「自立の自立」のマネージャーは全てを1人で背負おうとするのですが、それは同時に、部下達を「依存の依存」という状態にしてしまう可能性を持つのです。
つまり、A氏の顔色を伺いながら仕事をする部下が大量発生するわけで、ますますA氏の負担が大きくなってしまうでしょう。そこで、そうした状況を抜け出すために、勇気を持って仲間やパートナー、コーチ、カウンセラーに自分の心を開くこと、すなわち助けを求めることを提案したいのです。
●「自立の自立」について。
A氏の部下は、暗に自分達の能力を否定されたことを感じるでしょう。仕事ができるA氏に対し、自らには能力がないと自信を失ってしまうかもしれません。
また、プロジェクトの遅れはメンバーそれぞれにも責任があることは明確なわけですから、それを1人で背負おうとするA氏には頭が上がらずに、今後は風見鶏となってA氏の意見や顔色を伺いながら行動しなければならなくなるかもしれません。
そうすると元々依存の立場にある部下達の依存度は更に強まることとなり、自分自身では何ら判断ができない「依存の依存」という状態に落ち込んでしまうでしょう。
もちろん、実質上の降格措置にかえって情熱を燃やし、もう一度A氏に認めてもらおうと頑張るリーダーもいるかもしれません。
もちろん、A氏もそんな存在を心待ちにし、それでこそ、真のリーダーであると考えているフシもあるのですが、現実的には、A氏が自立を強めれば強めるほど、部下達の依存度が増すわけですから、そうした存在はなかなか出てき難いと言えるでしょう。
とすると、仕事ができるカッコイイA氏ですが、彼の「自立の自立」という態度は、バランスの法則により、部下の“依存の依存”を作り出し、いつまでも1人で背負い込まねばならない状態になり、当然、後継者も育たないという悪循環を作り出してしまっている点にあります。
こうしたパターンは、企業戦士にも見て取れますが、ワンマン社長やフリーのビジネスマン、腕一本で勝負するような職人の世界などには顕著に存在する問題ではないでしょうか?
パートナーシップの問題で“ロックマン”という言葉がよく出てきます。「岩男」と言い、理性的で感情を封印した男性のことを言うわけですが、そんなロックマン氏もそんな「自立の自立」的要素をたくさんもった人間と言えるでしょう。
こうした自立の自立は、幼少の頃から1人で頑張って何でもやってきたり、あるいは、誰にも頼れない状況で生き抜いてきた方には共通する問題のようです。
また、オーナー社長のように、会社を1人で起こし、大きくしてきた人間にはそれなりの自負がありますよね?そうすると、誰かを頼るとか、仲間と一緒に仕事を頑張る、なんてことは綺麗事にしか感じられず、「自分以外はみんな敵」とか「誰かを当てにするなんて弱い人間のすること」といった感覚を持ちやすいのかもしれません。
となると、当然、とっつき難い人格が出来上がるわけで、その分、孤立感も相当高まってしまいます。
「自立の自立」の問題というのは、本人が作り出しているわけですが、その孤独感なんですね。
そして、その孤立感がやがては“死の誘惑”を引き起こすこともあります。
誰にも頼れなず、弱音も吐けないわけですから、行き詰ったときには“死”しか感じられないんです。
実際、会社やプロジェクトがどうしようもなく行き詰ったときに、「自立の自立」的経営者が考えることは、おそらく自らの死でしょう。
A氏にしても、プロジェクトを何とか納期以内に収めることが必定であり、そのために自分が何とかする、という姿勢を貫こうとするのです。
故に、進捗の遅れを取締役に報告する際も「大丈夫です。私が何とかします。」と頼もしく言い切るでしょうし、どうしようもなくなった際もギリギリまで根は上げないでしょう。
でも、これはある意味、救いのない物語を作り出してしまいます。
そのとき、彼らに必要なのは他でもない、心を許せる仲間であり、味方です。
信頼できる上司や仲間、友人、コーチやカウンセラー。
彼らを当てにして、自らの心を整理し、自立を手放していくことこそが、彼らの目標です。
とはいえ、自立の自立段階までたどり着いている場合、次の「相互依存」まではあと少し。
勇気は要りますが、
“誰かに助けを求める”
“負けを認める”
“身を委ねる”
そんな提案をするのはこのレベルにおいてなのです。