本当に伝えたい気持ちを伝えることはとても難しく感じてしまうものです。
そうなってしまう原因と、解消する秘訣や二つのエクササイズをご紹介。
私達は毎日の暮らしの中で、どれくらい伝えたいこと、言いたいことをきちんと表現できているでしょうか?
つい強がってしまったり、思わず嘘を付いてしまったり。
あるいは、自分が何を伝えたいのか分からなくなってしまったり。
口をついて出てきた言葉が、気持ちとは全然裏腹だった・・・なんてことも皆さん、一度ならず経験されてることかもしれません。
伝えたいことが分からない、うまく言えないのはどうしてなのでしょうか?
一つには自分の気持ちがわからないというのがあります。
自分が何を感じているのか分からないと、どんな言葉を選んでもピンと来ないですし、ウソのような気がします。
特に相手に意識を向けすぎてしまうと、その時は自分の心に意識が向けられなくなりますから、自分の気持ちを表現できずに「うまく言えない」「伝えられない」ということもよく起こります。
コミュニケーションを上手に取ろうと思ったら、相手の肖像画を描くようなイメージで話ができるといいんですよね。
相手の顔ばかり見ていたら絵はめちゃくちゃになってしまいます。
逆に手元ばかりを見てても肖像画になりませんよね。
相手を見て、手元を見て、という繰り返し、バランスを取ることが大切なんです。
●自分の心を隠してしまう訳
罪悪感があれば、ウソをついてしまいます。
相手に嫌われるのが怖ければ、相手に合わせた返事ばかりしてしまいます。
相手に怒りを感じていれば、きっとわざと捻くれたことを言ってしまうでしょう。
また、白黒はっきりしないのが私たちの心なのに、はっきりさせようとすれば混乱してしまうものです。
そういうものが折り重なっていって本音を隠してしまうんです。
○自分の本音を探すエクササイズ
これは面談カウンセリングでもたまに使う方法です。
自分の気持ちや考えを伝えたい相手を一人選んでください。
パートナーがいらっしゃる方はパートナー宛にしてもいいでしょう。
もし、誰も思いあたる人がいなければ、お母さんかお父さんを選びましょう。
で、まずはその人宛の手紙を書いてみます。
できれば手書きの方が良いです。
新聞のチラシの裏面でもいいですから。
あと、あんまり長く書かずに、自分がその人に伝えたいメッセージをできるだけ簡潔に書いてみようと思ってください。
それが書けたら、今度はその手紙をじーっと見つめます。
これが本音だろうか?
本当に伝えたいことだろうか?
伝えたいことが言葉になっているだろうか?
そんな目で見ながら、もう1枚紙を取り出して手紙を書き直します。
隣に1回目の手紙を置いて、言葉を書きなおすようにするんです。
より自分の本音に近くなるように。
そして、書けたらまたじーっと見つめてみます。
1回目と2回目を並べてみてもいいでしょう。
そして、3回目、4回目と繰り返しこの作業を行っていきます。
自分がこれでOKという文面にはなかなか巡り合わないかもしれませんが、自分の伝えたいことが段々言葉になっていく経験ができるのではないでしょうか。
そうして“言葉を磨いていく”という経験は、声によるコミュニケーションでも自分の伝えたい言葉を選びやすくなっていくはずです。
●どうして伝えられないんだろう?
コミュニケーションが難しいのは、自分ひとりではなく、他者が入るからです。
一人ならば、自分だけに意識を向けていればいいのですが、相手と自分と二人になれば、相手にも意識を向けなければいけませんよね。
そうすると、自分と相手へ向ける意識のバランスが難しくなるんです。
自分のことばかりを考えていれば、自分本位になってしまいますよね。
そうすると、相手はだんだん嫌な表情や態度を見せ始め、気付いたときには自分ひとりでしゃべってしまった・・・なんてことになります。
もちろん、そんな場合は相手の人に好意を持ってもらうことなんて難しいですし、相手が気分を害したりしていれば、伝えたいことを歪曲して解釈されてしまったりします。
じゃあ、逆に相手だけに意識を向けていればいいのかというと、それもまた難しいですね。
実際、コミュニケーションがうまくいかない、伝えたいことをうまく伝えられない、というご相談を頂く場合には、自分よりも相手に意識を置きすぎている場合が圧倒的に多いですね。
では、相手に意識を向けすぎるとどういうことが起きるんでしょう?
そう、自分自身が見えなくなります。
これを僕は勝手に「コミュニケーションにおける幽体離脱現象」などと呼んでいるんですけど、自分から魂が抜け出してしまったようになるので、自分が言いたいことよりも、相手の反応を見て言葉を選んでしまうようになるんですね。
要は気を使いすぎるんですが、そこでは自分の感情(気持ち)よりも、思考(どんな言葉がその場に適当か?)の方にエネルギーが取られますから、結果的に自分が伝えたいことは言葉にならなくなります。
気に入られたい相手だとしたら、自分の本音よりも相手が喜びそうな言葉を選びます。
また、そういう場合は自分の心に意識が向けられてないので怒りや嫉妬などの衝動的な感情がそのまま口をついて飛び出したりしてしまいます。
「ついカッとして心にも無いことを言ってしまった・・・」
なんて場合には、こういうケースがとても多いです。
同様に「緊張していて地に自分のことばかり話してしまった」場合なども、実は相手に意識を向けすぎているのが原因です。
緊張や焦りという感情に翻弄されてしまうくらい相手を意識していて、地に足が着かなくなった(幽体離脱みたいでしょ?(笑))わけです。
●自分の気持ちを受け入れることが大切
そういうときは、自分の気持ちに素直になっておくことが大切です。
「気持ちの整理がつかなくて伝えたいことが言葉にならなかった」という経験をされたことがある方も多いかもしれませんが、気持ちの整理がつかないということは、自分が何を感じているのか?何を思っているのか?が分からなくなってるってことですよね。
“言葉”じゃなくて、整理するのは“気持ち”ってことを私達はついつい忘れがちなのかもしれません。
でも、ついつい言葉選びにばかり意識を向けてしまうので、出てくる言葉が心とは裏腹なものになってしまうのかもしれません。
気持ちを言葉で表現したり、言葉に乗せるのはなかなか難しいものですが、どんな不恰好な言葉であっても気持ちが入っていれば、その気持ちは必ず相手に伝わります。
でも、逆に言葉ばかりに気を取られて感情を疎かにすると、本当に伝えたいことはほとんど相手に通じなくなってしまうんです。
また、相手に後ろめたい気持ち(罪悪感)や嫌われる怖れなどがあったりすると、その気持ちに素直になりにくいんですよね。
だから、嘘を付いてしまったり、その場限りを丸く治めようとして繕ってしまったりしてしまうんです。
でも、罪悪感を感じてる、恐れを感じてる、ということをきちんと認めてあげることも大事なことです。
そこでは勇気を持ってそれを自分の中で認めてあげて欲しいですね。
それに私達の感情はある意味シンプルで、ある意味複雑なものです。
「好き」と「嫌い」が心の中には同居することだってありえます。
でも、理論的にはそれはありえないって思ってしまうので、「好き」か「嫌い」かどっちかをはっきりさせなければならないような気がしてしまうんです。
白黒はっきりさせたくても、なかなかそうは問屋が卸してくれないのが心の世界ですから、そういうときは「好きな気持ちもあるし、嫌いな気持ちもある」とありのままに受け入れてみる(そういう感情を持つことを許してあげる)ことが大切なのです。
そこに素直になれると、ホッと肩の力が抜けます。
でも、急に誰かとのコミュニケーションの場でこれをやろうと思っても難しいんです。
だから、普段から、自分の心を見つめる時間をきちんと作りたいものですね。
簡単なエクササイズとしては、他でもよく紹介していますが、食事の時、飲み物を買うときなどに「私は何が欲しいかな?」って自分に聞いてみることです。
後は一日5分でもいいので、そっと自分の気持ちを見つめる時間を作ってみてもいいでしょう。
お風呂に入っているとき、トイレに入っているときなどはやり易いと思います。
そこで「私は今どんな気分なんだろう?」って思ってみるんです。
そして、それが分かったら、そのまま言葉に出してみましょう。
「私、寂しいなあ・・・」でもいいし「ああ、酒が飲みたい・・・」でもいいです。
●まずは「自分」、続いて「相手」というバランス感覚
そうして、自分の心に意識が向けられるようになると、コミュニケーションの場でもだんだんズレが無くなります。
幽体離脱せずに、きちんと地に足が着く感じがしてくるんです。
実はここでは少し自己本位なコミュニケーションになってしまいます。
相手がいると、自分の心が揺らされますよね。
でも、相手の存在や態度、言葉に揺れない状況を作るには、そういう場でのトレーニングが必要になってくるんです。
実際にワークショップなどでそうしたトレーニングをすることもできますが、今の日常生活の中では「一人反省会」を開催することで、それを多少は補うことができます。
相手に意識を向けすぎる方は「一人になったときにどっと疲れてしまった」なんて経験をすることもあろうかと思います。
それは、幽体離脱して相手に意識が向きすぎていたために、一人になったときに、一緒に居たときの感情が一気に噴出してくるからなんですね。
でも、一緒に居たときのシーンをそこで回想することで、その時どんな気持ちだったのか、本当に伝えたいこと、言いたいことは何だったのかをシミュレーションできます。
ここで注意して欲しいのは「ああ言えば良かったのにぃ・・・」と後悔しすぎないことです。
そこで、後悔して自分を責めてしまうと何も意味はなくなります。
後悔するくらいのメッセージならば、メールなり、電話なりで、「あの時、本当はこう言いたかったの」って後でフォローしておくこともできますね。
(でも、プライドがあるとできませんから、不必要なプライドは出来るだけ早く手放してしまうのも大切なアプローチです)
そして、そのシーンを思い出しながら、実際に自分が言いたいことを一人で表現してみましょう。
ここでも声に出して表現することが大切なんですよ。
呟くくらい小さい声でも、頭の中で空想するよりはずっと効果的です。
●“伝える”と“伝わる”は別モノ
でもね、ここで注意して欲しいのは、伝えたいことを伝えることと、それが相手に伝わることとは別ということです。
これが難しいんですよね。
メールとか文字情報の場合は尚更難しいです。
皆さんも自分が意図しない解釈をされてしまった(誤解されてしまった)こともたくさんあると思うんですね。
相手には相手の言葉がある、という認識がここでは大切です。
皆さんもアメリカに行けば英語を使おうとするでしょう?
その辺のアメリカ人に日本語で「すんません。ロサンゼルスに行きたいねんけど、どの飛行機乗ればええのん?」って聞くのは大阪人くらいかもしれません(笑)
英語が分からなくても「アイ・ウォント・ゴーツー・ロサンジェルス」などと身振り手振りで話しかけると思うんです。
相手が日本語を話すから、それで自分が話した通りに伝わると思ったら大間違いです。
相手には相手の解釈があるんです。
だから、その相手のことをきちんと知ろうとすることがとても大切なんです。
幽体離脱してしまう方は、これを先にやろうとしてしまうからなんですけど、自分の気持ちに意識を向けることができると、案外、相手のわかりやすい言葉を見つけることが容易になりやすいと思います。
何故かというと、自分の心に意識を向けられている分、相手の反応をきちんと受け止めやすいからです。
相手が自分の言葉を理解できたかどうかというのは、相手の反応のニュアンスで分かりますよね。
なんぼ口で「分かった、分かった」と言われても、「うそ。全然分かってないじゃん」って分かるのは私達の感性、つまり心ですものね。
ちょっと勇気は要りますが、そういう意味でも「まずは自分、次に相手」という思い切った意識改革をしてみてはいかがでしょうか?