みんなでひとつの音に

以前このコラムでも書いたのですが、私の好きなものにガムランがあります。
ガムランは、インドネシアの民族音楽(楽器)で、青銅で出来た何種類もの楽器をみんなで叩いて、
それが合わさってなんとも言えないひとつの音、メロディーを奏でます。
ガムランと言っても、その地方ごとにそれぞれのガムランスタイルがあり、私が習っているのは
ジャワガムランと呼ばれるものです。
週に1回、その講座に習いに行くのですが、毎年、練習をしているスタジオで内輪の発表会があります。
今年は11月に、演奏グループが毎年あるお寺の行事で演奏をしているご縁で、そのお寺の中にある催しができるような
場所を借りることになりました。
私たち講座(平日講座と日曜講座)グループが2つと講座でガムランを教えてくれる演奏グループ(ランバンサリ)、
そして、竹でできたチャルンという楽器のグループの4つのグループの参加です。
 私にとっては2回目の発表会です。
私たちのグループは3曲の演奏で、曲ごとに楽器も変わります。
私が挑戦した楽器も3種類、ボナン、パキン、クンダン(太鼓)と
いうものです。
。私にとっては難しいものだったのですが、やりたくて選びました。
今までにどの楽器もやってはいるものの、いつもより少し難しいバージョンでの演奏だったりもして、どれもなかなか上手くいきません。
毎週の練習も、1曲につき2回程度しか練習できないので、出来ない箇所はそのままになってしまいます。
練習後、先生に個人練習をしてもらうのですが、ガムランはみんなと合わせてこそひとつの曲になるので、練習では出来るようになったつもりでも、すべての楽器と合わすと、聞こえてくる音(響き)が違う、メロディー部分が聞こえないなどで、
「わかんな~い!」と何度思ったことか。ガムランは短い曲を繰り返すことが多いので、途中でどこをやっているのかわからなくって立ち往生したり、ホントに大変でした。
失敗するたびに、「ああ、出来ないのに難しいのを選んじゃって、みんなに迷惑かけてる。」と申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
ガムランが好きなのに、上手になりたいのに、なかなか飲み込めなかかったり、ついていけなかったりすると、気持ちは本当にブルーで暗くなっていきます。
発表会で失敗する不安の前に、「私って、やっぱり何をさせてもダメだなあ」なんてエゴの声がいっぱい聞こえてきます。
私以外のメンバーは、講座が始ったころからやっている10年選手や5年以上やっている人たちで、いろんな楽器をサラッと弾きこなします。
 
みんな心の中では「いい加減にしてよ!」と本当は思っているんじゃないかな、なんて考えも浮かんできます。
そんな声が頭をよぎるのですが、実際には、みんな「大丈夫だよ。出来てるよ」と、足をひっぱる私に嫌な顔ひとつせず、励ましの声をかけてくれます。
「すみませ~ん」と言いながら、出来るだけ気持ちを外に向けるように、萎縮しないように、と心の中でつぶやきながら、みんなの音についていこう、溶け込めるようにと意識していました。
毎週の練習で、少しずつわかりかけて、出来るところも増えてきたのですが、どうしても上手くいかないところもあります。
練習が終わると、曲を練習し始めた頃より分かるようになった、出来た!という思いと、なんでいつも出来ないの、と
二つの気持ちが出てきます。
 だけど、そこは心理学を学んでいる者としては、「出来たところを褒めよう」と自分をおだてながら、練習に通いました。
いよいよ発表会当日。まずは、楽器の移動と設置です。
小さい楽器、大きな楽器をみんなで運び込むのですが、テキパキとみんなが作業をして
リハーサルが始りました。
ガムランは、会場や楽器の置き方で自分に聞こえてくる他の楽器の音も変わるので、ドキドキです。
案の定、曲の途中で自信がなくなり迷子になってしまいました。
 だけど、「ガムランやってる人くらいしか、間違ってもわからないよね」と言い聞かせたり、そのお寺の境内を歩いてみたりと、気分を変えて本番です。
そして、本番。スタジオでの発表会だと出演者=観客ですが、今日はそのお寺の近隣の方や、出演者のお友達が来ていたりと、お客様もいます。
私のグループの最初の曲が、私にとっては一番の鬼門。不安がいっぱいです。
 ルバブという弦楽器を合図にその曲は始りました。
いつものように、「あ、しまった。」とか「え、わからない~」と心の中で叫びながら、必死に平気なふりをして、なんとか無事に終わりました。
出番が終わると、「失敗しちゃった」とみんなが口々に反省の弁を口にしたり、「大丈夫、わからないよ」とか言い合ったりしています。
私もミスってはいるものの、「自分としては頑張ったよね」と自己承認をするものの、「なんで失敗しちゃったんだろう」という思いもありました。
でも、みんなで一生懸命に音をひとつにしようと合わせ、心地よい音色にしようと出来たことは、満足感がありましたし、少し難しいことに挑戦して、みんなに迷惑をかけたかもしれないけど、やってよかった!出来てよかった!という気持ちが
広がりました。
 どのグループも無事に終わって、発表会は幕を閉じました。
その翌週の練習日は、発表会での演奏ビデオをみんなで見ることから始りました。
 どんなふうに聞こえていたんだろうと、失敗したところが目立ってたら嫌だなあ、と思いながら見たのですが、感想は「けっこういい感じやん」ということ。
楽器を叩いている時に聞こえる音と全く違って、いろんな楽器の音が合わさり、調和のとれた音が響いていました。
楽器も心も合わさって、みんなでひとつの音にしていくこのおもしろさ、楽しさがガムランの醍醐味なんです。
まだまだ頑張って練習していこう、っと。次はもっと上手くなっていたいと思います。
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この記事を書いたカウンセラー

About Author

自己否定、自己嫌悪、疎外感、自己肯定を得意とする。「その方の心に寄り添い、一番の味方でいること(安心感)」をモットーに、わかりやすい言葉で恋愛問題や対人・自己との関係を紐解き、改善・生き易さへと導いている。  東南アジア2カ国での生活経験もあり、国や文化の違いについても造詣が深い。