コンプレックスを作る背景には身近な人との関係性(比較や競争)が関係していることがあります。
それならば、その関係性を変えなければ、コンプレックスもまた解消されないのです。
なぜ、そのコンプレックスを持つようになったのか、はとても大切な解消方法と言えるのです。
コンプレックスのもっと深いところのに解決のヒントがある。
ある主婦のDさんは「主婦なのに家事が苦手。特に料理と掃除が全然ダメ」と自分を責めておられました。
もともと片付けられないのがコンプレックスな上に、料理も味付けに全然自信がなくて何度も料理教室に通ったそうです。でも、全然うまくならないんですね。
「妻たるもの、家のことはちゃんとしなければならない」
彼女の中にはそんな強い思い込みがあったんです。
なぜなのでしょう?
Dさんのお母さんはそれこそスーパーウーマンでした。
フルタイムで仕事をし、その上、家事も完璧にこなすお母さんだったんです。
忙しく仕事をしながらも、家はきれいだし、毎食手作りのご飯がテーブルには並び、Dさんがクラブ活動を始めたら、朝早く起きてお弁当までちゃんと作ってくれました。
Dさんにとってはそれが「妻・母の基準」になってしまったのです。
だから、お母さんのようにきちんと家事ができない自分を責めるようになったのです。
ということは、彼女の場合、家事ができない、というコンプレックスの原因は「お母さんとの競争」ということになるんです。
だから、もし彼女が料理がうまくなり、片付けができるようになったらそのコンプレックスは解消されるのでしょうか?
いいえ、おそらくまた違う要素でお母さんと自分を比較し、ダメなところを見付けて来てコンプレックスにするはずです。
すなわち、Dさんにとっては「お母さんとの関係」を癒すまでは、コンプレックスを何かしら持ち続けなければいけなくなるのです。
カウンセリングではお母さんとの関係を掘り下げて行き、その関係性を癒すようなセッションを幾度か持ちました。
「ありがたい」と思う一方で迷惑と感じていたこともあれば、そんなお母さんのことを尊敬し、大好きだと感じているのも事実。
でも、絶対越えられない壁としてお母さんを認識し、それがコンプレックスの原因になっているのでした。
お母さんを許していくプロセスと並行して、いくつかのチャレンジを彼女にして頂いたんですね。
その一つは、お母さんに自分のそのコンプレックスを打ち明けることでした。
これは競争を手放し、負けを認めることで、そこから自由になることを意味します。
勇気を出してお母さんにそのことを伝えたら、お母さんに大笑いされたそうです。
「私は好きでやってたのよ。仕事を続けたいってお父さんに言ったら、家のことをちゃんとすることが約束って言われたから、家のことも頑張ったけど、もともと家事も好きなのよ。ママが料理やお裁縫が好きなこと、あなたもよく知ってるでしょ?私とおんなじようにしなくていいのよ。DちゃんはDちゃんらしくすればいいのよ」と。
その話を聴いたDさんは「拍子抜けして脱力した」と言います。
何を今まで無理して頑張って来たんだろう、と。
そして、もう一つのチャレンジはご主人へ“お願い”することです。
「家事をきちんとしてこその妻」と思っている彼女は、それがちゃんとできていないことで、自分は妻失格であると烙印を押していました。
でも、ご主人はずっと一緒にいてくれるのです。
「ありがとう」と言う感謝の気持ちと共に、「家事がちゃんとできない自分でも奥さんにしてくれますか?」とお願いすることを課題にしました。
これ、意外に難しいんですね。
分かっているんです。「Yes」という答えをもらえることを。
でも、それは自分が本当にダメな人間になるような気がしてなかなか許せなかったのです。
でも、これを読んでる皆さんは彼女がどれくらい頑張り屋さんか分かりますよね。
本人はなかなか受け取れないのですよね(笑)
そして、そういうところも認めつつ、ご主人に告白です。
直接言うのは恥ずかしいからと手紙を書いてもらいました。
そして、またご主人からも大笑いされることになったのです。
というのも、ご主人、料理好きなのです。そして、何よりもアイロンがけを愛し、家電マニアゆえ、各種掃除機・洗濯機にも精通する人物だったのです。
元々積極的に家事をしてくれたご主人だったのですが、奥さんはそれを「申し訳ない」と罪悪感にしてしまっていたのです。
ただ「ありがとう」と受け取って感謝すれば良かったのに、コンプレックスがそれを阻害していたのです。
それ以外、ご主人は意気揚々とキッチンを占拠し、朝晩の食事を作ることはもちろん、暇を見つけて常備菜、燻製、味噌作り、梅干し・ラッキョウ・ぬか漬け等に勤しんでいるようです。
そして、ご主人が料理をしている間、彼女は向かいのテーブルに座って晩酌をしながら、ご主人とあれこれと会話をするようになりました。
「ふつうの夫婦と逆ですよね。でも、それが私たちにはちょうどいいって気付いたんです。」
彼女は料理がうまくなったわけでも、掃除ができるようになったわけでもありません。
でも、幸い彼女にはそれを得意とするパートナーがいました。
思い込みや競争心は「ルール」「観念」「意地」「プライド」を作って、不自然な関係性を築きます。
ただ素直に感謝して受け取るだけで、関係性はグッと変わるし、自分も断然楽になるのです。
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さて、Dさんは「たまたまそういう夫に巡り合えただけ」なのでしょうか?
特別なのでしょうか?
パートナーシップはバランスを取り合うものです。
あなたが苦手とするところは、彼の得意なところである可能性も高く、また、別の方法(たとえば、家事代行を雇うなど)で解消できることもあるのです。
コンプレックスを克服するためにかける膨大なエネルギーとお金を考えれば、今の自分自身を受け入れ、苦手なところを誰かに頼む方がずっと楽になれるのです。