手に届かない人を好きになってしまう心理をさらに掘り下げると、私たち全員が持っている“エディプス/エレクトラ・コンプレックス”の問題に行き当たります。
前回紹介した無価値感という感情は、そもそもこのエディプス/エレクトラの敗者が持つ感情で、異性の親から十分に愛されなかったと感じている(それは誤解なことが多いのですが)ことに起因します。
その関係を改めて見つめなおすと同時に、その無意識の癒しについてご紹介します。
エディプス/エレクトラの敗者は異性から愛される自信がなくなる。
さて、その「失恋」のルーツを更に辿っていくと、私たちにとって重要な存在が浮かび上がってくることがあります。
「好きな人には好かれない」というパターンは、潜在意識でも深いレベルで起こっていますから、先ほど紹介したケースよりも、実はこちらのパターンの方が多いのかもしれません。
それはエディプス/エレクトラ・コンプレックスに起因するもので、特に「エディプス/エレクトラの敗者」と呼ばれるパターンに当てはまるケースです。
すなわち、男の子ならば幼少期、お母さんを巡ってお父さんと競争します。また、女の子ならば、お父さんを巡ってお母さんとどちらが愛されるのかを競うのです。
その競争に勝てば「エディプス/エレクトラの勝者」となりますが、残念ながら負けてしまうと「エディプス/エレクトラの敗者」となるのです。
競争に負けたということは、そこで「私は愛さないんだ」という思い込みが生まれます。
今から思えば、まったく信じられないことかもしれませんが、私たちは幼少期、お父さんのこと、お母さんのことが大好きでした。
初めて好きになる異性は男性ならばお母さん、女性ならばお父さんなんですね。
なのに、その初めて好きになった相手を同性の親に取られてしまったとしたら、自分は大好きな人から愛されず、そればかりか、別の人に取られた、という経験をしてしまうわけです。
この経験がずっと残っていたとすれば、大人になってからも、「好きな人はどうせ私を選んでくれない」という恋愛を無意識に“選択して”しまうようになるのです。
でも、エディプスの勝者なのか敗者なのかをどう判別したらいいのでしょう?
女の子を例にとりましょう。(男性は男女逆に読んでください)
お父さんが私のことをとっても愛してくれたので、お母さんが私に嫉妬心を持っていた、なんてケースは、明らかな「勝者」です。
そうではなくて、お父さんは私よりもお母さんのことを大切にしていて、私のことが好きだとはあまり感じなかった、というケースでは、明らかな「敗者」となります。
また、お父さんは自分の世界を持っている人で、お母さんのことを大切にしている様子もなかったけれど、私の事も全然大事にしてくれてなかった、というケースもまた、パターンとしては「敗者」になります。
また、変則バージョンですが、お母さんと私はべったりな関係で、そこにお父さんが入り込む隙間がなかった、という場合も、実は「敗者」になってしまいます。
お母さんとの癒着によって、お父さんを手に入れることができなかったからですね。
要は事情はどうであれ「お父さんは私のことを誰よりも愛してくれた」という場合以外は、「敗者」の要素を持つと言ってもいいのです。
エディプス/エレクトラの敗者は「無価値感」という感情を持ちます。(一方、勝者は罪悪感を持ちます)
それが、前項で紹介した「無価値感を証明するために手の届かない人を好きになる」という動きを作り出すのです。
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実は「好きな人には愛されないんです」というパターンを見ていくと、このケースが意外なほど多いことに気付かされます。
幼少期に既に、大好きな人(女の子ならばお父さん)に愛されなかったという経験をしているわけですから、無理も無いかもしれません。
とはいえ、初恋の人よりもずーっと昔のことですから、記憶を辿ることは難しいんですね。
だから、カウンセリングの中でも、改めて異性の親との関係を見つめなおすと共に、その親からの愛情を改めて受け取るセラピーや、恋のライバルであった同性の親を許すセラピーを使っていくことが多いんですね。
とはいえ、記憶に無い昔の出来事ですから、あまり意識レベルではピンと来るものではありませんし、1回で処理できるほどでもないかもしれません。
特に、お父さんとの関係が大人になってからもうまく行かない女の子の場合は、お父さんに愛されたことを受け入れることにも強い抵抗を感じるものです。
そもそも、お母さんと競争があったり、まだ許していないなんて、なかなか受け入れることは難しいですしね。
だからこそ、少しずつ濁った水を薄めるかのように、その抵抗を外していくんです。
まずは頭で理解するところからでいいです、この場合は。それくらい深いところの問題ですから。
よくエディプス/エレクトラは一生掛けて癒していくもの、と言われることがあります。
完璧に癒してから結婚しようと思えば、おじいちゃん/おばあちゃんになってしまうということです。
だから、ある程度、この問題が癒されていくと、自然と素敵な人にめぐり合えることが少なくないのです。その点はご安心下さい。
>>『好きな人には愛されない(4)~内なる私と、外側の私~』につづく