カウンセリングに学ぶコミュニケーション2~話し手の“ファン”になろう!~

私達は話を聴く時に悪意はないにせよ、自分なりの価値観を通して聴いてしまうものです。

そこで正しさの判断が入ったり、良かれと思って自分の意見を押し付けると、かえって関係性は悪化してしまうもの。そんなとき、上手くコミュニケーションを図るアプローチをご紹介します。

カウンセリングに学ぶコミュニケーション~聴き手が主役!~」で、コミュニケーションにおいては、意外や意外、話し手ではなく、聴き手が主人公になる、という話を紹介させていただきました。
その中で「聴き上手になろう!」と提案させていただいたのですが、今回はさらに深く掘り下げて考えていきたいと思います。

●どう答えを返そうか?を考えてしまっている。

聴き上手になろうとする時に、よく引っかかりやすい間違いがあります。
カウンセラーもよく犯しがちなミスなのですが、話を聴きながら「どう答えようか?」と、聴くことよりも答えるほうに意識が向いてしまっていることです。
これは「ちゃんと解決してあげたい」とか「きちんと向き合おう」という気持ちが強ければ強いほど生まれやすいものなんですよね。
話を聴いているようで、聴けていない状態を作り出してしまう曲者です。
ですから、話を聴くときはこの点に注意しておくと良いですね。

●異なる価値観の扱い方~相手に興味を持ってあげる~

また、前回ご紹介したように、私達は無意識ながら、話を聴いているときに自分の価値観に基づき、相手の話を「判断」しながら聞いてしまうものです。
あなたが誰かと話をしてるときに、つい話をさえぎって「ちょっと、ちょっと、それっておかしいんじゃない?そんな考え非常識よ」と言いたくなったり、あるいは、そう言われたことはありませんか?

「普通」「常識」あるいは「普通じゃない」「非常識」というのも、あなた自身、その人自身の価値観を表します。
だから、そういう風に言われたら、言われた方はムッとしたり、悲しくなったりしてしまうんです。

そうした「決め付け」や「判断」は意思疎通を削ぐコミュニケーションとなってしまいます。
特に人の相談に乗っていたり、悩みを聞いたりしているとき、私達は「役に立ちたい願望」や「助けてあげたい気持ち」に心が強く動かされます。
そうすると、つい善意ながらも自分の価値観で相手を判断し、押し付けてしまうようになるんですね。
自分が助けてあげたい気持ちが強ければ強いほど、この価値観の押し付けはよく起こる問題なのです。

そこで大切なのことは『相手の価値観をありのままに認め、受け入れてあげること』なのです。

●「正しい」のは必ずしも「幸せ」ではない。

私達がよく陥る判断の罠はそうした「正誤」や「善悪」に関するものです。
「君は正しい」「お前は間違ってる」そういう基準で見ます。
もし、あなたが法律家で、そうした判断を法律に基づいて行う必要があったり、あるいはあなたが医者で患者に診断を下す必要があるのならば別ですが、それ以外では、多くこの「正誤」の判断は関係性を悪化させることが多くなるはずです。

それは「正しさ」と「幸せ」というのは必ずしも結びつかないからです。
もし、あなたが「正しかった」とすると、相対的に相手が「間違ってる」ということになります。
「正しい」あなたは気分はとても良いかもしれませんが、「間違ってる」相手としてはとても複雑な気持ちになるんじゃないでしょうか?
そこであなたが正しさを主張すればするほど、相手は遠のいていくことになるのです。
人間関係は感情によって成り立つものですから、良いコミュニケーション、良い信頼関係を築いていくためにはこうした「判断」はとても障害になるのです。

そのため、まずは相手の価値観を認めてあげることが大切です。
それは相手を否定しないという態度ですし、まずは、相手の話を遮るのではなく、きちんと聴いてあげようという姿勢がもたらすものです。

●相手の価値観を認める=興味を持って聴く

でも、つい「判断」してしまうのが私達大人というもの。
そこでこういう目で見てみると、ちょっとずつマシになるかもしれません。

それは「どうしてそういう考えをするんだろう?どうしてそう感じるんだろう?」という見方です。
すなわち、「相手に興味を持ってあげる」ということです。

例えば、「彼に嫌われるって分かってるのに、ついつい不安になって電話をかけちゃうの」って友達から話を聞いたとしますね。
そのとき、「そんなことしたら、彼だって嫌になるよ。やめなよ、そんなこと」というのは簡単です。
もちろん、そうしたアドバイスが奏功することももちろんありますが、きっとそれだけの信頼関係がある場合に限るでしょう。

それよりお勧めしたいのは、そこで「嫌われるってわかってるのに、どうして彼女は電話をかけちゃんだろうな?」って考えてあげるんですね。

自分に置き換えてもいいです。
「私はそういうことはしないタイプだけど、もし、嫌われるって分かってても電話をかけちゃうことがあるとしたら、どういう状況のときだろう???」って。

そうすると、すごく不安なんだな・・・彼に自分の気持ちを分かって欲しいんだな・・・そういう彼女の気持ちを推し量ることができるようになるんです。
(これがいわゆる「共感」という見方です)

でも、ここで再び「判断」や「決め付け」の罠に注意しましょうね!
つまり、「そっか、それくらい不安なんだ」って判断しないことがポイント。
もし、決め付けちゃうと「そんだけ不安なんでしょ?」って押し付ける表現になってしまいます。
(もちろん、これもTPOや関係性によっては悪いことではありません)
当てモノではないので、推理した結果にはそれほど意味はないんですね。
その気持ちを分かってあげようとする、受け入れてあげようとする、という態度が大事なのです。

そうすると「それくらい不安で、彼に気持ちを分かって欲しいのかなあ?」って答えてあげられるんですね。
たぶん、これが一番相手にとっては楽な答え方になるんじゃないでしょうか。
「そうなのよ・・・不安なのよ・・・」
って後にも続きやすいですしね。

こうしたちょっとした気配りができると、相手にもっと話をしやすい雰囲気を作ってあげられます。
相手に興味を持ち、言っていることをできるだけ自分の判断を除外して理解してあげると関係性はぐっと変わっていきます。

ここまで読み進んでこられて「そうは言っても難しいよなあ」と感じられる方は少なくないはずです。
こうした相手を尊重する話の聴き方は、主導権を握るというよりも受身のような気がしてしまうものです。
自分の考えや意見ではなく、相手のそれに耳を傾けるということは自己犠牲のように感じられる方も少なくないでしょう。
そんなことして役に立つのか?助けられるのか?ということが気になるかもしれません。
特に正しさの意識が強いと、どうしても「相手の言うことを聴くより、自分の言うとおりにした方がうまく行くのに」と思ってしまうものです。
その気持ちは相手を助けてあげたい愛情でもありますが、逆に相手を支配しようとする態度になってしまう場合も少なくありません。
それに信頼関係が十分でないと、相手からの押し付けと感じて拒絶反応が出てしまうものです。

だから、積極的に相手の話に耳を傾ける姿勢・態度が徐々に心を解きほぐし、あなたに対する信頼感や安心感をもたらしてくれるのです。
そうした信頼関係が生まれて初めて自分の話を相手が聞いてくれる準備が整うんですね。
だから、まずは「あなたから相手の話に耳を傾けること」が重要なんですね。
自分の意見はまずは置いておいて、相手が質問してくれるまで待つ、というのもカウンセリングの考え方なのです。

※こうしたひたすら聴く姿勢をカウンセリングでは「傾聴」と呼びます。

●相手に興味を持つともっと知りたくなる~効果的な質問をするために~

そうして、相手にどんどん興味を持っていくと、自然と乗り出すような姿勢になり
「ふん、ふん、それでそれで・・・?」
って先を促すような相槌が打てたり、
「へえー、そうなんだー」
って反応してあげる回数も増えていきます。

そうすると、「じゃあ、こういうケースはどうなんだろう?」「こういうときは?」といった疑問が頭に浮かんでくるようになるんですね。

皆さんもミュージシャンを好きになったら、その曲は全部聴いてみたくなるでしょうし、雑誌などのインタビュー記事もチェックしたくなりませんか?
そして、いろいろ興味を持って知りたくなると思うんですね。

話を聴くときに、そんな風に「ファンになる」という気持ちで接することができると、あなたは自然と「質問上手」になっていきます。

そういう質問を、カウンセリングでは「効果的な質問」と呼びます。
相手の人が気持ちよく、また、自然と話を繋げていける、そんな環境をプロデュースするのが「効果的な質問」なんですね。

もちろん、皆さんもファンになりたい相手ばかりではないと思いますが、興味を持とうとすること(それは心理的には自分から相手に近づく行為です)で、より積極的に関わっていくことはできるようになります。

特にこの「ファンになる」という意識は苦手な人にこそ、使っていただきたい視点です。

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