心の距離感~寂しさ、親密感を感じる仕組み~

二人の関係がなかなか縮まらないな・・・と感じるときは、このお互いの「心の距離感」が関係していることも多いんです。

カップルでいらしてくださった方にこんなセッションをしてみることがあります。
「ちょっと二人の心の距離を測ってみましょうね」という目的で。

まずは二人に少し離れて(4,5m)向き合って立ってもらいます。
そして、一方は動かずに、もう一方に少しずつ相手のほうに近づいてもらうんです。
一歩近づいてはどんな感じがするのかをチェックしながら。

そうするとある地点で「ちょうどいい距離感」の場所が見つかります。
この「ちょうどよい距離」というところで、僕たちは安心感や親密感を感じます。
だから、そこから一歩でも近づくと「ちょっと近すぎるかなあ」と圧迫感を感じますし、一歩でも遠ざかると「ちょっと遠いかな」と寂しさ感じます。

そこで、もう一方の方に「この距離感はどうですか?」って聞いてみます。
「ちょっと近すぎる感じ」とか「ちょっと遠い感じ」とか素直な感想を言ってもらうんですね。
そして、今度は交代して同じことをしてもらいます。

そうすると、自分にとってちょうどいい距離感が、相手にとっては近すぎたり、遠すぎたりすることに気付きます。

これが“二人の距離感”と言われるものです。
これは仲の良いカップルでも違うことが多いんですね。

抽象的で分かりにくいと思うので具体的な例をお話しましょう。

ヒロユキ君とリカちゃんがこの心の距離を測ってみたとします。
ヒロユキ君はリカちゃんに2mのところまで近づいたところが「ちょうどいい距離」だったとします。
一方、リカちゃんはヒロユキ君に1mのところがちょうどいいとしましょう。

そうするとヒロユキ君にとってのちょうどいい距離(2m)というのは、リカちゃんにとっては少し遠い感じがしますし、リカちゃんにとってちょうどいい距離(1m)というのは、ヒロユキ君にとっては少し近すぎる感じがしますよね。

すると、ヒロユキ君のペースで二人の恋愛が進んでいるとしたら、二人の心理的な距離はヒロユキ君のちょうど良い距離=2mですから、リカちゃんはいつもヒロユキ君を少し遠くに感じて寂しくなってるかもしれません。

でも、一方のヒロユキ君にとっては2mというのは安心感や親密感を感じる距離ですので、リカちゃんがそんな風に思ってるとは夢にも思わないわけです。
だから、リカちゃんがヒロユキ君にその寂しさを訴えたとしても「そう?僕はちょうどいいけど、何でそんなこと思うの?」と気持ちを理解してもらえないかもしれません。

そこでリカちゃんがもっと近づくべく、距離を縮めようとすると、ヒロユキ君にとっては「近すぎる距離」の範囲にリカちゃんが入ってこようとしてますから、リカちゃんが近づいた分だけ、ヒロユキ君は後ずさりしてしまい、なかなか縮めることができません。

そして奇策を使って一気にヒロユキ君に近づいたりすると、急に近くなってヒロユキ君がびびってしまい、リカちゃんを突き放すような態度に出るか、あるいは、リカちゃんに背を向けて逃げ出してしまったりします。

そうするとリカちゃんはこう思うんですね。
「きっとヒロユキはあたしのこと好きじゃないんだわ!」

お互いにもっといい関係を作りたいのに、なぜかうまくいかない場合には、こんな心の距離の問題が隠れていることが少なく無いんです。
そして、その結果は多くのカップル曰く「とても意外なもの」なんですよね。

自分の方が距離感が近いと思っていたのに、実際は逆だった・・・なんてこともありますし、思っていた以上に相手との距離が空いていたり、新鮮な驚きや発見をされる方が多いみたいですね。

●パーソナルスペース

このたとえ話に出てきたヒロユキ君の2m、リカちゃんの1mというのは、パーソナル・スペースと呼ばれます。

いわば、他人に入られたくない距離感のことで、人それぞれ違いますし、相手によってもTPOによっても変わります。

分かりやすく言えば、ヒロユキ君は半径2mのフラフープを、リカちゃんは直径1mのフラフープを持ってお付き合いしてるような感じですね。

このパーソナル・スペースに誰かが入ってくると、もぞもぞと気分が悪くなったり、嫌な感覚がしてきます。
なぜかというと、そのパーソナル・スペースの中は「痛み」がたくさん詰まっているところだからです。
誰かがその距離に入ってくるとその痛みが疼いて「また傷つけられるんじゃないか?」という怖れが出てくるんです。

よく格闘技や剣術に「間合い」という言葉がありますよね。
それと同じで、パーソナルスペースというのは“傷つかなくてもいい距離=自分を守れる距離”でもあるんです。

だから、満員電車や雑踏を歩くと疲れてしまうことが多くなるんですね。
自分のパーソナルスペースに色んな人が勝手に入ってくるわけですから。

このパーソナルスペースは、個人個人が持っていて、子どもから成長してくるプロセスで形作られます。
他人に傷つけられた経験が多い人ほど、このスペースは広く、人を怖いと感じやすくなります。

●痛みを越えて近づくこと

このパーソナルスペースが広ければ広いほど痛みが大きいと言えるわけで、先の例であれば、ヒロユキ君の方がリカちゃんよりも傷ついてる・・・なんて言えたりもします。
ただ、それは一つの象徴なので、ここでヒロユキ君が「俺の方が傷が深いんだから、お前が面倒見ろよ」なんて風になってしまうと問題ですね。

「ヒロユキ君の方が怖がりさんなんだから、リカちゃんは近づくときは気をつけてあげようね、ヒロユキ君はその痛みを怖れることなく、リカちゃんをもっと受け入れて上げられるようになろうね」というのが二人にとっての当面の目標になります。

そして、実際にお互いがもう少し近づいてみることが大切なんですよね。
リカちゃんにとってはまだちょっと遠くてじれったくなるかもしれませんし、ヒロユキ君はイヤ~な感じをたくさん感じてしまうかもしれませんが、お互い相手を理解し、忍耐を学ぶ必要があるポイントです。

この忍耐も「相手を大切にしよう。二人の関係を大切にしよう」という思いが、乗り越えさせてくれるものです。

そこでの鍵は何と言ってもコミュニケーションです。

実際のセッション風景に例えてみます。
リカちゃんが「少し近づくね。(2,30cm近づいて)これくらいはどう?大丈夫?」と声をかけてあげます。
リカちゃんとしてはもっと一気に近づきたいんですけど、ここはヒロユキ君を思いやって忍耐です。

一方、ヒロユキ君は「うん、それくらいゆっくり近づいてくれるなら大丈夫。でも、ちょっとまだザワザワするから、そこで少し待ってて」と自分の気持ちを感じながら、徐々にそれを受け入れていこうとします。

そうして、二人の距離が少しずつでも近づいていくと、ヒロユキ君が誰も入れなかった領域にリカちゃんを招き入れることができるようになっていきます。
それはヒロユキ君にとってはとても特別な存在としてリカちゃんを見るようになっていくんです。
これが“絆”とか“信頼関係”なるものです。

お互いの気持ちを確認しながら少しずつ近づいていると、怖かったはずの距離感に少しずつ慣れていくんですね。
そして、その怖れを感じて乗り越えた分だけ、そこに「親密感」が生まれます。
早い話が、ヒロユキ君はリカちゃんのことを今まで以上に大好きになっちゃうわけです。
これが、パーソナルスペースの中にあった痛みが解放された瞬間です。

パーソナルスペースの中に人を入れると過去の傷が痛むと思っていたのに、実際は大丈夫だった・・・という成功体験になるんですね。

そして、徐々に近づいていくと、今度はヒロユキ君がリカちゃんのパーソナルスペースに入っていくことになります。
そこでは役割を交代して、ヒロユキ君が近づき、リカちゃんが受け入れる番になります。
そして、少しずつ、確実に怖れを親密感に変えながら近づいていくと、お互いに情熱がどんどん高まって、かけがえのない存在になっていきます。

二人の距離が50cmとかになると、もう二人とも相手の間合いに入ってるわけですから、無防備に、裸で向き合うのと同じような感覚になってきます。

実際のセッションでも、このくらいの距離になってきたときに、二人の間にラブラブ・エネルギーがたくさん出てきて、僕自身が居場所を失ってしまうこともあるくらいです(*^^*)

●現実には?

実際のカウンセリングの例を取りながらお話してきましたので、これを読まれてる皆さんは「じゃあ、どないしたらええのん?実際にそんな風に向き合ってやれ言うのん?」と思われてることでしょう(笑)

では、大切なポイントを纏めましょう。

一つ目は、お互いに親密感を感じる距離が違うことがポイントですね。
「私のこと、こんなに放っておいて好きじゃないんだわ」というのは、案外、思い過ごしの場合も多いものです。
その距離感の違いが、その寂しさや不安、不満を作っていることもある、ということを知ろう、理解しよう、と思ってみて下さい。

一般論ではありますが、女性に比べて男性の方がパーソナルスペースは広いと言われます。
それで、男性に比べたら女性の方が恋愛で「寂しさ」を感じることが多いのかもしれません。

二つ目は、お互いの距離を縮めるときにはコミュニケーションが不可欠ということ。
「もう少し近づきたいんだけど・・・あなたにはちょうどいい距離なのかな?」とか、
「もう少しメールしたり、電話したりしたいんだけど、あなたは迷惑じゃない?」とか、
基本的かもしれないけれど、相手を気遣い、自分の気持ちを大切にするコミュニケーションがとても大切なんですね。

寂しさがあると、ついついそれを盾に近づこうとし過ぎてしまいます。
それは自分には良くても、相手にとっては辛い場合もあることを知っておくこと、そして、それが必ずしも自分のせいではない(私のことが好きか嫌いかではない)ことを忘れないでおいてください。

三つ目は相手を理解し、忍耐することも必要だということ。
相手がどんな心理状態で、どんな距離感を持っているかを知ることは、お互いの関係性を良くするために、とても大切なことだと思います。
そこでは自分本位にならずに、相手を理解しようとする気持ちが大切です。

先ほどの例のように、相手にとっては少し近すぎて、私にとっては遠すぎるなんて地点もあるんですよね。
そこでは、相手がそこに慣れる、あるいは自分を受け入れられるまでの「準備期間」が必要です。
相手に準備ができるまで待ってあげるわけです。

その間により相手のことを学ぶこともできます。
「こういう聞き方したら口をつぐんでしまうのか」
「こんな反応の仕方をしたら、彼は喜んでくれるのね」などなど。

また、受け入れる側(さっきの例ならばヒロユキ君)の場合も、相手を信頼して、少しずつ自分のスペースの中に相手を入れてあげようとする勇気が必要ですね。

実際はそう簡単にはいかないので、じっくりとチャレンジしてみる必要があるんですが、この距離感を二人の関係を見つめる物差しにしていただければ幸いです。

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