同じ轍を踏みたくない

相談者名
冬美
はじめまして。現在、優しい夫と息子に恵まれ、長く海外に住んでおります。

私の育ち方はあまりよくないものでした。何か気に入らないことがあると暴力をふるう親、冷たい言葉。私の両親の生い立ちもよくないので、しょうがないことと、親への怒りとは距離をおきつつ、やってきています。

しかし、いやというほど、目の当たりにした自己中心的な親の言動が、今になって、私が息子にふとしたことに、発しようとする言葉の中に、私の両親のそれだと気がついたとき、情けなくなりました。

暖かい家庭を築きたい、私の両親の二の舞になりたくない、私の息子には、私が強いられてきた子供の人格など無視された辛さを味あわせたくない、
そう強く願う中、「あたたかい母親」 とはかけはなれた
”自動的に浮かぶ冷たい言葉”を喉元でおさえるたびに、毎日、あやういところで、手詰まりといったような ギリギリセーフの苦しさ、自分の情けなさを感じます。

息子が辛い時に 「おかあさんってやさしいなあ。あったかいなあ。」と
思いうかべられるような存在になりたいのですが、恥ずかしながら、自分の中で頭、心の中のタンスの引き出しの中が、その部分は空っぽです。

なにかいいロールモデルになるような本などはありませんでしょうか?

よろしくお願いします。

カウンセラー
三島桃子
冬美さん、はじめまして。今回担当させていただく三島桃子と申します。どうぞよろ
しくお願いいたします。

自分は親のようにはならない、と思っているにも関わらず、親と同じようなことをし
てしまいそうな自分に気付くと、とてもショックですよね。まずは、冬美さんの心の
中で何が起きているか、ということを見ていきたいと思います。

冬美さんは

>私の育ち方はあまりよくないものでした。何か気に入らないことがあると暴力をふ
るう親、冷たい言葉。

と書いておられますね。安心感がなく、やり場のない悲しみ、寂しさ、怒りなどを抱
えた子ども時代だったことでしょう。

一番つらかった頃の自分、というのをイメージしてみると、何歳ぐらいの自分が思い
浮かびますか?

その、思い浮かんだ冬美ちゃんは、今も大人の冬美さんの心の中にいる、と思ってく
ださい。その子は救われない思いのまま、冬美さんの心の片隅でずっとがまんし続け
ています。

>しかし、いやというほど、目の当たりにした自己中心的な親の言動が、今になっ
て、私が息子にふとしたことに、発しようとする言葉の中に、私の両親のそれだと気
がついたとき、情けなくなりました。

というようなことが起こるのは、心の中の、傷ついたままの冬美ちゃんが「あんな目
に合って本当につらかった」と訴えているサインだと考えることができます。

親子関係の中でつらい目にあった場合、私たちはそれをできれば忘れたい、と思いま
す。親のことを憎み続けるというのは、精神的に重い負担となります。何といっても
親ですから、できれば愛したいのです。それなのに嫌い続けるという状態になると、
そんな自分自身が嫌になってしまいます。

ですから、「あれはもう過ぎたことで、しょうがないしどうにもならない」と考え、
完全に忘れることはできなくても、できるだけふたをして、見ないようにして暮らし
ていこうとします。

ところが、これは、「つらかった」という思いにもふたをして抑圧してしまうことに
なります。抑圧された思いは、出口を求めてさまよい、ちょっとしたきっかけをつか
まえて表に出ようとします。これは意識的になかなかコントロールできませんし、コ
ントロールするとよけいに抑圧しますので、また別の形で噴き出そうとしてきます。

これは困ったことだ、と感じるかもしれませんが、視点を変えて考えると、これは治
癒を求める心のサインなのです。ですからこのサインに応じてあげることが、冬美さ
ん自身を救い、悩みの解消につながります。

どうすればいいか、ということですが、心の中にいる、つらかった冬美ちゃんと向か
い合ってあげて、この子の感情を一緒に感じてあげる、ということがセラピーになり
ます。

心の中の冬美ちゃんは、あの苦しみをなかったことにしろとは言っていないのです。
ただ、わかってほしいのです。「しょうがない」と打ち捨てず(そうしていたつもり
はないかもしれませんが)、どんなにつらかったかを、大人の自分に分かち合ってほ
しいのです。心から分かち合えてもらえた、と思えば、子どもの冬美ちゃんは納得
し、安心し、つらい時期を経験しながら生きた自分の力強さを受け取り、自信を持つ
ことができます。

そしてその自信は、大人の冬美さんのものにもなるのです。

子どもの頃の冬美さんは、「弱くてかわいそうな存在」ではありません。「強く生き
抜いたエネルギーある存在」です。今の冬美さんもそうです。そのことを感じること
ができるようになると、心の安定感がぐっと大きくなると思います。

そして、息子さんと温かい心のやりとりをする余裕も持てるようになっていくと思い
ますよ。

(このセラピーは、一人では難しい、苦しい、と感じるようでしたら、カウンセラー
と共に取り組むことをお勧めします。)

また、冬美さんがおっしゃるように、ロールモデルも積極的に見つけていくといいと
思います。本もいいですよね。家事のカリスマ的な方が書いた本などもいいですよ。
日本で有名な人だと、栗原はるみさんや、有本葉子さんがいますね。こういった方の
本を読むと、暮らしのひとつひとつを丁寧に扱う姿の中に、自分自身や家族を大切に
思う気持ちが込められていて、「落ち着いた心豊かな女性・母親」というのはこうい
うものなのだな、と感じるところがあります。

また、今自分の周りにいる年上の女性たちの中で、ロールモデルを見つけることもお
勧めです。もてなし上手の女性、本当に心優しい親切な女性、安定した強さのある女
性など、ふところが大きく、温かい方は、きっとお知り合いの中にもいると思いま
す。

私自身、本や、人とのおつきあいを通して、たくさんの先輩女性たちから、「母に与
えてほしかったもの」をいただいてきたように思います。

冬美さんのことを日本から応援しています。ご相談ありがとうございました。

三島桃子

この記事を書いたカウンセラー

About Author

退会しました。