仕事ができるタイプのリーダーは、人手不足の分も、チームの成績が足りない分も「自分が頑張って穴を埋めればいい」と一人で抱え込んで仕事をしていることが少なくありません。そして、ハードワークをしてでも抱えた仕事をこなしてしまいます。
とても頼りになるリーダーです。
けれど、このタイプの人の限界もあります。
それは、チームの不足分を一人で担っていることが、チーム全体の成長の機会をなくす要因になっていることがあるからです。
チームで成果を出していくには、メンバー一人ひとりの力が相乗効果で積み上がっていくのが理想的です。誰か一人が頑張るのではなく、メンバーみんなの力で大きな成果を上げるイメージです。
そんなチーム作りのためのリーダーの役割は、意外とシンプルです。
次の3つを意識すると、メンバーとのかかわり方が変わります。
・よく見る
・承認する
・信頼して任せる
よく見るとは、相手に関心を持つことです。
関心を持つこととは、愛情を持って接することです。
そして、「自分に関心を持ってもらえている」ことは、メンバーに伝わるものです。
実際にあった話です。
(ご本人の許可を得て掲載しています)
「指示待ちタイプの部下ばかりで困る」と嘆いていた管理職の方がいました。その方はプレイングマネジャータイプで、自ら率先して売り上げを作りながら、管理職としてマネジメントもしていました。自分がプレイヤーとして高い成果を上げていたため、部下の足りない点ばかりが目についていました。「こんなこともわからないのか」とあれこれ細かく指示を出し、気がつくと部下が指示待ちタイプばかりになっていました。
その方に、こんな話をしました。
「上司の仕事は、部下の頑張りを見てあげることです。上司にちゃんと見てもらえることは、部下にとってとてもうれしいことなんです。当たり前にできていることや小さな頑張り、ちょっとした工夫を見てあげてほしいんです。イメージは、理想的なお父さん。問題が起きたときには、チームを守る。普段は、みんなの成長を見守っているやさしいお父さんのイメージです」
すると、管理職の方はさっそく実行しました。
「お、やってるね」と声をかけたり、「いつも仕事が丁寧で助かるよ」「この点を工夫してくれたんだね」と気づいたことを伝えました。
それまでは、目標達成しないかぎり、部下を承認する言葉をかけたことはありませんでした。
「あの件、どうなってるんだ」と叱る言葉や、指示出しの言葉が圧倒的に多かったのです。
当たり前にできていることは、「できて当たり前」と思ってしまうものです。
けれど、当たり前にできていることや小さな頑張りにも「よくやってくれているね」と言われたら……やはりうれしいですよね。モチベーションが下がっているときは、なおさらです。ちゃんと見てくれる人の存在は、意欲を引き出すだけでなく、自分一人では越えられない壁を乗り越える力にもなるのです。
続けるうちに、部下を見る目が変わっていったそうです。
一人ひとりの小さな頑張りを見つけようとしたことで、見えなかったものが見えるようになったのです。
「指示しないと動かない」とか「あいつは反発ばかりする」と思えていた部下の働きぶりが、「よくやってくれているんだな」「彼は彼なりに部をよくするために、やってくれていたんだな」と思えるようになったといいます。
仕事の任せ方も変わりました。日ごろから一人ひとりをよく見るようになったことで、「この案件は、彼女に任せるといいんじゃないか」「彼にはこんなふうに成長してほしい。だからこの仕事を任せてみよう」とそれぞれの状況にできるだけ合う形で任せるようになっていきました。
口にする言葉も変わっていきました。
「君はこの点を頑張ってくれているよね。そんな君には、これから先、こんなふうになっていってほしいんだ」
「この仕事を君に任せたいと思うんだ。君ならできるだろうと思っている。この仕事をすることで、こんなふうに成長してもらいたいと思っているんだ」
部下を「できない人扱い」するのをやめて、「君ならこんなふうになれる」と一人ひとりのよさと可能性を見るようになったのです。
その結果、部下たちも次第に変わっていったといいます。
「まずはやる気が高くなったのを感じました。そのうち、『僕がみんなをまとめます』と率先して引っ張ってくれる部下が現れるようになりました。それまでは自分一人が頑張らなければと思っていました。けれど今は、部下に頼りがいが出てきたのを感じています」
有能な人ほど何でもできてしまうため、「自分でやったほうが早い」と思うものです。また、細かい点まで気づいてしまうため、部下の粗が目についてしまうことも少なくありません。
もちろん、「なんでこんなこともできないんだ!」という気持ちになることもたびたび起こるでしょう。
そのたびに、「部下の頑張りをちゃんと見よう」「部下の成長を見守るのが自分の役目」と何度も何度も思い直す。その繰り返しなんです。シンプルな法則の粘り強い積み重ねが、自分がメンバーを見る眼差しを変え、ひいてはメンバーの成長を促すのです。
一人で成果を上げるリーダーから、愛情を持ってみんなを見守るリーダーへ。
みんなで成果を上げるチーム作りの小さな一歩を始めてみませんか。