人生の転機になる言葉をもらうことがある。
行き詰まった時、前に進めなくて苦しんでいる時。
まるで背中を押してくれるような言葉。
その一言で、果てしない壁に思えた状況が、楽に越えられる、そんな言葉。
僕は、たくさんのこうした言葉に支えられて生きてこられたと思う。
そんな中で、忘れられない言葉がある。
それをくれたのは、あるご夫婦だった。
ご主人はカウンセラーやセミナーのトレーナーをやっておられた方でその言葉をもらったのは、僕がカウンセラーとしてデビューする直前にカウンセラーとしてやっていけるかどうかで悩みに悩んでいた時だった。
どうにもならない思いに苦しんでいる時、その人に相談することを突然思いつき、電話をした。
僕の話を聴いていたその人は、突然、次の言葉を口にした。
「あなたのお父さんの意思を継ぐということじゃないですか?
お父さんが持っていたビジョンや成りたかった自分。
果たせなかったお父さんの意思を継ぐということなんですよ。」
何のことか、最初はわからなかった。
それがわかったのは、後日、心理学のワークショップに参加した時の実習で、お父さんからのメッセージがあるとしたらどんな言葉でしょう、というイメージワークをやった時だ。
目を閉じて思い浮かべた父が僕に言った言葉は想像していないイメージだった。
「お前の好きなように生きろ」
そうか、父の意思を継ぐということは、そういうことなのか、とわかった瞬間だった。
カウンセラーとしてやっていけるのか。その不安は、この言葉で消えた。
「父の意思を継ぐ」。それは「自分が好きで選んだ道を歩む」ことだったではないか。
この言葉のおかげで、今、僕はカウンセラーになれたのだと思う。
その後も、自分がやっていることに自信がなくなった時、もうやめようと投げ出したくなった時、どれだけこの言葉が僕を救ってくれたかわからない。
その方の奥さんとは、僕が心理学を学び始めたころ、別の心理学のワークショップの打ち上げ会場で出会った。
その人は、「パターンは違っていても人は愛のほうへ自然に上り詰める事が出来るし、人の中には暖かい思いやりで溢れていると確信している」と語ってくれた。
そして、当時は、自分がカウンセラーとして活躍できるなんて思いもよらなかった、全く自分に自信の持てなかった僕に対して、「優しくて共鳴能力が高い。」と価値を見いだしてくれたばかりか、次の言葉を贈ってくれた。
「多くの人にその素敵な部分を与えていってください。
あなたじゃなきゃ、見つけられない人・あなたじゃなきゃ、ダメな人ってきっと沢山いると思う」
カウンセラーの勉強をしていく上で、うまくいかず落ち込んだ時、いつもこの言葉が頭によみがえってきた。心の支えになってくれた。
この言葉は僕だけにあてはまるのではないと思う。
どんな人にも贈られた言葉なのではないだろうか。
誰にも、両親から受け継いだ意思がある。
たとえ、今はそう思えなくてもいい。ずっと先のことだっていい。
けれど、果たせなかった、あるいは、夢に描いた意思を誰もが継ぐことができる。それは両親からの贈り物だということを頭のすみに置いておくだけで、人生を切り開いて行けるのではないか。
誰にも素敵な価値がある。
だからこそ、それを与えることで、自分だからできることを成し遂げられる。
自信をなくした時、迷った時には、思い出して。
あなたでなかればダメなことがあるはずだ。
最後にお二人に出会った時、僕は奥さんと娘と一緒だった。
別れ際に、僕たち三人で、お二人と抱き合った。
その時の心臓の音が今も忘れられない。
今度お会いする時には、僕たちは、そして、僕の周りのみんなはどこまで進んでいるだろうか。
そして、お二人はどんな言葉を贈ってくれるのだろうか。
その言葉に、また一歩、先に進むことができるのだろう。
次の再会を心から楽しみにしている。
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