アカウンタビリティーは「どんな出来事にも意味と理由があり、そこには学びと成長のチャンスがある」と言う視点を与えてくれます
この視点で物事を見ることができるようになると、苦労や、憤り・不安・怖れ・悲しみを感じていたことが、全く違って見えてきます。
例えば、仕事で上司から攻撃的な態度を取られている時、そこに意味と理由を見ようとすることで、自分にとって苦手な上司が、自分の成長を促してくれる存在に感じられるようになり、人間関係を円滑にするアプローチになりうるのです。
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連載第2回の今回は、実際のカウンセリングを受けられた方が、具体的にどのようにアカウンタビリティーを使っていけるようになり、どのように問題が解決していったかについてお話しします。
(本記事は、クライアントさんご本人の許可を得ています。また、本人特定ができないよう脚色しています。)
◇プロジェクトチームのサブリーダーに抜擢された困惑
IT業界に勤務のAさん(35歳男性)。
半年前から社内の大きなプロジェクトチームに抜擢され、しかもプロジェクトのサブリーダーを任されることになりました。
Aさんは無口なタイプで人と話をするのが苦手。自分ではなぜ、今回のプロジェクトチームサブリーダーに抜擢されたのかがわからないと話されます。
しかし、お話を伺った私からには、抜擢の理由がわかりました。
真面目で誠実で責任感が強いところが見て取れ、ここが評価されたのだろうな、と感じたからです。
そのことをお伝えしても、Aさんは全くピンとこないと言われます。
そんなAさんに私はいろいろなお話をさせていただきましたが、その中の一つが「アカウンタビリティー」でした。
「もしAさんにとって今回のサブリーダーになったこと、そして、そのために悩み苦しんでいることに意味があるとしたら、それは何なのでしょうね」
と私はAさんに問いかけました。
Aさんは首を傾げるばかりです。
「あなたは人一倍責任感が強い方だ。だからこそ、仕事を一人で抱え込んで、誰にも頼らずにやってておられませんか?。それは、誰にも迷惑をかけたくないからこその行動ですが、異動前から、この仕事のやり方に限界を感じていたのではないでしょうか。
今回のことは、一人で抱えるのではなく、誰かを頼りにして、手伝ってもらったり、協力してもらったりするやり方に変えていくチャンスなのだと私は思います。」
「そう言われても、誰も僕のことを助けたいと思ったりしてくれませんよ。人ってそういうものでしょ。大体、仕事は誰かに頼るなんて甘いこと言ってたらやっていけないじゃないですか。」
そう言いながらも「よく考えてみます」と言われてカウンセリングルームを去っていかれました。
◇職場でのトラブルに困り果てた末にたどり着いた「この出来事の意味」とは?
Aさんは数ヶ月に渡ってカウンセリングを受けてくれました。
ある時、晴れやかな顔でカウンセリングルームに入ってきたAさんが
「仕事で大きなトラブルが発生して大変だったんですよ。」と笑顔で言われます。
なぜ笑顔なんですか?と伺うとAさんはこう答えられました。
「出来事には意味がある、という言葉がどういうことなのかがわかったんです。」
ある日、Aさんはプロジェクトチームが進めている仕事で大きなトラブルが起こりました。
Aさんのミスではなかったのですが、Aさんがチェックする一人だったために、Aさんは激しく動揺し、責任感の強い彼は、全ては自分のせいだ、と自らを責めました。
責めながらも、事態に対処しなければならないと、自分のデスクの上で電話、メールと一人で奔走し始めます。
苦しみの中、Aさんはどんどん暗い気持ちになり、怒りが湧いてきます。
その時、Aさんは急にこの言葉を思い出したのです。
「出来事には意味がある」
こんな苦しい思いをすることに何の意味があるんだ。
どうせ自分はプロジェクトチームの仕事する力はないんだ。
こんなやり方しかできない、こんな会社にいることが間違いなんだ。
どう責任を取ろう。ミスの責任を取って辞職するしかないか・・・。
チームメンバーも、どうぜ俺のせいだと思って怒ったり呆れたりしてるんだろう・・・。
こうした時、私たちの思考と感情は、ぐるぐると負のループの中に入って抜けられなくなってしまいます。
しかし、Aさんはさらにこの言葉を思い出しました。
「この視点で物事を見ることができるようになると、苦労や、憤り・不安・怖れ・悲しみを感じていたことが、全く違って見えてきます。」
「意味、意味って何なんだ・・・。誰か教えてくれ・・・。」
そう思いながら、自分のデスクから顔を上げたのです。
すると・・・チームのメンバーがみんなAさんを見ていました。
みんなの顔は・・・怒っている人も、呆れている様子もありませんでした。
ただ、Aさんの言葉を待っているように感じたのです。
Aさんはこの時のことを振り返ってこう語ってくれました。
「どうせ誰も自分のことを助けてくれない、そんな思いからメンバーを見たら、こんな風に感じられなかったかもしれません。
もし自分を助けようとしてくれている人がいるとしたら、そう思いながらメンバーを見たから、助けてくれようとしていると感じられたのだと思います。」
Aさんは、そこで一人で抱えるのではなく、勇気を持ってチームのメンバーに助けを求めることができたのです。
断られるのではないか、怒られる、呆れられるのではないかという思いが込み上げてくるのを抑えながら話をすると、チームメンバーはみんな待ってましたとばかりにトラブルの対処を手分けしてやり始めてくれたのです。
Aさんにとってアカウンタビリティーの視点を実際に使うことができた体験でした。
次回に続きます。
>>>『自分の人生を生きる力・アカウンタビリティーという視点(3)~自己肯定感がカギを握っている~』へ続く