ルナさん、こんにちは。 池尾昌紀と申します。 ご相談ありがとうございます。 ご自身のこと、そして彼のこと。様々な事が幾重にも積み重なって、本当に大変なところだと思います。 けれども、こうしてご相談をお寄せくださったことは、そこから出て行く大きな一歩を踏み出す自らが作られた証拠です。 どうか、そんなご自身の勇気を誉めてあげてください。さて、心理学には「投影」という言葉があります。 これは、自分の心の見方や感じ方を、他の人やものに映し出すことを言います。 人は、誰もが同じものを見ても、同じ感じ方をするとは限りません。 例えば、カフェでお茶を飲んでいる時、おじいさんが入ってきて隣の席に座ったとします。 その時のおじいさんへの感じ方というのは、自分の実際のおじいさんにとても優しくかわいがられた人にとっては、やさしいおじいさんだな、と好感を持ってみることができますが、とても厳しく接しられたという人にとっては、いい感じがしなかったり、その思いが強かったりした場合には、隣の席に座られるだけで緊張したりすることがあります。 このおじいさんが厳しい人なのか、優しい人なのかは関係なく、見る人の心にとって「おじいさん」がどのような存在だったか、によって変わってしまうわけです。 いってみれば、我々は、ひとりひとり色の違うサングラスをかけているようなものです。 赤いサングラスをかけている人は赤く見えるし、青いサングラスをかけている人は青く見える。 つまり、同じ出来事や状況に対して、人によってそれぞれ違う色づけをして見ていると言えます。 だから人によって物事の感じ方が違うのですね。 厄介なのは、自分ではどんな色のサングラスで見ているのか、自分ではわかりにくい、というところにあります。無意識に投影をしてしまうので、本人は投影していることに気がつかないことが多いのですね。ですから、実際に投影をしているケースでも、問題は自分のものの見方にあるのではなく、外に問題があると感じてしまいます。 人によって得意なタイプ、苦手なタイプというのが違うのはこうした「投影」の作用で起こってくる場合があります。 姉御肌の女性が苦手な人、年配の男性が接しやすい人など、相手がどんな接し方をしてくるかに関わらず、近づきやすいなあと思う人や、なんか不安になったりイライラする、ということが起こってくるわけです。 先に出した姉御肌の女性が苦手な人を例に取りましょう。 この人は自分の母親がとても厳しい人でいつも叱られてばかりいたとします。その母親が姉御肌のタイプだったとすると、他人なのに姉御肌の女性を見ると、無意識に母親の姿を映し出してしまうことになります。 すると、ある時にこの女性がすごく怒っている姿を見た時、それは全く別のことで怒っているのにも関わらず、「この人は自分のことを怒っている」と、いつも自分のことをよく思っていないように感じてしまうわけです。 逆に、こうした「投影」の考え方を覚えておけば、苦手な人が出てきた時にとても役に立ちます。 先の姉御肌の苦手な人の続きで言えば、「この人は自分のことをよく思っていない」と思っていたことを、もしかしたら「投影」かもしれない、と考えるわけです。 「自分のことをよく思っていないと感じていたけど、本当はよく思われていないと感じていた母親を映し出しているからで、この人はそう思っていないのかもしれない。」と思うことができたら。 今までは不機嫌な時はいつもビクビクしていたのに、自分のせいじゃないかも、自分の見方次第かも、と思えたら、実際に接していく時にとても楽になれます。 さらに、「投影」の考え方によって、自分の「投影」が過去の家族等にあった未完了の問題がルーツになっていると気づくことができたら、この未完了の問題を解決することで、今後、こうした「投影」を他のひとやものに映し出すことがなくなり、人間関係等において大変役に立つことになります。 続けて先の例を出して言えば、厳しい母親との間にある確執を解決すると、今後、このタイプの人と接することが楽にできるわけです。 しかしながら、こうした投影の元になっている過去の誰かのことを「許していく」ことはなかなか難しいことです。 最初のアプローチとしては、相手の立場に立ってみてあげる、理解しようとしてみるということになります。 先の人の場合は「母親はどうしてあんなに厳しかったのだろう。実は本当は優しくしたかったけれど、無学な自分が苦労してきたから、私にはそんな苦労をしてほしくないと厳しく勉強させて進学させたかったのかもしれない」など、厳しくするやり方は良くなかったかもしれませんが、その理由である気持ち、相手のおかれた立場や状況を思いやることができれば、その人を受け入れるハードルを下げることができます。 長々と「投影」について説明させていただきましたが、これがルナさんの場合にも当てはまるとしたら、どうでしょうか。 「頭ごなしに物を言われると激しい怒りを感じます」と書かれておられます。 こうした態度で言われると誰だって頭にきます。 けれども、この「激しい」という感じが大切だと思います。 それはその人に言われたから頭にきたのではなく、過去の誰かを「投影」しているから激しく頭にくるのかもしれません。 見下される、軽視される、コントロールされることへのパニックという形での反応についても同様のものの見方もできます。 ルナさんが書かれておられるように、「投影」の考え方で整理していけば、その元になっているのは、「厳しい祖父母と頭ごなしのお父さん」にあるのかもしれません。 もしそうであるならば、腹の立つ対応をされた時の「激しい怒り」については、「この人ではなく、過去の家族を投影しているから激しい怒りを感じるのかもしれない」という見方をすることで、その怒りを和らげることに役立つのではないでしょうか。 ルナさんのような厳しい環境で育った場合、常に叱られるような状態になることが予想されます。 すると、どんなことをしても認められない、誉めてもらえないという思いが積み重なり、自分は価値がないのだという「無価値観」を強く持つようになることがあります。 仕事でアイデアが浮かばない、次に書かれている 「自分は出来ない」と思うと、生きていけないという感じというのは、そうした「無価値観」が作りだしているのではないかと思います。 すると、その思いは、いつも自分はだめなんだ、と常に自分を責め続けていることになり、小さな失敗でも大きく自分の責任に感じたり、なにかで相手が少し怒ったりすると、それほど怒っているつもりはないのに、大きく傷ついたりすることがあります。 もしかすると、パニックや激しい怒りの原因である、見下している等の態度も、その人は本当にそう思ってやっていないこともあるかもしれません。 この「本当はそう思っていないのかも」という見方をすることができたら、この辛い状況をほんの少しは楽なものにすることができるのではないかと思います。 この考え方ができれば、もうひとつの悩みである、彼の問題にもあてはめることができます。 ルナさんは彼にも家族を投影しているのかもしれません。 また、彼自身も誰かを投影して、苦しんでいるのかもしれません。 「投影」のものの見方を、ここでも使ってみてください。 もしかしたら、何か新しい発見やヒントがあるかもしれません。 今回紹介させていただいたのは「投影」という見方ですが、実際にこの見方ができないほど余裕がない時もあるでしょう。 そんな時は、この苦しみを生む「心の痛み」を受け止めてもらうなどのフォローを受けてみる、など、一人でがんばらなくてもいい、誰かの援助を受けるなど、まずは心を楽にしていくことからはじめてみてはいかがでしょうか。 それができるようになってきたら、きっと次のステップへと進んでいける気持ちが生まれると思います。 最後にもうひとつ書かせていただきたいことがあります。 今回のご相談について、ルナさんはどうしてお寄せくださったのでしょうか。 自分のため?。もちろんそれもあるでしょう。 けれども、彼のため、というのも大きな理由ではないかと思います。 彼は女性不信と書かれておられます。 けれども、そんな彼は、あなたを選んでつきあっておられます。 その理由は、ルナさんには、彼が女性不信を乗り越えてもつきあいたいと思わせる何かがあるからなのではないでしょうか。 そんな彼の苦しみをなんとか救いたい。その強い思いがあるように思うのです。 彼を救う方法。それは、ルナさん、あなたがまず、楽になり、幸せになることが最大の方法なのです。 そのために、どうぞ、すこしづつでもご自身のことに取り組んで行ってください。 何かお手伝いができることがあれば、お声かけいただけたらと思います。 ルナさんの幸せのお手伝いが少しでもできるようなら、これほどうれしいことはありません。 ありがとうございました。 |