次のステップへ進む怖れ~今の関係にイライラ・モヤモヤを感じるとき~

私達は「何となくイライラする」とか「理由は分からないんだけどモヤモヤした感じがある」といった状態を意外に頻繁に感じているものです。実はそういう時は今の関係性において行き詰まり感があって、先に進むことに無意識的な抵抗を感じているときなのです。そんな状況の心理背景と解決方法に迫ります。

親密感と怖れ

パートナーシップでも、対人関係でも、仕事でも、関係性が深まるにつれて、お互いの距離は縮まっていきます。
そして、近付いた分だけ“親密感”という感情が心を満たしてくれるようになり、安心感、満足感、喜び、繋がりなど様々な感情を作り出してくれます。

ところが、私達はこの親密感が欲しくて大好きなんだけど、でも、すごく怖いものでもあるんですね。

親密感というのはとても近い距離で生まれます。
近い距離ということは、いわば相手の間合いに入ってるとも言えるわけで、相手の感情をモロに受けたり(振り回される、影響を受けるなど)、傷つく可能性を否定できない間隔にあると言えるわけです。

そうして私達は無意識のうちに近い距離感に怖れを抱くようになるんですね。
例え大好きな人で、いつもくっついていたい人でも、急に目の前に現れたらびっくりして思わず引いてしまうと思いませんか?
私達は人と親密になるよりも、一定距離を保った“居心地の良い(=傷つかない)”関係を作ろうとします。
それは言い換えると、自分の感情をコントロールできる距離とも言えるんですね。
取り乱したり、恥ずかしくて赤面したり、恐怖心から固まってしまったりすることもなく、また、寂しくなったり、嫌われる怖れを感じることもない距離感です。

そして、この距離感は人との関係で傷ついた分だけ大きくなります。
例えば、あなたが仮に1メートルの距離で人に傷つけられたとしたら、再び1メートルの距離に近付くのは怖くなりますね。
だから、次には1.5メートルくらいの間合いで人と付き合うようになるかもしれません。
でも、またその距離で傷つく経験をしてすごく辛かったとしたら、次は2メートルの距離で・・・と徐々に距離は広がっていくんです。
そうして年を重ねれば重ねるほど親密な友達が作りにくくなるのは、こうした心理的な背景が大きいんですね。

●次のステップへの怖れ

ところが、この安全な距離感を保とうとするあまり、今度は逆に大きな問題が生まれてくるんです。
それが今日の主題である「次のステップへの怖れ」です。

ちょっと例え話をしながら説明していきましょう。
新しい彼と付き合い始めて半年くらいが経ち、始めの頃のロマンスも落ち着いてきた頃、何となく「まあ、恋愛ってこんなもんだよね・・・」なんて感じたりします。
(「まあ、こんなものだろう・・・」という感覚は実は要注意!とても大切な心のサインです)
特に問題もなく、順調に推移していて、そのうち彼の方から「結婚でも・・・」と言い出すんだろうけど、まだ、ちょっとその時期には余裕があるかなあ・・・という状況。
一番楽しい時期ともいえますが、でも、どこかに昼下がりの気だるさのような、ちょっと虚無感というか、倦怠感も垣間見えます。

それが居心地がいい時は問題ないんですけど、虚しさや寂しさ、退屈さが潜在意識に溜まってくると妙にイライラしたりします。
「彼の他にもいい男がいるんじゃない?」とか「なんか相手の欠点が嫌に目に付くんだよね」とか思ってみるんですけど、「うーん、どうも違うなあー。あー、でも、こういうのって気持ち悪いなあー、もぉ!」なんてますます苛付くことも出てきたり。

また、自立的なそういう感覚ではなく、依存側の不安や怖れといった感覚が潜在意識に出てくると、やっぱりイライラしやすいんですね。
「あの男、マジメそうに見えて、実は他にも女がいるんじゃないのか?」とか「こんな退屈な私、もしかしたら飽きられて嫌われるかもしれない」とか。
不安や怖れとして感じてしまうと辛いので、潜在意識に押し込めていると、何となく落ち着かないようなそわそわした感覚がやってくることがあります。

こうした退屈、倦怠感、不安、怖れというのはあんまり感じたくないですから、無意識のうちに潜在意識に押し込めて自分が何に対してイライラしてるのか分からなくしてることも多いんですね。
そして、ただ、漠然としてモヤモヤ感が心を支配するようになるんです。

カウンセリングの中でも特に継続的にお話を伺っている方から「最近、特に問題は無いんですけど、居心地が悪いと言うか、なんかモヤっとした感じなんですよね・・・」というお話をお聞きすることが少なくありません。

そういう時こそ、さらにお互いの関係を一歩進める時期なのですが、実はそこに「親密感への怖れ」が隠れているんです。
本当はもう次のステップに進む時期なのに、それが(無意識に)怖いから、こうしたイライラやモヤモヤが心を支配するようになるのかもしれません。

●もう後戻りできない一線

もっと近付けばもっと親密感を感じられて、もっとラブラブになれるのに・・・と頭では分かったとしても、心はなぜか頑強に近づく事を拒否することがあります。
特にその感覚が強いところを私達は
「もう後戻りできない一線」
なんて呼んだりします。

「ここを越えたら、もっと彼のことが好きになってしまう・・・。そんなに好きになってもし振られてしまったら私はもう生きていけないかも・・・」
なんて感じているポイントです。

恋愛だけじゃありません!
趣味や仕事でも、これ以上夢中になってしまったら・・・、これ以上はまってしまったら・・・とてもヤバイことになるかも・・・そう感じて二の足を踏んでしまうこともあります。

しかも、このもう後戻りできない一線というのは、実は無限にあって、一つ越えて、「よし、もう大丈夫!」と思っていたら、またしばらく経ってあの感覚がやってきて「ああ、またか・・・」ってなることもしばしばあります。

これはまるで私達の本気度、コミットメント度を神様がテストしているような感覚です。

もちろん、そこを越えて更にお互いが親密になれば、もっと素敵なものが手に入ります。
相手のことを本当にいとおしく思える気持ちを感じられます。
お互いに信頼しあっていることに自信が持てるので、とても安心感があります。
相手の成功を本当に願えるし、喜べるし、また、自分の成功に対しても相手が同じように感じていることが感じられます。

●怖れを越えるステップ。

それでは具体的にこうしたモヤモヤ感を脱する、というよりも、突き抜けていくアプローチをパートナーシップ(男女関係)の例を挙げていくつか紹介します。
実際のカウンセリングでも注目するポイントで、特に夫婦や付き合いの長いカップルの場合には実際に目に見える効果となって現われることも少なくありません。

(1)コミュニケーション

一つ目は何はともあれコミュニケーションです。(この場合は会話やメールなど言葉によるコミュニケーションを指します。)
今の自分の気持ち、何となく感じているモヤモヤ感から、その下にある漠然とした不安や怖れ、そして、相手への愛情をきちんと伝えたいところです。
でも、怖れが強い分、「競争意識」もまた高まりますから、意地を張ったり、プライドが邪魔して素直になれないのもここです。
もちろん、このコミュニケーションはすごく怖いものですから、自分から心をオープンにする勇気がもてなくて、つい、相手を先に行かせようと画策したりするんです。

これはまるで、つり橋の袂で「どうぞ、あなたから先に行って。男でしょ?」とけしかけてるような感じになります。
そうすると、相手ももちろん「いや、こういうのは女性が先で、我々男性は後ろからガードする方が得策だと思う」などと返してきてにらみ合いになってしまったりします。

ただ、ここはケンカになってもいいので、勇気を出して自分から向き合おうとする態度が大切です。
お互い怖いんですから、双方が怖がって震えていたら、ますます先に進めずモヤモヤ感は高まるばかりです。

ここでのうまく行く法則は「先に気付いた人がやろう!」。
「あ、コミュニケーションが不足してるな・・・」とあなたが気付いたら、それはあなたの仕事、役割なんです。
関係性をさらに良くするための、積極投資と考えてみませんか?

(2)ケンカのススメ

ケンカというのはお互いの間にある壁を爆破してくれる効果があるんですね。
最近、カウンセリングをしていても「ケンカしたことない」とか「ケンカができない」という話をよく伺います。
よく言えば相手の気持ちを尊重しているのですが、その一方で自分の気持ちを抑えすぎていたり、我慢しすぎているケースが多いように思うんですね。
それはむしろ、いつ爆発するか分からない時限爆弾を心に溜め込んでいるのと同じで、非常に危険なんです。
普段から小噴火でも起しておいた方がいいんです。あまり火薬を溜め込んでいると爆破したときに、関係性もろとも吹き飛ばしてしまいますからね。

ケンカは後味が悪いですが、でも、その分、お互いにまた近づけたような気がしたり、胸のつかえが取れて心を開きやすくなったりする効果があるんです。

ただ、デッドゾーンになっていたり、相手が抑圧的なタイプ(クールなタイプ)だと、こちらがケンカを吹っかけても乗ってこない場合もあります。
そういう時はつまらなくなってフェードアウトしてしまうものなのですが、でも、怒りを溜め込むよりは出した方がいい場合が少なくないですよ。

もちろん、自分がなかなか怒りを出せない・・・という方もいらっしゃるでしょう。
怒るにはすごく勇気がいるもので、すぐには難しいです。
まずはパソコンでもメモ帳でもいいので、不満や怒りを書き出してみましょう。
徐々にむかむかとしてくることに気付けると思います。
そこで、無理に抑えずに「ああ、アタシはこんなに怒ってたんだ!」と気付ければOKです。
最初はそのくらいでスーッと怒りが引いていくと思います。
こうして、少しずつでも自分が怒ることを許可していくと、相手に対しても自然と怒りを表現できるようになります。

因みに怒りを表現できるようになると、自分自身が先に進むためのジェットエンジンを手に入れたことになるんですね。
怒りのエネルギーとやる気のエネルギーは同じと言われます。
あなたが怒りを許せた分、同時に、モチベーションもぐっとアップしていくんです!

(3)セックスで。

ケンカもいいんですけど、やはり一番お勧めしたいのはお互いに楽しめる、喜べるセックスを重ねていくことです。
セックス・コミュニケーションはとても大切で、どうすれば嬉しいのか?どうして欲しいのか?どうしてあげたいのか?をきちんと伝え合いたいものです。

でも、恥ずかしかったり、はしたなさ、嫌悪感があると、つい引いてしまって相手に身を任せすぎてしまいます。
そうすると相手はそれでいいんだろう、と誤解されることだって出てきます。

ある奥さんが昔「旦那が全然前戯をしてくれなくて、いきなり挿入してくるので痛くて痛くてしょうがないんです。でも、それすら恥ずかしくて言えずに我慢してるんです」と告白してくれたことがありました。
しかも、まだ新婚さんだったこともあってほぼ毎日求めてこられて、奥さんはノイローゼになりそうな状態だったんですね。
「痛いからちゃんとして欲しい」という一言が言えないために、一日中苦しまなきゃいけなくなったりするんですね。
で、カウンセリングの後、思い切って旦那さんに言ったそうなんです。
そしたら、あっさり「そっかー、ごめんなー、やっぱりなあ・・・。うん。今日から気をつけるわー」と了解してくれて、その問題から解放されたそうなんです。
「1年半も悩んでたことが、たった数日で解決されてしまって、拍子抜けしました・・・」と彼女は後でおっしゃってました。

セックスってもともと秘めたもの、という概念があるせいか、私達はお互いによく知らないことがたくさんあるんですね。
それに性差もたくさんあって、男性の常識と女性の常識は非常にかけ離れてるものがあるんです。
(例えば、男性は「女性というのはAV女優のようにすぐに感じて声をあげてくれるものだ」と思ってますし、女性も「男性はセックスが大好きなので何度拒絶しても大丈夫」とか思ってたりします)

もちろん、「分からない」ものは「分からない」で構いません。
それをスタートにしましょう。
自信がなくてもいいんです。
セックスほど、二人だけのオリジナルな世界を作りやすいものは他にないですから、ぜひ、二人で“研究”を重ねてみて欲しいんですね。

でも、ここで恥ずかしさという壁が大いに立ちはだかるんですね。
でも、無理する必要はないです。
ケンカやコミュニケーション同様、今より一歩踏み込む感覚です。

セックスというのがどれくらい大切か?というと、セックスがある夫婦とレスな夫婦では離婚に至る確率が全然違うことからも分かると思います。
また、カウンセリングの現場でも、例えば、ご主人が浮気をしている、でも、私とのセックスもある、という場合には、あまり心配は要らないようです。
むしろ、そのセックスを高めていくことでご主人の心をより早く取り戻すことができたりするくらいです。

特に次のステップに進む怖れが出てくるときは、セックスもお座なりになっていたり、退屈になっていたり、早くもレスになってることが多いんですね。
セックスは親密感を高める行為ですから、当然といえば当然ですけどね。

だから、倦怠感があるときはむしろ、もっとセックスを楽しもう!もっといいセックスをするにはどうしたらいいんだろう?という方向で考えたり、自分自身のセクシャリティ(性的魅力)をより解放するアプローチを取り入れてみることをお勧めしています。
自分はどんなセックスをしたいのかなあ?というのはこういうシーンで良く考えてみたいテーマでもあるんです。
(考えた後はパートナーにコミュニケーションしましょう!!)

●新たな選択の時期

コミュニケーションもケンカもセックスも、実際モヤモヤ感を感じている方にとっては、ちょっと「ええ・・・でも・・・」と言いたくなるような話だったかもしれません。
でも、この一線を越えていく、コミットメントを高めていく、そのためのモチベーションが今また試されているんですね。

だから、ある意味ではこうしたモヤモヤがあるときは新たな「選択の時期」とも言え、今のパートナーとより深い関係を築くのか?それともここで別の道に進むのか?を改めて選ぶときだと思うんです。

一歩踏み出すには勇気が必要です。
大きく息を吸って、もっといい世界へ、もっといい関係性を築こう!
そういう気持ちでいれば、焦らずともきっとまた前に進んでいけます。
今モヤモヤでイライラしていても、それは乗り越えていく事ができるんです。

皆さんが、更に素敵な関係性を築いていけますように・・・。
必要な時は私たちにぜひ一声おかけくださいませ!

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