「Coolじゃないのは、復讐のことじゃあない。おまえの復讐の道連れになる、
この家の子供たちのことさ。」
・・・なんだ、つまらないお説教野郎か。
「つまりおまえは、俺がこの家に火をつければ、僕が罪を負うとか、
なんとかそういうことじゃなくて、純真で未来ある子供たちが、
俺の復讐の道連れになってその輝ける未来をうしなってしまう。
そういいたいんだろう?
おまえたちのように正義感ぶったやつはみんなそういうんだ。
俺がどうなろうと、しったこっちゃない。でも、その犠牲に
なる人はどうするんだ、とな。」
こんなばかげたやつらに俺の気持ちなんかわかるはずがない。
どうせ、俺につまらん道徳観を説教して終わりなんだ。
それで俺が思いとどまると思っているに違いない。
「そして、おまえたちは、俺が子供たちのことを考え、罪の意識にかられ、
やめますと涙ながらに言えば満足なんだ。どうだ、ちがうか!?」
俺の語尾は少し激昂していた。
こんな陳腐なまやかしに、いつまでもつきあいたくないんだ。
しかし、黒尽くめの男と猫は、顔を見合わせてこういった。
「おおむねは間違っていないが・・・やっぱりCoolじゃないな。」
「・・・ですね。」
そして、男と猫は、にやにやと笑い出した。
そのいやらしい笑いを見て、俺のなかの感情は、激昂から激怒に変わった。
「なにがおかしい!」
男はくすくす笑いながら話した。
「おまえの復讐とやらがそれでは完成するどころか、むしろ逆効果だからさ。」
「なんだと!?」
「おまえはこの家に火をつけ、自分も死ぬつもりだったんだろうが、それでは
まったくの無意味だ。そんなやり方では、そんな無意味な行動に付き合わされ
るこの家の人たちの命もまた、無意味といえる。」
「なにがいったい無意味だ!世の中のやつらがへらへら笑って、幸せそうに
しているのを俺がぶち壊してやるんだ!今まで俺を能無しと笑ったやつらに、
その能無しに自分たちの楽しみを奪われたと感じさせてやるんだ!それが俺の
世の中のやつらに対する復讐なんだ!」
「・・・それで?」
「そうして、今日を楽しんでいるやつらをあの世で、俺の両親と一緒に笑って
やるのさ!
どうだ、かなしいだろう!
せつないだろう!
おまえたちが俺の両親を陥れ、俺を笑ってきたせいで、幸せな家庭がひとつ、
もっとも不幸なシチュエーションで壊れたんだ!
全部おまえたちのせいだ!
とな!」
「・・・やはり無理だ。おまえの復讐は遂げられない。」
「あなたがこのいえにひをつけても、だれもふこうになんてなりません。
みんなこういうでしょうね。
『ああ、かわいそうなうちもあったものだ。それがうちじゃないことに
かんしゃします』
とね。」
「それではおまえが世の中に思い知らせてやりたいと思う怒りは、誰にも
結果的に伝わらない。その無意味な行動に付き合わされるこの家の、
とりわけPrittyな子供たちはかわいそうだ。おまえの失敗劇に幼い命
ごと付き合わされるわけだからな。おまえが真の能無しであることを単に
証明するにすぎない。それはおまえの勝手だが、無意味に命を散らす
子供たちの死に様は、Coolとは到底呼べない。どうせやるんならもっと
Smartなやり方を考えたらどうなんだ。また、そんな失敗作の復讐劇の
ために、俺たちが楽しんでいたCoolでSharpな月明かりの夜も台無しだ。」
黒尽くめの男はきっぱり言い切った。
そして、奇妙な猫までもが・・・。
「ごしゅじんさま、ずいぶんきょうはいうこときついんですね。」
「・・・おっと、ちょっとHotになりすぎたかな?
Coolな俺としたことが・・・。」
「きをつけてくださいよ、ぼくたちはつねに・・・」
「Coolに旅をつづける・・・。」
「そうです。」
「・・・相棒、やるようになったな。」
俺はこの男に否定される怒りに震えながら、今日まで俺のことをあざ笑ってきた
やつらのことを思い出していた。
やつらはみんな、こうやって俺のことを否定してきた。
俺を、能無し、そして能無しの息子とさげすんで笑ったのだ!
・・・だが、この男と猫の言うとおりだ。
たしかに不幸な結末を迎えるのはこの家の人だけだ。
この放火が明日の新聞に載ったところで、世の中のやつらはきっと、その記事を
よんだ一瞬しか、不幸を感じないだろう。猫の言うように、その一瞬の感情すら、
どれほど世の中のやつらに与えることができるか・・・。
俺は悔しさとむなしさが入り混じったような感覚を味わいながら、その場に座り
込んでしまった。
「ならば、俺はいったいどうしたらいいんだ!
俺の、この怒りはいったいどうすれば晴れるんだ!」
男が俺に聞いた。
「おまえはなぜ、世間を憎む?」
「だれも俺を、そして俺の家族を助けることは無かったからさ!
俺の親父は他人になんどもだまされた。おかげで俺の家は貧乏
で、サンタクロースも一度もくることは無かった!
両親は小さなケーキを俺に与えるだけで精一杯だったんだ!
俺が満たされなかったことを恨んでるんじゃない。
両親は俺を満たしてやることができなくて、さぞ、悔しい思い
をしたに違いないんだ。」
「両親をだましたやつらが憎いのか?」
「そうさ!憎んでなにが悪い!?
俺は見返してやりたかったんだ!
俺が頑張れば、親父だっておふくろだって浮かばれる!
そして、親父の墓の前で言いたかったんだ!
あんたの息子は世の中のやつらにあんたの復讐をしてやったぞってな!」
「おまえの両親はそれを望んでいるのか?」
「俺が望んでいるのさ!
俺の両親は他人にだまされ、利用され、牛馬のごとく働いて、ただそれだけの
人生だったんだ!
そんな彼らを恨んだこともあった!
だが、彼らを追い詰め、彼らの人生から楽しみも喜びも奪ったのは、世間のやつら
だ!
俺は、両親からやつらが奪ったものを奪い返したいんだ!」
「何のために?」
「何のために!?・・・・何のために?・・・」
「・・・なんのために?」
「そうだ!俺が楽しむためさ!
俺が両親の代わりに・・・」
そこまで俺が吐き出したときに、男と猫は、今までとは違う、異質な笑い方をしだした。
「・・・今の聞いたか、相棒・・・。」
「・・・ききました。しっかり、はっきりと・・・。」
「ん~っふっふっふっふっふっ・・・」
「ん~っふっふっふっふっふっ・・・」
男と猫は、顔を見合わせて、笑った。
その笑い方が一瞬、俺にとっては大きな恐怖だった。
「なんだ、なにを笑う!?」
「おまえ、今、おまえが楽しみたいといったな?」
「いいましたね?」
「いっ・・・言ったがどうした!?」
上ずった声で俺が言うと、黒尽くめの男は、
「なら楽しませてやろう。おまえにとってはこの世の物とは思えないような、
歓喜と悦楽の世界だ」
そういって、漆黒のマントを、俺の目の前で翻した。
そのマントが、ずっと降り注いでいた、やわらかい月の光を覆い隠したせい
だろうか?
俺は目の前がまっくらになった。
つづく・・・