いい子はつらいよ

先日、講座で感情と行動のパターンのお話をしました。
事例に挙げたのは、本を読んでいて目にとまった「男はつらいよ」の寅さんの話でした。
ご存知の方が多いと思いたいところですが、“昭和”の映画なので、少し解説をしますね。
渥美清さんが演じるフーテンの寅さんこと車寅次郎は、祭りや縁日の屋台を出店するテキ的屋稼を営んでいます。
全国を渡り鳥のごとく飛び歩いては、時々ふらっと異母妹さくらと叔父夫婦が住む、東京の下町、葛飾区柴又の草団子屋に戻ってきます。
寅さんは、旅先や柴又で美しいマドンナに出会い、いつも惚れ入ってしまいます。
マドンナも寅さんに好意を抱くのですが、「寅さんって、いい人」で終わり、恋愛感情には至りません。
やがて、マドンナに恋人が現れて、寅さんはふられてしまいます。
「やっぱり俺じゃぁな」、「俺は駄目な奴だからな」と、ひどく落ち込む寅さん。
正月前や盆前の家族団らんの時期を目前に、また独りテキ屋稼業の旅に出て行くというお話です。
話がパターン化しているので、映画をみる観客は、前作同様、マドンナが現れて、寅さんが失恋して、ふらっと旅に出る、という結末が分かっているのだけれど、ついつい見てしまうのです。
スリリングで展開の早い最近の映画と違い、そこには予定調和的な安心感があって、それも人々を魅了した要因の一つではないかなと、私は思っています。
さて、なぜ寅さんを引き合いに出したかというと、最近また、私自身のパターンに気づいたからです。
それは、「いい子はつらいよ」といパターンです。
そもそも、“いい子”を演じてしまう背景には、「私は悪い子だから、嫌われる。愛されないのだ。」という気持ちがあります。
だから、嫌われないように、愛されるように“いい子”であろうと努めるのですが、それをやっていると、本来の自分を偽っているようで非常に息苦しく、窮屈な感じがしますし、とても疲れます。
ほとほと疲れ果てると、「もう自分を偽るのをやめて、本来の自分に戻ろう」と思うのです。
そして、いい子の“子”に相対する存在は“親”ですから、私のこのパターンは、実の親に対してはもちろんのこと、親に当たるような存在、仕事では上司、社会では権威者の間で展開されます。
カウンセリングサービスのカウンセリングを受け始めて、自身もカウンセラーになり、かれこれ10年が経ち、よく解かっているつもりが、またこのパターンをやらかしている自分に気がついたのです。
ご存知かと思いますが、私は10月末をもって、カウンセリングサービスを退会いたします。
退会することは、私にとっては、親元を離れるようなものです。
そのような“分離する”を感じるような心理状態にあるとき、いい子は思うのです。
「私は異端児のようだ」と思ってみたり、「悪いのは親だ」と自分を被害者の立場において相手を非難してみたり、「何か悪いことをしているみたいだ」と自分を極悪非道の加害者のように感じたり、「私は親を裏切っているのではないだろうか」と自責してみたり。
いろんなネガティブな感情が次々と湧き出てきます。
そんな感情を感じている時、「あっ、そうだった。そもそも、“離れる”と決めたのは私じゃないか。」と思えた時、笑いが出てきました。
しかも、10年間もかけて、このパターンを踏襲して学びなおしたのかと思うと、自分で自分に呆れもしました。
振り返ってみると、初めて恋をした時も、結婚する時も、社会人となる時も、転職する時も、いろんな節目で同じようなパターンを、まるで寅さんのように繰り返していたのかもしれません。
また、ただ“離れる”それだけのことなのに、よくよくいろんな事をやらかしては、ネガティブな感情を感じるように、自分自身に仕向けているものです。
親の側から見れば、いい子も悪い子もなく、ただ愛情をかけた子であり、それは生まれてからずっと変わりがないことなのに。
今回は、いままでよりも更に奥深い自分の意識に気づくことができましたし、渦中にあって気づいたので、だてに心理学を10年間も学んできたわけではないなと、少しは成長できたかなと思っています。
また、今後同じような状況になったら、パターンにはまってしまう前に気づくようになれればいいかなと思っています。
おそらく、これから先も、私自身の学びは続くことでしょう。
私は、神戸メンタルサービス(カウンセリングサービスの母体)で、自分を癒しながら心理学を学んできて、本当によかったなと思っています。
自分が試していいと思ったことなので、みなさんの今抱えていらっしゃる悩みや課題にも、カウンセリングサービスのカウンセリングは、お役に立てるのではないかなと思います。
最後になりましたが、みなさんのご多幸とご健勝をお祈りいたしております。
永い間、ご愛顧いただき、ありがとうございました。

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