こんにちは、平です。
彼は、九州のとある有名な料亭の一人息子です。
いまは東京で銀行員をやっているのですが、もうしばらくしたら、経
営者となるために地元に帰る予定です。地元の名士である彼の父親は
政治家でもあり、将来、彼はそれをも引き継がねばならないかもしれ
ません。
一方、彼女はとてもかわいらしい女性なのですが、なにをとっても自
分に自信をもつことができないタイプでした。
それで、彼女は繰り返し、こんなふうに言っていたわけです。「私は頼りにならないわよ」とか、「私はなんの役にも立たないからね」とか、「私をあなたの家に連れて帰って、嫁にしようなんて思わないでね」、と。
彼女は大好きな彼が銀行員のままでいて、そして、このまま東京でおつきあいを続けていけたらベストだと考えていました。家の跡取りについては、彼がおねえさんか妹に譲ることにしてくれないだろうかというかすかな希望をもっていたわけです。
そんな状況でしたので、二人が恋人としてつきあっているうえでは問題はほとんどないのですが、こと結婚となると、それはもう問題だらけだったのです。
彼女はすでに2度ほど、彼の実家に挨拶にいっていましたが、その実家に入ることは、まるで歌舞伎役者のお嫁さんになるがごとくのように彼女には感じられました。
料亭ですから、対人関係にもきめ細やかな対応が不可欠で、当然、彼のおかあさんは彼女にそれを期待するわけですが、それが自分にできるとは彼女にはとうてい思えません。で、いまや、彼の実家に近づくだけで、アレルギーまで出る始末‥‥。
その彼女が彼を連れて、面談カウンセリングにやってきたわけです。
彼女的に言うと「煮え切らない態度の彼」に業を煮やしてのご相談でした。
さっそく私は彼に聞いてみました。
「彼女が言うように、東京でこのまま銀行員をやっていくということはできる話なの?」
彼は困ったような顔をしながら、こう答えました。
「それは、ありえません」
そこに、彼女がヒステリックに口をはさむわけですが、そうはいっても、彼には背負っている世界があるわけです。
彼はこう思っています。「この先、二人が結婚するには、彼女が考えを変えて、うちの嫁として、僕が背負っているものを一緒に背負ってもらうしかない」。しかし、やさしい彼は、それを彼女に言い出すことはできなかったわけです。
彼の代弁者として、私は彼女に言いました。「彼と結婚したければ、東京の銀行マンの夫人になるという道はあきらめたほうがいいようだね‥‥」
「彼といっしょに九州に行き、彼が背負っているものすべてを二人で受けとめていくか、さもなければ、彼以外のパートナーを探すかということなんだけど、それはきみが決めなければいけない」
彼女はそれがずっと決められなかったわけです。で、彼女の世界に彼を招待し、彼女のイメージする形で住んでもらいたいと思っていたわけですが、現実として、それは叶わない夢であるわけです。
彼曰く、「彼女に“私を愛しているなら、なんでもできるでしょう?”と言われたとしたら、僕は彼女を愛することよりも、自分の責任を大事にしているということになるのかもしれません‥‥」
「しかし、私はこの家の長男として生まれました。跡取り息子としての十字架をとろうとか、そこから逃げ出そうということは考えたことがありません‥‥」
「だから、彼女に理解してもらい、二人で一緒にやっていきたいと願ってはいるのですが、彼女はおそらく拒否するだろうと思い、言い出しかねていました」
その言葉には、彼の強い決意が感じられました。
一方、彼を変えようと考えていた彼女は、「自分が変わるしか道がない」ということをこのとき初めて理解したわけです。「彼にとっての結婚」とはどういうものかということがようやくわかったのです。
そして、ここで彼女は、いままでの人生でずっとサボってきた問題にぶち当たったのです。「自信がない」という問題です。
これはつまり、彼女の中の「やる気のない場所」でもありました。ずっとサボってきたこのジャンルに取り組むには、じつは彼への愛が必要だったともいえるようです。
現在もなお、彼女はこの問題に取り組んでいますが、当然のことながら、取り組めば取り組むほど、多くの変化が彼女に訪れました。最近はまるで生まれ変わったかのように、自信にあふれ、たのもしい表情の彼女に出会うことができるのです。
では、次回の恋愛心理学もお楽しみに!!