私の母はどちらかといえば男っぽいといいますか、優しいというよりは、たくましい感じの母でした。
小学校や中学校では、家庭訪問と言うのがありますが、家庭訪問の翌日、先生から、「お前の母ちゃん怖いな。」と言われたことが2度もあります。
ちなみに母の見た目はといいますと、私が幼い頃、若いころの母の写真を見たときに、思わず「妖怪人間のベラそっくり!」と思った事もあるような感じですから、確かに、第一印象であまり優しそうな印象は持たれないかと思います。
幼心に、「もっと優しいお母さんだったらよかったのに。」と思うことも何度もあったのですが、今思えば、それは全くの失礼な話で、実際には、誰よりも優しい母だったと、今なら素直にそう思えます。
そんな私の母が、一体どんな母なのか、よくわかるエピソードがあります。
これはまだ私が小さかった頃の話ですが、家族4人で車で旅行に行った時の話です。
その時は父が運転し助手席に母、そして後部座席に私と妹が座っていました。
移動の途中、信号で止まったときに、隣の車線には大きなトラックが並んでいて、そのトラックの運ちゃん(トラックの場合はなぜか運ちゃんと言ってしまうのは私だけでしょうか?)が、父に”いちゃもん”のような事を言いだしたのです。
一体何があったのかはわかりません。
でもきっと、運ちゃんにとって、文句の一つも言いたくなるような事があったのでしょう。
私は、意味よくわからないまでも、その雰囲気を怖いなと感じていました。
そして、それに対して、父は何も言い返さず、黙って事が過ぎるのを待っているような感じでした。
けれども、そんな時ほど信号機もなかなか青に変わってくれません。
そして、そんな状況に業を煮やした母は、助手席から一言、「おい!そんな高いところから何ごちゃごちゃ言うとるんや!言いたい事あったら、ここまで降りてこんかい!」と言い放ったのです。
私は、運ちゃんよりも、母の一言の方が怖いなと思ったのですが、それを聞いた運ちゃんは、「おう!降りていったるわ!待っとれ!」と、なんとトラックのドアを開けて、こっちに向かってきたのです。
そして、運転手側から顔をのぞかせるようにした運ちゃんに対して、母は、顎を突き出すようにして、今度は こう言い放ちました。
「おい!」
私は、なんて言うんだろうと思いました。
ゴクリと唾をのみ込み、次の言葉を待ちました。
「おう、なんや?」
運ちゃんも、母の言葉を待ちました。
そして、次の瞬間、母は言いました。
「信号、青になっとるぞ。はよ行いかんかい。」
私は、思わず顎が落ちそうになりました。
自分から降りて来いと呼んでおいて、実際に降りてきたら、はよ行けと言う訳ですから、さすがにこれでは運ちゃんを余計に怒らせてしまったなと思いました。
しかしながら、運ちゃんも、実はそれほど悪い人ではなかったようで、母の言葉を聞いて、「おう!わかったとるわ。今行こうと思ったところや。」と捨て台詞を吐きながら、トラックに戻っていき、そのまま発進していきました。
今思えば、まるで吉本のコントだなと思えるようなエピソードなのですが、母だって、その運ちゃんが怖く無かった訳では無いと思うんです。
でも、家族を守るためだったら、自分よりもうんと強そうな人でも、果敢に立ち向かって、追い払おうとするのですから、こんなに優しい人はいないなって思うんです。
今回は、内面的な性質(今回の場合は、優しさ)は、表面的な、見た目や、態度ではわからないよというお話でした。
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