カウンセラーをしていると、動くことがあまりないので、ついつい運動不足になってしまいます。
そのため、私は週に2回ほどジムに通って、ウェイトトレーニングをしています。
運動をすると頭もスッキリするので、ジムに行くことは、私にとって大切な息抜きの時間になっています。
ウェイトトレーニングでは、トレーニングごとに約1分間の休憩をとります。
この1分間は、特にすることがありません。
なので、私はその間、ボケーっと他の人がトレーニングしている姿を見たりしています。
先日、50代くらいの男性が、女性コーチにトレーニングのフォームを教えてもらっていました。
女性コーチは40代くらいで、元気で明るくハキハキと説明をしていました。
男性の方は、堂々としていて、会社を経営していたり、仕事で重要なポストについている人のような雰囲気を醸し出していました。
「このトレーニングは肩甲骨の動かし方が難しいので、まず、私がやって見せますね。」
自分のフォームを男性に見せながら、女性コーチは分かりやすくトレーニングの要点を説明していました。
「とにかく、肩甲骨を意識することが大切です。
それでは、やってみて下さい。」
男性は、女性コーチに教えてもらったように、肩甲骨をしっかり動かしながら、丁寧に動作を行ないました。
それは、正しくて綺麗なフォームでした。
「すごく良いフォームですよ。素晴らしいです!」
女性コーチは嬉しそうに伝えました。
その瞬間、男性が小さな声で言いました。
「バカにしてんのか!」
その言葉を聞いた女性コーチの顔は、凍りついていくように見えました。
心理学的に、人は自己嫌悪が強ければ強いほど、他人から褒められるとバカにされたと感じてしまうことがあるようです。
「こんな自分を褒める人間などいない」
そんな自己認識を持っていると、人は他人から褒められた時、信じることができなかったりします。
そして、疑います。
「なぜ、この人は嘘をついてまで私を褒めようとするのか?」
「私を騙そうとしているのか?」
「それとも、私をバカにしているのか?」
もしかしたら、あの男性はそんな風に感じてしまったのかもしれません。
女性コーチの凍りついた表情を見て、男性はハッとした様子でした。
そして、すぐにバツの悪そうな表情になりました。
2人の間には、恐ろしいくらいの気まずい空気が流れていました。
先に歩み寄ろうとしたのは、男性の方でした。
「いや~、疲れたな~。」
なんとかして笑顔を浮かべながら、男性はそう言いました。
それはまるで、さっきの出来事はなかったのかのような一言でした。
その言葉の裏には、「自分の気持ちをどう説明していいのか分からない」、「あなたを傷つけるつもりではなかったんだ」、そんなニュアンスが含まれているように、私は感じました。
女性コーチも、少しずつ笑顔を取り戻しながら言いました。
「そうですよね、疲れますよね。」
女性コーチのそんな大人な対応によって、2人の空気はゆっくりと緩んでいくように見えました。
カウンセリングをしていて、「心理学系のブログや本を読んで、人を褒めた方が良いと書いてあったので、夫に実践してみたのですが、少し嫌がられました…」というご相談を受けることがあります。
その理由としては、おそらく今回の出来事のように、ご主人が潜在的に自己嫌悪を持っているという可能性が考えられたりします。
そのような場合、褒める熱量を少し下げてあげることは、1つの解決策になります。
大きく褒めるのではなく、小さく褒めてみてあげてもいいのかもしれません。
そして、「どんな言葉なら喜んでもらえるかな」と、色々試してみると、今まで気づかなかった新しい発見があったりします。
「こんな言葉にこの人は喜ぶのか」
「こういう言葉だと嫌がるみたいだな~」
そんな風に彼を理解していくと、2人の関係性がどんどん良くなっていく場合があります。
私個人としては、女性に褒めてもらえることは、すごく嬉しいけど、やっぱり少し恥ずかしい感覚があります。
「もし自分が女性コーチに褒められたら、とりあえずニヤニヤして下を向くだろうな」と思いました(笑)
そんなことを考えたりしながら、私は今日もジムに通っています。
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