茶色のヒール付きローファーの靴を、先日、捨てることになりました。
ブルーノ・マリというイタリアのブランドの靴なのですが、さんざん履きつくして、最後には左側の底の革がべろんとむけてしまったのです。
修理に出すも、革がはがれているので、一時的に接着剤でつけたものの再生は不能だといわれました。
それでも、なお、はき続け、また接着剤がはがれるとさすがの私も観念して手放すことにしたのでした。
この靴を購入したのは、1997年、イタリアに旅行をしたときのことです。
なんと、2008年まで現役生活を続け、ついにリタイアしたのでした。
この間、11年ほどです。
履き口に、レース風の模様がつけられていてフェミニンでありながら、渋めの茶色とつま先の柔らかめのスクエアカットが適度に辛口で、どんなスタイルにも合い、かつ、流行を感じさせることも古く感じさせることもなかったので、本当に重宝したのでした。
ちなみに、私は物持ちがよく、就職と同時に購入したローファーも9~10年ほど現役選手でした。
靴の種類にもよりますが、私は靴を丁寧に手入れながら、長く履くのが好きなのです。
学生のときに流行して読んだピーター・メイルの本に影響されているのかもしれません。
上質な革靴は、ミンクオイルで栄養を与えてあげると、足に柔らかくフィットして、年月と共にツヤが出てきます。
購入したときよりも深みが出て、なんとも贅沢な気持ちにさせてくれるような気がするのです。
きちんと手入れするときには、シューフィッターに入れて、いつも形が崩れないようにキープしたりしています。
私の靴はほとんどが現役選手なので、時々、仕事で忙しくなると、手入れがおろそかになり、そのときにできたヒビ割れが原因で、そこから悪化してしまうようです。
本当にきちんと手入れしたら、どれくらい持つのでしょうね。
この、ブルーノ・マリの靴は、初めてイタリアに言ったときに、迷いやすい路地にあるお店を、ようやく探し出して、購入したものです。
イタリアに旅行に行ったことのある方なら分かると思いますが、向こうの店員さん、女性なら男性客に、男性ならば女性客に大変親切です。
この差、あからさまです。
女性店員など、あからさまに、女性客は無視していますからね~。
逆に男性は、本当に女性に対して恭しく、親切です。
この分かりやすさ、ラテンの国って、好きです。
この靴を購入するときには、親切そうな初老の店員(♂)が丁寧に対応してくれました。
まず、ヒールを試着するのにソックスだったため、ストッキングをはいてくればよかったよ~、と思っていたのもつかの間、なんとおじさま店員は店の奥に入っていったかと思うと、うやうやしくひざまずいて、ストッキングを差し出してくれたのでした。
それなりの格好をしていったのですが、この状況でこのような貴族的な対応に気後れしそうになるも、ありがとうを言って、ソックスを履き替え(ダサっ)、いざ、試着。
デザインは気に入ったものの、サイズがほんの少し微妙です。
違うサイズのものは、そのお店にはなかったため、少しデザインの違う靴のサイズで確認をしたところ、サイズはそちらのほうがぴったりなのでした。
こちらのデザインでこのサイズはないのか、とカタコトの英語で話すと、おじさま店員は、在庫を確認し、近くの店にあるので取りに言ってくる、というのです。
確かに、当時、ブルーノ・マリの店は近隣に何店舗かあり、どの店に行くか迷った経緯があったので、そちらに見に行くと伝えたところ、自分たちがとりにいきますから、問題ない、といったようなことを言ってくれたのでした。
しかし、イタリア人は、気が長いのですよ~。
しかも、女性の店員さんが、おっちゃんに言われてしぶしぶ出て行ったのですから、時間がかかること、まちがいないだろうと踏んでいました。
私には、大丈夫、ノープロブレム、みたいなことを言って、おじさま店員はニコニコ。
目と鼻の先くらいの場所なのに、案の定です、なかなか、店員さんは帰ってきません。
そうこうしているうちに、尿意を催したのですが、ヨーロッパはトイレが有料なのは言うまでもありませんが、異常にトイレが少ないのです。
気候のせいなのか、ワインのせいなのか、民族間による体質の違いかは定かではありませんが、ヨーロッパの人たちはあまりトイレには行かないようなのです。
そのため、ヨーロッパ旅行は自ら断水旅行と称しているくらいですが、すでに催した尿意はいかんともしがたく、こんな街中ではトイレはなかなか見つかりそうにありません。
どうしよう~。
ダメモトで、お姉さん店員にトイレを貸してくれと頼むと、当然お断りされたのですが、すぐさまおじさま店員が駆けつけて、不満げな発言をしている女性店員を尻目に、これまた問題ない、とばかりに、従業員用のトイレに案内してくれたのでした。
その後も待ち続け、あまりに遅いのと、語学力の自信のなさから、もしかしたらまったく意図が通じていないのかもしれないし、これ以上待っていてもいいものか、という不安が限界になりつつあるころ、ようやく品物は届いたのでした。
待ったかいがあり、お気に入りのデザインで、私の足にピッタリだったのでした。
わあ~、ぴったり!!! 気に入ったわ~、ありがとう。
本当にぴったりで嬉しかったのです。
あきらめずに待ってよかった。
そんなことを伝えると、おじさま店員も満悦至極な表情を浮かべて、慇懃に対応してくれました。
私は満足な買い物ができたのですが、この一足のために必要以上に親切にしてくれたブルーノ・マリの靴屋さん。
旅行中に、客用でないトイレを使ったのは、このお店が最初で最後です。
ガイドブックにも、まず、お店では貸してもらえません、とあったので、本来であれば女性店員の態度が普通だったと思うのですが、おじさまは問題ないでしょ、とばかりに貸してくれたのでした。
どうみても、従業員用のものでした。
あのときは、ありがとう。
他にも、イタリア旅行中にいろいろなひととコミュニケーションをはかりましたが、本当にイタリアはステキなところでした。
あまりに包装に時間をかけるので、急いで頂戴、といったところ、丁寧になっておまけまでつけてくれたマーブル模様専門文房具屋のお姉さん。
私の身長に合うのは小ぶりなバックだと、安いほうを勧める店員さん。
広場でハトにえさをやっていたお兄さんは、自分と同じようにえさをやれ、と私に分けてくれたのに、私は途中で不安になって、いいです、と手をひっこめてしまったので、えさがバラバラこぼれてしまったことは、今でも心残りです。
笑顔から、悲しそうな顔になってしまったこと、お兄さん、せっかく親切にしてくれたのに、受け取ることができなくてごめんね。
あれから、11年。
ずっと大切にはき続けてきた靴。
一番のお気に入りでした。
ブルーノ・マリの靴は、購入時のエピソード、デザイン性、はきやすさ、どれをとっても、本当にステキな靴でした。
この靴に代わって、また、ステキな靴がやってきますように。
最後の手入れをして、感謝して手放したのでした。