●無邪気で素直な・・・

仕事や買い物で家を空けるとき、僕はちょっとした罪悪感を感じながら玄関のドアを締めているんです。
なぜかというと、そのドアの向こう側には愛犬・ショコラがじっとこっちを見ているから。
首をかしげて「行っちゃうの?」とか言わんばかりに。
自宅にいても仕事をしていることが多くて、一人で遊んでいたり、眠っていたりしながら、奴は僕らの手が空くのをずっと待っています。
僕がちょっとテーブルの椅子をずらして立ち上がろうものなら、尻尾を振りながら後をついてまわります。
お気に入りのおもちゃを加えて「遊ぼうよー」といわんばかりに近づいてきます。
申し訳ないなあ、と思うあまり、補償行為的に遊んでしまうこともあります。
でも、そういうときでもショコラは夢中になって楽しんでます。
最近は言葉も覚えて、「散歩しよっか?」といえば、お尻を振って嬉しそうに飛び回ります。
「お仕事で出かけてくるからお留守番していてね」と言えば、部屋の隅のいつものポジションに行って、じっとお座りして付いてこようとはしません。
ああ、なんて健気なんだろうな・・・と感じるたびに胸が痛むような気持ちがします。
そりゃあ、仕事ってのは、あんたの餌代やおもちゃ代を稼ぐって目的もあるけどさ・・・。
うちのショコラは犬は苦手だけれど、人間が大好きで、うちのよく遊びにくる人の名前も覚えていたりします。
「おかあが来るよ」といえば、それだけで狂喜乱舞します。
「まっこが来るよ」といえば、興奮しながら、尻尾を振ってドアの前で待ってます。
「げんぞうが来るよ」といえば、おしっこをちびる勢いで駆け回ってます。
「はらっちが来るよ」といえば、部屋をぐるぐる回って歓迎の儀式を始めます。
玄関のチャイムが鳴れば、期待一杯の目をしながら我先に飛び出して行かんばかりです。
そして、僕らが外出している間はリビングのドアの前で、丸くなって眠りながらずっと待っているようです。
時に催したおしっこやうんちもちゃんと所定の場所で済ませながら。
そして、僕がドアをあけると、リビングのドアの向こうから「はっ」としてお座りをして、伸びをして、尻尾を振るショコラが見えるんです。
そして、待たせた時間が長いほど、歓迎の儀式もまた長く、あちこちを飛び跳ねながら、きゅんきゅん鳴きながら大歓迎してくれます。
仕事のスケジュールによっては朝早くから出かけて、帰宅が深夜に及ぶことも少なくありません。
“飲み”や“カラオケ”が入れば、早朝になることだってあります。
そんな時間にショコラは何しているんだろう?とか思ってしまうと、もうやるせない気持ちで一杯になって、罪悪感を感じてしまいます・・・。
ただ、僕も一度出かけてしまえば気持ちの切り替えも出来るようで、それはそれ、という風に振舞えるから不思議なものです。
そして、どんなに帰りが遅くなっても、ちゃんと待っててくれるんですよね。
イライラして部屋中を荒らすことも滅多になくなりました。
リビングに入るとドアのすぐ前の床が、あったかーくなっているのが感じられます。
こいつ何時間ここで待ってたんだろうな・・・と思うと、とてもかわいそうな気持ちすらしてしまうんですよね。。。
最近、妻が妊娠して体調が不安定なので、実家に帰っていることが多く、ショコラとの二人暮しが続いています。
あまり一人で放っておくのがかわいそうなので、妻には内緒で一緒のベッドで寝てたりするんですよね。
ああ、ばっちり癒着してますね・・・。
反抗するときも、ショコラは賢く反抗します。
妻に怒ってるときは、リビングの妻がいつも座ってる椅子の側におしっこします。
僕に怒ってるときは、リビングの僕の椅子の側か、仕事部屋の真ん中におしっこします。
粗相をした時はちゃんと首根っこひっ捕まえて叱るんですね。
その時は神妙な面持ちで従うんですけど、手を離すとまた元気に「遊んでー」と擦り寄ってきます。
・・・なんてこいつは素直なんだ・・・。
でも、あるとき妻とこんな話をしたんです。
まだ子どもがお腹に入る前。
一緒に仕事をしていた頃の話。
妻:「もし、あたしが裕幸にこんなに長いこと放って置かれたら、あんな風に振舞えないと思うんだよね・・・。ふてくされて引きこもって冷たい視線をいっぱい投げかけながら、ベッドで丸くなってるわ」
僕:「確かに・・・。(その時のシーンがありありと目に浮かんで)うわー背筋が寒くなるなあ(苦笑)。ショコラは偉いなあ」
妻:「ねえ、ショコラは偉いよね」
どんなに遅い時間でも歓迎してくれて、さっきまで眠っていた目をこするように伸びをしながら、一緒に遊ぶことを期待して待ってます。
僕らがへとへとに疲れていてもそれはお構い無しに、お気に入りのぬいぐるみを咥えて持ってきます。
「ねえ、あそぼーよ」と。
苦笑いして、適当に調子を合わせるだけの時もあります。
酒に酔っ払ってるときなどは特に。
でも、ショコラは大喜びです。
仕事の合間にちょっと休憩程度のつもりで遊んであげることもあります。
ほんの数分。
でも、ショコラは大喜びです。
散歩に行こっか?って、これも僕の気分次第で、朝だったり、真昼だったり、夕方だったり、夜中だったり。
でも、ショコラはとっても喜んでお尻を振って、道路に飛び出したり、あっち行ったり、こっち行ったり、挙動不審になりながら跳ね回っています。
とても楽しそうに、とても嬉しそうに。
なんで、こいつこんなに素直なんだろう?
なんで、こいつこんなに無邪気なんだろう?
罪悪感いっぱい感じる一方で、かけがえのない何かをたくさんもらってます。
そんな僕の姿を見た友人がぼそっと言いました。
「ショコに対してそんなやったら、子ども産まれたら目も当てられんやろなあ・・・」と。
まあ、それはその時で。
今こうして原稿を書いているとき、ショコラは床に横たわって丸くなってます。
ショコラの方を振り返ると、時々、寝たまま目だけを動かして僕の目を見ます。
「まだ仕事してんのー?」てな風に。
それでも、ちょっと立ち上がって近づいていけば、きっと尻尾ふりふり、嬉しそうな顔して伸びしてくれることでしょう。
これは信頼ってことで。
根本裕幸
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