでしょう。
もし、それが目に見えたのなら、もう少し皆優しい気持ちで人に接することができるようになるのかもしれませんし、孤独を感じて一人でうずくまったり、自分を傷つける必要もなくなるかもしれません。
もし今余裕があれば、皆さんもちょっと想像してみてください。
今あなたの心から見えない細い糸が出て、色んな人の心へと繋がっている様子を。
どんな気持ちがするでしょうか。
なんだか温かい気持ちになりませんか。
このコラムを読んでくださった皆さんと僕も見えない糸で繋がってしまってるかもしれません。
その糸を伝って、今の僕の安らかな気持ちがちょっとでも伝われば嬉しいです。
根本裕幸