「自立」という中にもより自立的な要素(自立の自立)と、より依存的な要素(自立の依存)があることを、あるビジネスシーンを通じてご紹介したいと思います。
納期の達成が微妙なプロジェクトを抱えるA氏とB氏。同じ「自立」という立場であるマネージャーでありながらも、彼らの態度はとても対称的。
「すべて1人でやらねば」と思い背負ってしまうA氏と、「お前達しっかりしてくれよ」と部下に依存を見せるB氏。それぞれを「自立の自立」、「自立の依存」という立場と言うのです。
一見、A氏の方がかっこよくて仕事ができて好印象を持つかもしれませんが、目線をA氏の部下に変えてみるとどうでしょう?A氏が部下の仕事まで1人で抱え込むことにより、部下達は自信を失い、1人では何もできなくなってしまうかもしれません(これが「依存の依存」)。
一方、B氏の部下として仕事をするのはとても大変なのですが、同時に自立心が芽生え、上司に頼らない仕事のスタイルを確立できるかもしれません。すると、依存の立場でありながら自立的な「依存の自立」という状態になるのです。
こうした両者の関係を例に取りながら、どうしたらそこから抜け出せるのか?抜け出した先にはどんな世界が待っているのかをご紹介したいと思います。
「このままでは納期をだいぶオーバーしそうだ」とプロジェクトの進捗表を眺めながら感じたマネージャーのA氏。
これまでは管理業務に徹してきたものの、これでは埒が明かないと重い腰を上げ、分散化された個別のプロジェクトを任せているリーダー達を呼んだ。
「君達にはまだ荷が重かったようだ。今後は私が一切を引き受けるから、君達はより現場に近いポジションで開発業務に当たってくれ。」
そう伝えた彼は、本来はリーダーの担当業務だった細かな作業管理なども引き受け、仕事量は一気に3倍となった。しかし彼は「俺がやらなければクライアントに迷惑をかけてしまう」と1人で背負い、黙々と仕事を続けるのであった。
一方、同じ状況に置かれたマネージャーのB氏。
リーダー達を呼び寄せると、「おいおい、君達。プロジェクトマネージャーである俺の立場も考えてくれよ。このままじゃ、納期なんて全然達成できないだろ?取締役やクライアントに怒られるのは俺なんだからな。もっとしっかりしてくれなきゃ困るよ。君達の将来にも関わるんだぞ。」と愚痴り、これ見よがしの大きな溜息を付いて椅子に座り、このプロジェクトの最高責任者である取締役から電話がかかってきた際、どのような言い訳をすべきかを思案し始める。
***
A氏とB氏、あなたが上司として選ぶならば、どちらがいいですか?という問題ではありません。
どこにでも転がっていそうな、この2つのケースにおいて、私達は似て非なる二つの心理について学ぶ事ができるのです。
よく心理分析をする際に「社長が自立で、社員は依存の立場」などと表現します。
パートナーシップの問題でも、「自立的な彼の顔色を伺う依存的な彼女」とか「自立と依存の立場がひっくり返るときに別れの問題が起きやすい」などと言いますね。
二つの関係性があったとき、一方が自立で、他方が依存を担当することになり、そのための争いを“主導権争い”もしくは“パワーストラグル”と言います。
しかし、関係性においては単純に「自立」と「依存」に切り分けることができるのですが、より深く見ていくと、それだけではないことに気付かされるのです。
先の2つのケース、立場を考えればマネージャーであるA氏もB氏も、共に「自立」のポジションであり、その部下であるリーダーは「依存」のポジションとなります。
しかし、同じ「自立」の立場であったとしても、A氏とB氏は全然違う反応を示しています。
A氏は部下達から仕事を引き上げて1人で背負い、自分で何とかしようとしています。頼もしく感じる一方で、部下達は自信をなくしてしまうかもしれません。
一方、B氏は部下達に文句や愚痴を垂れ、やる気を引き出すというよりも、反発を買いそうな態度を取っていますよね。これではB氏に付いて行こうという部下はなかなか表れないかもしれません。
そこで、こんな風に考えて見るのです。
すなわち、A氏は「自立の自立」、B氏は「自立の依存」と。
A氏は元々自立の立場でありながら、さらにその中でも自立的な態度を取っています。自分が何とかしなきゃ、誰にも頼らず一人でやらねば、という、いわば超自立的な態度です。
だから、「自立の自立」です。
一方、B氏は、自立の立場でありながら、部下達に対しては依存的な言葉を使っています。「君達がしっかりしてくなきゃ」とか「僕の立場も考えてくれ」的な言動は、言われる方からすればとても重たく感じる「依存」の言葉ですよね。
だから、自立なんだけど、依存的な態度ということで、「自立の依存」です。
これは「リーダーの依存心」という風に言われることもあり、リーダーシップのテーマでも非常に重要となるキーワードです。
問題を解析したり、あるいは、人を理解していくのに、こうした一歩掘り下げた状態まで見ていく必要が出てくる場合もあるんですね。
さて、先ほどのA氏とB氏の例を思い出して下さい。
それぞれの部下はどのような状態になっていくでしょう?
次回をお楽しみに・・・。
>>>『「自立の自立」と「自立の依存」~超自立?自立の自立の問題と解決方法~』につづく