とある日の事です。
家に無造作に置かれていた携帯電話が鳴りました。
それも、今まで聞いた事の無い着信音で。
今使っている携帯電話も2年位過ぎたので、ついに故障してしまったのかな?と思いながらおそるおそるその携帯電話を覗いてみると・・・
私の想像もしていなかった人からの着信でその携帯電話は鳴り続けているではありませんか!
「ああ、携帯電話を誰かが借りて電話してるんだわ」
「というか、なんでこの携帯電話番号から電話がかかってるの???」
と、思いながらおっかなびっくり受話ボタンを押してみました。
すると・・・
携帯電話の画面にメッセージが現れてきました。
“テレビ電話接続中”と。
ドキドキしながら、携帯電話の画面を凝視していますと、現れた人物は、実家にいる母でした。
後ろにちまっと父も写っていました。
その時私は驚き驚愕の声を上げ、携帯電話に向かって手を思わず振っていたのです。
私の両親は共々聾唖者で全く耳が聞こえません。
だから小さな頃から、ずっと「両親と電話で会話をする事は一生ありえ無い」と思っていたんですね。
近年母が携帯電話を持ち始め携帯電話でメールのやり取りはしていました。
私にとって、母が持っている携帯電話はメールのやり取りツールとしか思っていなかったのです。
私自身、携帯電話は、電話で会話したりメールをするためのツールとしか利用していなかったのですが、母は違いました。
多分、この携帯電話でテレビ電話をかける前、テレビ電話機能がこの携帯電話にある事を知り、一生懸命取扱説明書を見たり、携帯電話に詳しい人に色々とテレビ電話の使い方について聞いて、母自身も試行錯誤しながらこうやって娘である私に電話をかけてくれたんだな、と想うと胸が熱くなり、じーんとしながら両親との会話を楽しみました。
母は「ちゃんとご飯食べてる?困ってる事ない?」と手話で聞き父に携帯電話を向け父を写し始めました。
そして、父は両こぶしを胸の前で動かし「頑張れ!」と手話で伝えてくれました。
私も、身振り手振り「大丈夫だよ!」とか「ありがとう、がんばるよ!」と答えてました。
東京と地元と距離は500キロ以上も離れているのに、こうやって両親と電話で会話できた事に驚きと嬉しさでいっぱいの時間を過す事ができました。
小さなころから一番やりたかった事、でも無理だなとあきらめていた事の一つが両親との電話での会話でした。
しかし「娘といっぱいお話したい!」とずっと想っていた母はその私が無理だと決めつけていた概念をとっぱらい、テレビ電話で会話するという事を思い付き、こうやって電話をかけて来てくれました。
もしかしたら、私たちの周りであきらめていた事、無理だなと感じてた事にもどこかに突破口があり実現できるという事。
そして、想いは必ず実現するという事を母に教えてもらったような気がします。
携帯電話を通してその事を実践し現実化してくれた母の強い気持ちや愛情に感謝いっぱいです。
お母さん、ありがとう。
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