おかあさんに存在を承認してもらいたいから
こんにちは 平です。
彼女のおかあさんは女社長でした。
彼女曰く、「おとうさんは地味なサラリーマン」。仕事に情熱を注ぐタイプではなく、ひたすら趣味を追求する人なのだとか。
「だったら、私が働くから!」とおかあさんが一念発起して起業したところ、事業が順調に拡大し、そして、家の中でも、会社でも、ワンマンぶりを発揮するようになっていったのです。
おかあさんが忙しかったので、弟と妹の面倒は長女の彼女がほとんど見ることとなりました。彼女曰く、「私は従業員であるかのように、おかあさんに命令され、指示されてきました」。
そんなおかあさんの影響か、彼女も早くから自立をめざしました。そして、おかあさんに資金を出してもらい、美容関係の会社を起業し、それなりの成功を収めてきたのです。
彼女が結婚した相手は、おとうさんによく似たタイプのやさしくて誠実な男性でした。
で、彼女は言ったわけです。「あなたが働くよりも、私の事業をサポートしてくれたほうが、経済的なことも含めてすべてうまくいくと思うの」、と。
こうして、事業においても、彼女はご両親と同じような形をご主人との間に作ったわけです。
ところが、私どもにご相談にお越しになったころ、彼女の会社の経営は悪化していました。
彼女にとっての社長のモデルはおかあさんでした。
彼女自身、いつも頭ごなしに指示されていましたから、彼女も同じようなタイプの社長になっていました。
が、おかあさんのようにはうまくいかず、次第に人望を失い、有能な部下が次々と離れていって‥‥ということが起こっていたのです。
そして、仕事上のストレスはすべてご主人にぶつけてしまうようになり、最近は「どうせ、あんたも私を見かぎって出ていくんでしょ!」などとなじってしまう始末‥‥。
その状況にご主人のほうが耐えられなくなり、彼女に「カウンセリングを受けにいってくれ」と頼み込んだらしいのです。で、この日、当社にお見えになったわけですね。
彼女は、ワンマン社長であるおかあさんを憎んでいました。
ですから、おかあさんとそっくりのワンマン社長になってしまった自分はやはりみんなから愛されないだろうと感じています。
ただ、「私はおかあさんのいうことを聞き、耐えてきたからこそ、強く自立した女性になることができた」という思いもあるので、目をかけている社員は同じ厳しい方法で育てようとしてきました。
とはいえ、おかあさんを憎んでいる彼女は、やはり自分も憎まれているだろうと思っているので、つい恩着せがましいことを言ってしまうんですね。
で、ますます“めんどくさい人”になっていたわけです。それは、ご主人に対しても同じでした。
当社にお見えになったとき、自分がやってきた方法でいきづまっていた彼女は、“愛され、尊敬される、女社長のモデル”を見失っていました。
私はこう言いました。
「いま、あなたがいちばん欲しいものは、昔、あなたのおかあさんがいちばん欲しいと思っていたけれど、だれからももらえなかったものと同じだと思います。
さらに、昔、あなたがおかあさんからもらいたいと思っていたけれど、もらえなかったものは、いま、ご主人や社員のみなさん
があなたに望んでいるものと同じだと思いますよ」。
おかあさんのことを恨んでいると、「こうなってしまったのも、ぜんぶおかあさんのせいだ」とわたしたちは考えがちです。
しかし、このような状況を抜け出すカギは、じつはその「ワンマン社長であるおかあさんを理解すること」によって見つけられることがよくあります。
そして、先ほど私が言った「彼女がおかあさんからもらいたいもの」とは、おかあさんから、彼女の仕事ぶり、ひいては彼女という存在を承認してもらうということでした。
そこで、それを彼女からご主人や社員に与えることにしたわけですが、なにぶん、自分がそれをもらったことがないので上手にできません。
それでも、ようやく、ご主人や社員に向かって、こんなふうに言うことができたのです。
「あなたたちを承認するということが、なかなかうまくできないのですが‥‥、感謝しています」。
これが言えたとき、彼女は「おかあさんも、きっと自分にそう言ってくれたかったに違いない」と思うことができたそうです。
では、来週の『恋愛心理学』もお楽しみに!!