私たちは、本来の自分そのままでは周囲に受け入れられないと感じると、「いい子」になるなどして、周囲に受け入れてもらおうと努力します。
しかし、この苦しさに耐えきれなくなると、本来の自分に戻りたいと思います。
でも、そう思う一方で、もともと本来の自分は人に受け容れられないと思っているので、本来の自分に戻すことがとても怖くなります。
でも、その怖れを乗り越えて実際の行動に移ると、その怖れが強いほど勢いよく変化をしようとするので、本来の自分の位置をオーバーランして例えば「悪い子」の位置に入ります。でも、この位置は本来の自分の自然体の位置ではないので居心地が悪く、「いい子」の方に戻り・・・とこれを繰り返して自分本来の自然な位置に立つことができるようになります。
これが、変化のプロセスです。この変化のプロセスを信頼し、変化しようと思い続けると、本来の自分、ありのままの自分の位置に辿り着く事ができます。
◎リクエストを頂きました◎
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私はいわゆる「いい人」を演じてしまいます。
しかし疲れて人と関わることさえ億劫になり始めました。
心理学講座では、「いい人は素の状態のままでいい人なんだからこれ以上頑張る必要はない」、また「思い切って悪い子になってみても良い」とありました。
これに私も納得し、私には頑張らなくても「優しい」という魅力があるんだと受け取る事ができました。
しかし、実際、素の状態で仲の良い友達に今まで言わなかった本音などを話すと、「腹黒い」や「いつものあなたじゃない」と却って否定的に見られるんです。
そして私はまた気を遣い過ぎてしまう「いい人」さんに戻ってしまいます。
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私たちは今までの人生でたくさんの傷つきを経験してきました。
そしてその結果、自分が傷つかないように「いい子」になったり、「完璧主義」になったりしたのです。
心のどこかで、本来の自分では受け容れられないと感じていて、ありのままの自分を否定し、人に受け入れられる自分を作り上げてきたのです。
この状態は、自分の自由を自分自身で制限しているので、とても辛い状況になります。まるで、小さい窮屈な服をずっと着てきた様な、不自由な感覚です。
しかし、この状態がもう我慢できないと感じると、何とか本来の自分を取り戻して自由に生きたいと思うようになります。
でも、そう思う一方で、今の自分を変えて本来の自分に戻すことがとても怖くなります。もともと本来の自分は人に受け容れられないと思っているのですから、また傷つくのではないかという怖れが出てくるのです。
この怖れを乗り越えるために、怖ければ怖いほど、勢いが必要になります。
ちょっと想像していただきたいのですが、そんなに幅が広くはない深い谷底が目の前にあって、こちら側から向こう側に飛び越えるとします。そんな時には皆さんも力一杯の助走をしますよね。そんな感じの勢いが必要になるのです。
ところで、人間には誰しもセンターと呼ばれる心の位置があります。
センターとは、本来の自分が自然体でいられるところで、自分を責めることなく、誰にも気を遣わず、心地よい位置です。しかも周りにも自然に振る舞えるので、人を傷つけることも殆どありません。
人によりこのセンターの位置は違うのですが、誰しもがそんな状態でいられる位置なのです。
人は誰しも問題を抱えると、このセンターから段々ずれていきます。自然体では感じないような感情を抱いたり、行動をしたりします。
余談になりますが、実は、私たちカウンセラーはこのセンターからのズレをカウンセリングの中で感じ取っているのですね。
さて、このセンターとそこからズレた関係を振り子に例えてみます。
振り子を地面に向かってぶら下げると、地面に対して垂直に静止しますね。穏やかなこの状態をセンターと考えてください。一方、そこから右側に少しズレた位置に現在の心の位置があったとします。リクエストでいただいた例で言えば、「いい子」の私の心の位置になります。この位置に振り子を置いてみます
そこでこのズレを修正して振り子をセンターに戻したいとします。センター、すなわち本来の私に戻ろうとするわけです。
そこで勇気を持って、振り子をセンターめがけてえいやっと放したとします。しかし振り子はセンターを通り越して反対側に振れますね。先ほど書きましたように変化が怖い分だけ勢いよく助走するようなもので、勢い余って反対側に振れるのです。
センターの右側が「いい子」だとすれば、その反対側なので行き着く先は「悪い子」の位置になります。
ここで、私はセンターを目指したので、当然センターに無事辿り着いたと思ってしまうのですが、えいやっと勢いをつけた分だけオーバーランしているのですね。
すると、周りの人と少し摩擦が起こります。「あなたは悪くなった」とか、「いつものあなたではない」と言われたりします。これは、本来の自分のセンターではないので周りがそう感じてそれを教えてくれるのです。
そしてそれら周りの反応を見たり、自分でその居心地の悪さを感じて、またセンターを目指して自然に動き出します。そして振り子は何度かセンターを挟んで右左に揺れるものの、その揺れは徐々に小さくなっていってやがてセンターに収れんします。
これが、自分がある状態から違う状態に変化をしようとするときに起こるプロセスです。
このプロセスは大なり小なり誰にでも起こる事なのです。
問題は、この振り子が振れている途中の状態で諦めてしまって、元の位置に戻りそこで立ち止まってしまう事です。
「ああ、怖かった」と諦めてしまう事です。
そうすると、失敗だけが心に残ってしまい、頑なになって辛い状態が更に辛くなってしまうのです。
自分が変化しようとするときには、私たち自身の中から自分に向かって発せられる、怖れを誘発する様々な声が聞こえます。そして、私たちが変化する事を、楽になる事を何とか阻止しようとします。
この声に負けないで、変化のプロセスを信頼し、変化しようと思い続けるとやがて自分のセンター、本来の自分、ありのままの自分に辿り着く事ができます。
(完)