勤勉な日本人

 一昨年のことですが、オーストラリアの東海岸、クイーンズランド州のレインボウ・ベイという町へ行ってきました。
ゴールドコーストの有名な観光地サーファーズ・パラダイスから南へ25キロ、キラー・ポイントなどのサーフィンの国際大会が行われるようなサーフポイントが連なるエリアです。
 
 飛行機に乗って翌朝には、青い空と青い海が果てしなく広がり、砂浜にはサーファー、歩道はジョギングをする人が行き交い、芝生の上では愛犬とお年寄りが散歩をしている、そんな映画で見たような風景の中にいました。
宿泊先の手配を、サーフィンが大好きなオーストラリアの知人に任せっきりにしたためにそういう状況になったのですが、日本人の観光客が少ないエリアに滞在することになり、お陰で貴重な体験と数々のエピソードの残る思い出深い旅になりました。
 
 散歩をしたり、プールサイドで昼寝をしたり、近所のスーパーで買物をして料理をしたり、半日のレクリエーション・ツアーに参加したりと、欧米人のバカンスのような過ごし方にも飽きたので、対岸に見える摩天楼サーファーズ・パラダイスへ出かけることにしました。
中心街のモールに入ると、ハワイのアラモアナ・ショッピングセンターのように大勢の日本人の観光客がいて、お店でも日本語で店員さんが対応してくれ、日本からたった数日離れていただけなのに懐かしさを感じました。
 
 夕食は、ガイド本にも載っていた地元オージーたちにも人気の日本料理店で食べることにしました。
寿司や天ぷらといったいわゆる和食ではなく定食屋のようなお店ですが、周囲には他にも飲食店があるのに、そのお店だけが予約でいっぱいで、空席待ちのお客さんが並んでいました。
オーナーに繁盛の理由をきくと、「うちは厨房もホールも日本人だけを雇っている。よく働いてくれる。」という言葉が返ってきました。
 
 日本人はお金持ちで真面目、というのが外国の人たちの印象のようです。
また、勤勉であるというのも特徴で、日本人の仕事観は世界の中でも異質のようです。
その背景には、様々な要因が重なっていますが、宗教性と倫理性が大きく影響しているという見方があります。
 
 キリスト教やイスラム教は一神教であるため、その文化圏では、倫理性を含む行動パターンが非常にはっきりしているのだそうです。
自分の仕事が終わればすぐ帰ってしまうし、夏休みには1ヶ月くらいは平気で仕事を休むし、働くこと、遊ぶこと、聖なることが明確に区別されています。
一方で、日本人は、仕事が遊びよりも優先されたり、家族よりも職場の仲間と過ごすことが多かったり、勤勉に働くことを快いと感じたり、職人気質という言葉に象徴されるように仕事を極めることに倫理的陶酔を感じるように、働くことが、遊ぶことや聖なることと結びついている場合が多々あります。
 
 どちらの仕事観が良い、悪いというものではなく、比較してみると違いがあるということです。
勤勉に長時間働くからこそ経済的な発展を遂げているという一面もあるでしょうし、価値観が包括的に連動しているので、雇用不安や景気の落ち込みが漠然とした将来の不安感に結びつきやすいという傾向もあります。
将来に不安を抱く日本人は90%と、他の先進国に比べて突出して多いという調査データがあるそうですが、その不安感、本物なのでしょうか?他の国から日本を眺めたら、「どうしてそのように不安なのか?」と疑問に思うかもしれません。
 
 時には普段と異なる生活の中に身を置き、違う価値観で現在の状況を眺めてみることも、必要なことかもしれないと感じました。

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