彼を育てなおす、ということ
こんにちは 平です。
前回に引き続き、「超ひきこもりの、まったく働くことのできない彼」を好きになった彼女のお話です。
私が彼女に提案したのは、「彼を育てなおすこと」でした。
といっても、彼女が彼に「あなたには価値がある」とを伝え、彼を肯定しつづけたとしても、いったん深くひきこもってしまった彼のようなタイプはまったく聞く耳をもちません。
ですから、長期にわたり、根気よく、彼の価値を見続けていってあげる必要があります。
すると、さすがの彼もイライラしはじめるわけです。
イライラ?
そう、彼のようなひきこもりのタイプの人は、昔々、だれかから自分のことをひどく否定されたという経験をもちます。
その経験がつらかったので、それ以上、傷つくことがないようにとひきこもりを決め、人が自分に期待をもたないようにというアピールをしています。
せっかくひきこもっているのに、彼女が繰り返し自分の価値を見ようとするので、それはやがて彼が心の奥底にしまっておいた古傷の痛みの層にふれるようになります。
そして、いつも飲み込んでいた彼の怒りが、ようやく表に湧き上がってくるわけです。
「いまさら、なんなんだよ。遅せーよ! さんざんオレのことを否定し、バカにしたくせに!」と、昔、彼のことを否定した人たちへの怒りが彼女にぶつけられます。
ここで、彼女が知っておくべきことは、じつはこの古傷は癒されるために表に出てきたということです。
それをわかっていないと、「なによ! こんなに愛している私に噛みつくなんて!」などと彼を否認したりして、物事はめちゃくちゃになってしまいます。
そうなると、せっかくここまで続けてきた努力がムダになり、彼はふたたび頑なに引きこもります。「ほーら、やっぱり。だまされるところだった! 彼女ですら、オレを否認した」、と。
反対に、「彼の古傷がようやく出てきた。愛すべきはいまこのときだ」と思えたとしたら、彼のもっている愛や価値、才能、素晴らしさなどを伝えつづけることができます。
そもそも、彼を愛しているからこそ、長期間にわたって彼と一緒に暮らし、彼を保護してきたわけですよね。ですから、彼女の言葉には説得力があるわけです。
このあたりで、彼はふたたび動揺したり、混乱したりします。それは、彼女のことを信頼しはじめた証です。
「ほんとうに、ほんとうに、おまえが言うようにオレには才能があるのか? ほんとうに人から愛されるのか?」。いままでであれば、絶対に信用しなかったような考えが彼の心に浮かびます。
この考えが、従来からの「オレのような人間が、社会に受け入れられ、愛されるわけがない」という考え方とぶつかり、彼の心の中で戦争を始めるわけです。
彼は心の奥底で、これまで信頼してきた「自分が愛されるわけがない」という信念がこの戦いに勝ってしまったら、自分には未来がないということがわかっています。
ですから、彼女の言うことを否認しながらも、一方では彼女に説得されたいと思っているわけです。
自己否認が強くなればなるほど、彼は彼女の言うことを強く否認し、抵抗します。
が、しかし、それはエゴの最後のあがきといってもいいでしょう。
彼女には絶対的な根拠があるのです。「あなたに愛される価値がほんとうにないのだとしたら、私はこんなに長く一緒に住んでいない。人生の時間を無駄にしない」という。
さらに、「私はあなたの親でもなければ、あなたは私の子でもない。あなたのことを、私のことを愛してくれる、立派で最高のパートナーだと思えなければ、こんなに長いこと、あなたに投資しつづけるわけがない」。
こう、彼女が彼に宣言するころには、「ほんとうに、オレにもできることがあるのだろうか‥‥?」と彼も自分の価値や才能を探しはじめるところまで行きついたのです。
ここまで辿り着くと光が見えはじめ、彼女のモチベーションもぐんと高まります。ありえないと思っていたことが起こりはじめ、越えられないと思っていた高い壁が崩れはじめたのですからね。
ベルリンの壁の一角が崩れ、そのあとはあっという間にすべてがなくったように、ここから先は彼の変化もスピードアップしていきました。
ちょっとしたことでも「ほらね、やっぱりできたでしょ」と一緒に喜んであげるだけで、まるで子どもがどんどん自信をつけていくように、彼も成長していったのです。
では、来週の『恋愛心理学』もお楽しみに!!