後悔の心理学~どう付き合い、何を学べばいいのだろう?~

私達が感じたくないものの一つ「後悔」。今回は改めて正面から向き合って見ましょう。後悔が教えてくれるもの、そこから知る意外な真実とは?

「後悔」とは「ああすれば良かった、こうすれば良かった」と後から物事を悔いることで、私達がぜひ避けたいと思っていることの一つだと思います。

恋愛でも、仕事でも、対人関係でもそういう機会はたくさんあります。
「あの時、こうしておけば彼の気持ちは変わらなかったんじゃないか?」
「あそこで、あんなことを言ってしまったばかりに彼女の気持ちを遠ざけてしまった」
などと、特に関係が終わってしまったり、ギクシャクした後でよく思うものかもしれません。

“後悔先に立たず”という諺もありますが、後悔しても致し方なく、どうしようも取り戻せないもの、と頭で分かっていても執着心が勝ってしまう事もあるでしょう。
そして、そんな自分に酷い自己嫌悪を抱くことだってあるでしょう。
でも、人はそんなに強くないもので、後悔して嘆くこともまた学びであり、人間らしさではないかと思うのです。
怒りや嫉妬と共に嫌な感情トップ3に入るかと思われる後悔ですが、この気持ちと上手に付き合うためのアプローチを考えていきましょう。

“後悔”はなぜ苦しいのだろう?

何かを後悔することがなぜこんなに苦しいのかといえば、それは、もう取り戻せない過去に由来するものだからかもしれません。
例えば、割れてしまった花瓶がもう元に戻らないように、「もし、時が戻れば・・・」と意識が過去に向かう分、私達は未来に背を向け、現在から目を逸らしてしまうことになるでしょう。

その時、意識は“今”ではなく、過去の中で生きることになります。

「あの時こうしていれば・・・」
という思いから、過去の出来事を反芻し、別のアプローチをシミュレーションし、そして、何度も湧き上がってくる自責の念に駆られ、また、誰かを攻撃して自己嫌悪から逃れようとしてしまうかもしれません。

未来に背を向けた分だけ、これから先の将来は不安に苛まれることとなります。
また、現在から目をそむけている分だけ、足元がふらついて一層不安感が募るでしょう。だから、ますます暗闇の中に落ちていくかのように絶望してしまうのです。

そして、どうしようもないものと頭で理解していても、気持ちが過去にある限り、まるで前に向かって進むエスカレータで、後ろ髪をずーっと何かに引っ張られてるかのように感じてしまうんです。
その不快感というか、違和感というか、そんな気持ちが後悔を際立たせる理由になるのかもしれません。

皆さんも前に向こうと、明るい気持ちでいようとした時に、ふっと脳裏を過ぎる後悔の念に苛まれたことが一度や二度はあるのではないでしょうか?

その“重み”が後悔のもたらす一番の苦しみかもしれません。

最大の後悔は「できるのにしなかったこと」

一番大きな後悔は「分かっていたのにしなかった」「できるのにやらなかった」という何もしない罪悪感に基づくものかもしれません。

例えば、離婚のカウンセリングでも「離婚したくはないけれど自分なりにベストを尽くせた」と感じられたとき、離婚は自分の人生の汚点でも後悔でもなく、一つの前向きな選択肢として位置づけられるようになります。
でも、「もっと優しくしてあげたら・・・」「ちゃんと話を聴いてあげられたら・・・」と、本当はできた(かも知れない)のにしなかったことがあれば、相手に対して強い執着を感じ、離婚にしても、結婚生活を続けるにしても前向きな気持ちにはなれません。

私達はできなくても、自分なりにベストを尽くせたら後悔はしないか、あっても少ないものです。
スポーツ選手などが敗れた後に爽やかに「ベストは尽くせました」「自分なりにゲームができたと思います」と語れるのも、そのためかもしれません。

“自分らしさ”から外れてしまった?

でも、そこで「もっと優しくできたのに・・・」と感じる所以は何なのでしょうか?
あなたがもし今何かに後悔しているとしたら、その実態によく目を向けてみると、そこに素晴らしいものが隠されていることに気付けるはずです。

それは、後悔していることは本来のあなたの姿を映し出している反面教師ということ。
すなわち、「もっと優しくできたのに」とあなたが後悔しているということは、本来のあなたは“優しい人”なわけです。
「もっと話を聴いてあげられたのに」と感じてるとしたら、あなたには人の話を上手に聴く才能があるのかもしれません。
「色々してあげたいことがあったのに」と思ったら、あなたはとっても与え上手な人なのかもしれませんね。
(だから、多くの人の後悔は「もっと愛してあげられたのに」なんだろうと思います。誰にも「愛する」という才能はありますから)

つまり、あなたが後悔しているのは、あなたは本来自分がもつ才能を使わなかったからであり、逆に後悔は、その才能に気付かせてくれる大きなきっかけになるんじゃないでしょうか?

「もっと優しく・・・」と感じるのならば、自分が本当は優しい人間で、でも、怒りや罪悪感、無価値感などから優しくできなかったことを受け入れる時なのかも知れません。
そこで優しくできなかった自分を責める必要はありません。
むしろ、本来優しい人間が優しくできなくなるほどに追い詰められたり、余裕がなかったりしたことを受け入れてあげることの方が偉大なことです。
そうすることで、あなたが持つ本来の優しさはさらに輝きを増すことでしょう。

でも、そこで後悔の念(罪悪感や自己嫌悪などのエゴの声)は、あなたの価値や才能ではなく、攻撃の方に意識を向け、過去にあなたを留まらせようとします。
その綱引きに打ち克つためにも、まずは、自分が持つ価値を本当に受け取る必要があります。
つまり、自分が優しさをたくさん持った人間であることを受け入れてみるのです。
それは今現在、誰かに優しさを与えてみることでもあります。
隣の席にいる同僚でもいいし、家族や友達でも構いません。
「後悔」が教えてくれた才能・価値を早速試してみるのです。

「話を聴いてあげたら・・・」と後悔しているのならば、あなたは今誰の話を聴いてあげたらよいでしょうか?
「もっと愛してあげたら・・・」ならば、あなたが愛せる人は周りにたくさんいるはずですね。

心は痛んでも、そのことを信頼しチャレンジすることで、あなたの心には徐々に自信を取り戻す事ができるでしょう。

過去にもう一度向き合ってみる

でも、このチャレンジは一時的に執着を高めることもあるかもしれません。
(「今できるのに、なんであのときできなかったんだ」という風に)
その後悔の念が強すぎるときや、もし、まだその勇気や力が十分にないと感じたら、もう一度その出来事に向き合ってみる時期なのかもしれません。
実は後悔していることの多くは、きちんとその事実を受け入れられていないことが少なくないのです。
つまり、後悔したり、執着する事で、結果的に現実から目をそむけてしまうこともあるんです。(つまり、その場合「後悔」というのはある種の防衛本能のように働きます)

例えば、あなたが「大好きな彼女を些細な一言で傷つけてしまった」とします。
そこで「後悔」は「何てことを言ってしまったんだ。取り返しがもう付かない。彼女は傷ついて、自分のことを嫌いになってしまっただろう」と思わせます。
そして「あの時はこういう風に言えば良かったんだ」とか「今、その言葉を取り消せば間に合うだろうか?」と、彼女のことよりも、それを覆い隠すイメージで自分を慰めようとしたり、何とか取り繕うと策士のようになってしまったりするのです。
それは現実と向き合えているとは言えないのではないでしょうか?

そこで現実や過去と向き合うというは「自分の未熟さによって言わずもがなの一言で彼女を傷つけてしまった」という事実を受け入れることであり、「彼女に謝罪する」「友達ネットワークを通じて彼女を慰める」など今できることに意識を集中させることであり、かつ「それでも彼女は自分を許してくれないかもしれない」という覚悟を決める事です。
それは感覚的には過去を向くのではなく、足元を見つめ、顔を上げて未来を見据える態度と言えるでしょう。

その段階の一つ一つはとても勇気が要り、強さや器の広さが求められるので、できれば避けて通りたいと感じるかもしれません。
だから、そこから目を逸らすために「後悔」が使われてしまうのでしょう。

逆に言えば、そこできちんと過去ではなく、今に向き合うことができるようになれば、後悔の念からも脱却できるようになります。
つまりそれは過去のしがらみから自分を解き放つことであり、過去の痛みから自由になることでもあるんですね。
その時あなたは前向きに現実を受け入れ、そして、相手に対しても自分に対しても謙虚な気持ちで向き合えるはずです。

後悔が教えてくれること

改めて整理してみましょう。
後悔というのは、私達が感じたくない気持ちトップ3に入るほどのネガティブな感情ですが、その衝撃ゆえに様々なメッセージを私達に教えてくれるものでもあります。
その中でも大きなものは二つ。
「過去ではなく、今を見つめること」
「後悔はあなたの隠れた才能を教えてくれること」

すぐには難しいかもしれませんし、現実には痛みが強すぎて、すぐにこの二つのメッセージは受け取れないかもしれません。
(その場合は、まずは心の痛みを取り除くべく、誰かに話を聴いてもらったりして心を休めてあげることが大事です。あなたを責める人がいるかもしれませんが、何よりも自己嫌悪や自己攻撃に自分を晒さないようにベストを尽くしましょう。)

それでも、意識のどこかにこれを置いておくと、何かの拍子にふっと暗闇から抜け出させてくれる力となってくれるでしょう。

そこではきっと後悔していた出来事があなたにとっての前向きな課題となり、次のチャンスを掴める自信を与えてくれることと思います。

実はチャンスは何度も何度も与えられるもの。
もし、あなたが謙虚に現実を見つめ、才能を受け取ったら、きっと起死回生のチャンスが訪れることと思います。
(不思議とそういうことがよくあるのです。カウンセリングでも、もうダメだろうと思った瞬間に関係を改善するチャンスが訪れる例をよく耳にします。)
だから、諦めずに現実に向き合い、自分らしさを実現していくことに今は意識を傾けてみましょう。
それこそが、今を生きることになるはずです。

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