父の思い出

今年も間もなく父の命日がやって来ます。
人が生まれてから生きていくうえで、一番大きな影響力を持っているのは親だと言います。
それはそうでしょうね。
父が亡くなってから、もう20年近く経ちますが、今くらいの時期になると、どうしても父の思い出が胸をよぎります。
大正生まれの人でしたから、それこそ厳格で頑固一徹な”昔の日本男児”のようなイメージが思い浮かびそうですが、案外そうでもなかったのですよ。
戦前生まれゆえ、戦争中は長年兵隊として戦地へ行き、苦労もしたようです。
生きながらえて無事日本に帰って来てから、母と遅い結婚をしました。
父はその年代の人にしては、妻である母を大切にしていましたし、私たち子ども(姉と2人姉妹)にも、厳しいだけでなく優しく深い愛情をかけてくれていたと思います。
もし父が戦死していたら、私という人間はこの世に存在しなかったんだな、などと神妙に考えたこともあります。
父はさほど愛情表現に長けた人ではありませんでしたが、子どもの心情については、かなり的確に理解していたと今になって思うことがあります。
父の人生のどこで、どうやってそんなことを身に着けたのか不思議です。
私が大人になってから、何かの機会に母から聞いた話なのですが、
「子どもにウソを言ってはいけない。約束したことは必ず守らないといけない。」
と常に言っていたそうです。
この言葉だけをとらえると、しごく当然で当り前のことを言っています。
けれど実生活の中では、大人は大人の事情で結果的に言っていたこととは違うことをやっている場合があります。
それが子どもの目から見た時【大人は嘘つき】に見えてしまう、ということを父は言いたかったのではないかなと思います。
゜゚*☆゜゚
その昔、事情があって父母は父の兄の息子を預かって、育てていたことがあります。
つまり、父にとっては甥っ子で、私にとっては従兄ですね。
父の兄が早くに亡くなってしまったので、伯母の生活のメドがつくまでということで、しばらく預かることになったそうです。
従兄は子どもの頃、かなりのゴンタ坊主で、父親のような存在が必要だったというのも理由の一つのようでした。
私たち姉妹は従兄を「おにいちゃん。」と呼びましたし、
従兄は私の両親を「おとうちゃん、おかあちゃん。」と呼んでいました。
実の兄妹であっても、ちょっとしたことで親の愛情を取り合って、すねたりひがんだりするのは日常茶飯事です。
ですから、自分の子どもと甥っ子を分け隔てなく育てるということは、父母にとっても大変なことだったと思います。
ある時母が、従兄に何気なく言った言葉で父に叱られたことがあったそうです。
今だに時々思い出して言う話ですから、よほど印象に残っていたのだと思います。
それは、母が従兄と話をしていて、どこかに遊びに行きたいという話になった時
「そしたらそのうち、おとうちゃんに連れて行ってもらおうな。」
と、母が言ったのを父が聞いて、
「子どもにそんないい加減な約束をしてはいかん!」
と、たしなめられたのだそうな・・・。
よくある会話ですよね。
もちろん、大人としてはその話をしている時には、子どもに
『そうしてあげたい、喜んでもらいたい。』と思っている訳です。
子どもは大喜びで、連れて行ってもらえるものだと思って毎日ワクワクしながら待っています。
ところが、日々の忙しさにかまけて、具体的に”いつ”とも決めていなかった口約束は、
「ねぇ、いつ連れて行ってくれるのん?」
「そうやなぁ、そのうちにな。」
こんな会話を繰り返しているうちに、立ち消えになってしまうこともあります。
それこそ前記したように、大人は大人の事情で言っているのですが、子どもにとっては大きな失望なんですよね。
何度かそんなことが繰り返されると、大人に対する不信感につながってしまいそうです。
もしかしたら、父自身もどこかで子どもに対してそんな曖昧な対応をして「おっちゃんの嘘つき!」と言われたことがあったのかもしれません。
大人の事情を理解できない子どもには、小さなことでも誠意をもって対応すること。
小さなことに誠実な人は、大きなことにも誠実でいられるはず。
このような父の考えの元で育ち、約束事は必ず守ってもらってきました。
けれど、子どもの頃にはそのことがどれほどの価値のあることだったか、気付けていなかったような気がします。
゜゚*☆゜゚
従兄は中学校に上がるのを機に、伯母の元に戻っていきました。
その後も我が家にはしょっちゅう顔出しして、育ての親である父母を慕っていました。
時は流れて父も伯母も亡くなり、今やもう従兄自身がかなりな高齢者になってしまいましたが、時折
「今の自分があるのは、おとうちゃんのおかげや。」
などと言うことがあります。
本音だと思います。
親の深い思いには、年齢を重ねてようやく気付けるものも沢山あるようです。
今、改めて父に「ありがとう」の思いを込めて感謝したいと思っています。
お父さん、ありがとう。
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この記事を書いたカウンセラー

About Author

1957年生まれのシニア世代。 自身の豊富な人生経験を生かした、自分らしく生きていくためのサポートが好評を得る。 得意ジャンルは、対人関係・自己啓発・恋愛。 “何かを始めるのに遅すぎることはない”の言葉通り、いくつになっても新しい人生を切り開いていけることを、身をもって実践している。