補償行為という落とし穴
愛されるために、したくないことをしてしまうことはありませんか?とくに恋愛ではその傾向が強くなるという方も多いのでないでしょうか。「なぜしたくないことをしてしまうのか?」「したいことに変えていくためにはどうしたらいいのか?」この2つについて考えてみましょう。
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「自分には何かが足りない。このままでは愛されない」と思うとき、何かをすることで足りない部分や愛されない部分を補おうとすることがあります。
なにをするかというと、人にすごく優しくしたりどんなことがあってもニコニコしたり。足りない部分を補っていい人だと思ってもらおうとするのです。
心理学ではこれを「補償行為」といいます。
彼との初デートに例えるとこんな感じです。
ようやく憧れの彼との初デートの日。あなたは嬉しくてドキドキしています。
ヘアもメイクもバッチリ、とびきりオシャレをして待ち合わせ場所に向かいます。
だけど、どこかで「私って暗いし、話すのも上手じゃないし、気も利かないし。こんな私ではきっと愛されないだろうな…」と不安に思っています。
さて、そんなあなたは初デートでどんなふるまいをするでしょうか?
ちょっと想像してみてくださいね。
おそらく精一杯明るくして、話題を盛り上げて、笑顔で一日を過ごそうとするでしょう。
彼に気に入ってもらいたいから、できるかぎりの努力をしますよね。
するとデートの帰り際に彼がこういうのです。「今日はすごく楽しかった!君はボクが思っていたような子だった。明るくて楽しくて気が利く子だね!」
あなたは「ありがとう。またデートしてね!」と笑顔でこたえました。
でも、家に帰ってドアを閉めた瞬間に思うのです。「ああ、疲れた。なんとか暗い私がバレずに済んだわ…」。
そんな安堵もつかの間。「やっぱり彼は明るくて楽しくて気が利く子が好きなのね。次のデートも頑張らなくちゃ」と思うわけです。
すると次のデートで、あなたはもっと背伸びをしてふるまおうとします。
もっと自分を作り、もっと明るくして、もっと楽しい女の子を演じようとします。
こんなことが半年も一年も続くとどうなるでしょうか?
「あなたといると私は疲れちゃう。もうイヤ!」と、彼にいいたくなるのです。
さて、ここでみなさんは考えてみてくださいね。
そもそも明るくて楽しくて気が利く子を演じたのは誰でしょうか?
そう、彼女なのですね。
たしかに彼は「キミは明るくて楽しくて気が利く子だね」といいましたが、本当にそう思ったからそういっただけなのです。彼が「そうしてくれ」と頼んだわけではないのです。
でも彼女は「このままでは愛されるわけがない」と思っているわけですから、明るくて楽しい子を演じ続けるようになってしまったのです。
しまいには「あなたといると私ばかりが無理して疲れる」と、彼を嫌って別れたくなることもあります。したくないことをしていると、いずれはその関係を切りたくなってしまうのです。
よく考えてみれば、彼がイヤなわけではなく無理することがイヤなだけなのです。
でもこの苦しさから解放されようとしたら、「もう別れるしかない」と思ってしまうことだってあるのですよね。
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補償行為というのは「足りない部分や愛されない部分を補うこと」だといいましたが、補償行為の特徴は“やっていること自体はとても良いこと”なのです。
彼女が明るく楽しく気が利く子としてふるまっていたこと自体は、とても良いことだとは思いませんか?
さらに補償行為のもうひとつの特徴は、“やっている本人にはなんのメリットもない”ということです。
彼にどんなに褒められても、まるで“作り物”の自分を褒められているようで「あなたは本当の私を知らないだけなのよ…」としか思えないのです。
本人が感じるのは、「嫌われなくてよかった。ダメなところがバレなくてよかった」ということぐらいです。喜びの気持ちはものすごく薄くなります。
私たちの行動動機はつきつめていくと、「愛」か「恐れ」のどちらかだといわれています。
恐れからの行動は、自分が嫌われるのがこわい、がっかりされたくない、みじめな思いをしたくない、失敗したくない思いからの行動になることがほとんどです。
行動の裏側には「このままで愛されるはずがないから、何かをしなくては!」という思いがあり無理をし過ぎてしまうのです。そのため心が疲れてしまうことが多いでしょう。
愛からの行動は、人を喜ばせたい、笑顔にしてあげたい、楽しんでもらいたい、大切にしたい思いから行動することをいいます。
「あの人のために何かできて良かった。あの人が喜んでくれると私も嬉しい」という満足感や充実感があります。それをすることで自分の心もあたたかくなることでしょう。
どうか補償行為という落とし穴に落ちてしまわないようにしてください。
彼に嫌われたくないという恐れからではなく、彼のためにしてあげたいという愛からの行動動機に書き換えてみませんか?
すると彼が喜んでくれる気持ちをストレートに感じることができ、彼の言葉を素直に受け取れるようになるでしょう。
その結果、きちんと愛情を感じられるようになるのです。
(完)