母親に対する期待と理想
母親に文句のない人はいません。私たちには「お母さんは、自分のニーズをわかって、引き受けてくれる優しい人のはずだ」という期待があるのですが、残念ながら、そうはいきません。期待が大きければ大きいほど、幻滅の度合いも大きくて、「許せない」と感じます。母親を、理想像とは違う、等身大の一人の女性として見るには、「理想」のお母さんをあきらめなければならないのですが、これが辛いのです。この悲しみを引き受けられると、逆に母親の素晴らしさが見えてくるので、葛藤はずっと楽になります。
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こんにちは。
カウンセリングサービスのみずがきひろみです。
心理学など知らずとも、「お母さん」との関係性がいろいろな形で、自分の人生に影響を及ぼしていることは、すでにお気づきでしょう。思いがけずに、「お母さんによく似てきたわね」なんて言ってもらい、嬉しかったり、「それはマズイかも」と思うなんて経験は、誰しもありますね。
心理学は、「お母さん」との関係性が、特に、パートナーシップや友人など、「親密感」がベースとなる対人関係のパターンに反映されることを教えてくれます。なので、「お母さん」との心の葛藤を癒やせると、人との距離が近づき、まわりの人や環境の応援を受けやすくなります。結果として、恋愛や夫婦関係がよくなるだけでなく、家族関係、職場での人間関係も楽になり、チャンスを手にしやすくなります。
「お母さん」との関係性は、人との情緒的な関係性に影響するので、「お母さん」との葛藤を癒やすことができれば、人生ははるかに楽になります。それがわかっていても、「お母さん」を許せないと感じて、ご自分を責めている方が数多くいらっしゃいます。
「お母さんを許せない心の癒し方(1)~「親密感への怖れ」という罠~」では、「お母さん」を許せない心は、もともと親密だった「お母さん」と離れなければならなかった痛みの感情が、「親密感」を手に入れることを怖がって、絆が深まりそうな段階で関係性を壊すようなことをしたくなるという心のカラクリを解説しました。そして、そんな抵抗感があることを認めつつも、「親密感」のある関係性が欲しいと願うことが大事だと書きました。私たちの心は、真剣に願ったものは、自然に手に入れる方向に向けてエネルギーを注ぎます。まずは、「欲しい」ものを、ちゃんと「欲しい」と願うところから始めましょう。
そもそも「お母さん」のことがそんなに好きだったとしたら、なぜ「許したくない」と思うほどがっかりし、怒ってしまったのでしょうか。
「お母さんは、困っていたときに私の気持ちを全くわかってくれなかった」
「お母さんは、感情的で、ヒステリックに怒るからこわかった」
「お母さんは、忙しくて、私に無関心だったからさびしかった」
「お母さんは、過干渉で、勝手に私宛の手紙を読むような人でうざかった」
など、「お母さん」を許せない理由はさまざまですが、一言でまとめると、「私が愛して欲しいように愛してくれなかった」ということになります。そこには、私たちの、「お母さん」とは、自分のニーズをわかって、引き受けてくれる「優しい」人であるはずだ、という思い込みというか、「願い」があります。
上の文句をひっくり返すと、
「お母さんには、私が困っていれば、気持ちをわかって助けてほしい」
「お母さんには、自分の感情を私にぶつけて怒るような人であってほしくない」
「お母さんには、忙しくても、私のことを優先してほしい」
「お母さんには、私の主体性や秘密を大事にしてほしい」
と「お母さん」へのニーズが浮かび上がってきます。これは、どれも、私たちが赤ちゃんだった頃、「お母さん」(もしくは主な養育者)がやってくれたことなのです。赤ちゃんだったときに、言葉が話せなくても、泣いている様子を見て、困りごとを察しておっぱいをくれたり、オムツを変えてくれたり、服の脱ぎ着で温度調節をしてくれました。あるいは育児ノイローゼになりそうなくらいお母さんもしんどかったかもしれませんけれど、赤ちゃんは当たったからといってどうにもできない存在なので、お母さんは赤ちゃんを優先しました。赤ちゃんのペースに合わせて、赤ちゃんの望むことを察して世話をしてくれたのです。
どうも、私たちの心の中には、赤ちゃん時代に見ていた、何でもわかって、何でも察してたすけてくれる女神さまのような「お母さん」を追い求める気持ちがあるようなのです。あの時の女神さまを、今の現実の「お母さん」に期待すると、残念ながらがっかりすることが多いのです。わかってほしいことをわかってくれず、助けてほしいときに助けてくれず、愛してほしいようには愛してくれない、のです。
「お母さん」への期待が大きければ大きいほど、がっかりし、幻滅した度合いも大きいので、「許せない」と思ってしまいます。「お母さん」が女神さまのような優しさもあるけれど、痛みも苦しみも抱えている一人の人間だと、頭では理解していても、認めたくない気持ちがあります。「お母さん」の中に「女神さま」的な心があることを知っている子供だからこそ、そうではないところは受け入れたくないのだ、とも言えますね。
「お母さんを許せない」とお母さんに怒りを感じておられる方も、実は、「お母さん」の素晴らしいところを感覚的に知っていて、だからこそ足りないところが本当に残念で、丸っと受け入れられなくて苦しいのです。
「お母さん」を許した方が自分の人生が楽になるとわかっているし、許したいと思っているのに、許せない、とご自分を責める方も多いです。そんな方には、まず「嫌い」なものは「嫌い!」と思っていいですよ、とお伝えしたいです。
「許せない!」「こういうところが嫌い!」というご自分の気持ちに100%味方してみましょう。どこかの時点で、とても傷ついたことには違いありませんから。「傷ついた」気持ちは、いったん誰か(含自分)にしっかりと共感してもらえないとなかなか手放せないものです。「傷ついたね」「悲しかったね」「悔しかったね」と何度も何度も、ご自分に声をかけてあげてください。心の奥底のニーズ(欲しい気持ち、願い)は、その存在を認めて、理解することがとても大事です。気がすむまで残念だった思いが承認されたとき、やっとその突き上げるような感情も成仏できるでしょう。
自分の残念な思いを十分に受け止めたら、「優しい(素晴らしい)お母さんがよかった」と言ってみてください。「お母さん」への過度な期待を手放して、一人の女性として母親を見ることができると、許しやすくなります。
>>>『お母さんを許せない心の癒し方(3)~今だから理解できること~』へ続く