僕の次女の話をさせてください。
僕の次女今、5歳、名前は香代美(こよみ)といいます。
彼女は、いったい誰に似たのか、僕の奥さん、そして僕自身にもない、「なにか」を持っています。
親ばかかもしれませんが(いえ、多分親ばか)、彼女の記憶力は抜群です。
3歳にして、すでにポケモン151匹の名前を網羅し、また、好きなアニメの主題歌は、一度聞いた
だけでその半分以上を記憶し、2つ違いのお姉さんである長女に、お説教して教えるほどです。
また、運動神経は、わが家始まって以来の卓越したものを持っています。
僕と僕の兄弟、また、奥さんと奥さんの姉妹、そして、僕の長女も(三女はまだわかりませんが)、
運動会のかけっこで一等賞になったことがあるものは、誰一人としていません。
しかし、彼女は言いました。
「こよ、ぜったい かけっこで いっとうしょうに なる。
だって にげあしだけは はやいから」
僕は、表向きには
「がんばれよ」
とどうでもよさそうに笑いながら、内心では、なにかが起こることを期待していました。
そして運動会当日。
スタートで出遅れたものの、あっというまに前をいく二人のお友達をぶっちぎり、最後は両手を
挙げて大差の一着。
彼女は公約どおりの一等賞を、余裕の表情で勝ち取ったのでした。
いっしょに見ていた僕の父に、
「長年、たくさんの運動会に出てきたが、身内が一等賞になったのをはじめてみた」
と言わしめ、彼女はこの瞬間、若干5歳にして、我が家の伝説となったのでした。
逃げ足だけは速い、という発想自体、一味違うものをにおわせると僕は思うのです。
彼女の今のお気に入りのおもちゃは、仮面ライダー555(ファイズ)の変身ベルト。
「おまえはたしか女の子のはずだったのでは。。。?」
という両親の揶揄をまったく意に介さず、5歳のお誕生日にようやく手に入れた彼女の宝物です。
変身ポーズを僕たちに何度も見せてくれました。
劇中の仮面ライダーの、独特なしぐさを見事に表現した、かっこいいポーズを取りつつ、最後は
テレ笑いでしめくくる彼女に、僕は、そこでも、なにか一味違うものを感じるのです。
そんな彼女に、僕は一度聞いたことがあります。
「こよの頭の中にはいったいぜんたい、なにがつまってるの?」
はじめて僕が彼女にこの質問をしたとき、彼女はこう答えました。
「おかし」
「どうして?」
と、僕が答えると、彼女は、
「こよは、くいしんぼう だから。わはははは。。。」
と言いました。
やはり一味違います。
なぜなら、自分を「くいしんぼう」という人は、山下真司ぐらいしか、僕には
思いつかないからです。
奥さんは、村野武範だそうです。
彼女は、山下真司も、村野武範も、ましてや梅宮辰夫も知りません。
僕は、この質問が楽しくて、今ではほぼ、毎日彼女に尋ねています。
毎日、同じ答えが返ってきたことはありません。
そのなかでも、特に僕の興味を引いたのが、
「おとうちゃんのかれんだー」、
「かいじゅうとたたかってるこよ」、
「おとうちゃんのじんせい」、
でした。
極めつけだったのが、
「がらす」
です。
僕が、なぜガラスなのか?と尋ねると、彼女は、
「わはははは。。。。」
と笑って答えません。
そのとき、周囲に、「ガラス」と呼べるものもなく、また、前後に「ガラス」に関係する会話も
ありませんでした。
何ゆえ「ガラス」なのか?
「おとうちゃんのじんせい」も大概わかりませんが、
この「ガラス」は、もっとわかりません。
彼女の心理だけは、きっと、僕たちカウンセラーであっても分析することは不可能でしょう。
さすがは我が家の伝説の女です。
僕は、いつか、彼女のその頭の中につまった四次元の世界の仕組みを知ってみせる。
そう思って、僕は今日も彼女に尋ねるのです。
「今日のこよの頭の中には、何が入ってるの?」
田村厚志