「苦手」は「得意」の限界を超える道案内役
行き詰まったとき、これまで「苦手」だと思い、避けてきたことや敬遠してきた人と関わってみると、新しい気づきが得られます。自分への過度な「期待」をそぎ落とし、「できない」ことを受け入れるプロセスを通して、初心に戻り、もう一度「フロー(流れ)」に乗るきっかけやインスピレーションを得ることができます。
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○「得意」は早咲きの才能
あなたの「得意」は何ですか?
こう聞きますと、多くの日本人は、「私、別に、何も得意なことなんかありません」と下を向かれます。謙遜は美徳かもしれませんけれど、もっとご自分ができることを認めても良さそうなのです。でも、それは恥ずかしく、おこがましいことのように感じてしまうのでしょう。
「得意」というと、なんだかプロゴルファーのようにゴルフができることや、数学者のように数学ができることのように、超一流でなければいけない感覚になるみたいです。でも、そういうことではなくて、「得意」と言っていいのかどうかわからないことも全部ひっくるめて、「好きかどうか考えたこともないくらい好き」なこと、と思ってみてください。
生れながら持ち合わせた「才能」で、「怖がり」とか、「神経質」とか、逆に「鈍感」「おおらか」というのも、それこそ「生れてくるときに神様から持たされてきた」としか言いようがないその人の性質や特徴を発揮しているときは、「得意」なことをしているのです。
「得意」は、生れながらに持っている才能を使っているので、「得意」だという意識すらないことも多いです。他人から指摘されてはじめて自分が持っていたことに気づくほど、当人は「当たり前」のこととしてやっています。だから、それを改めて、「得意だね」とか、「才能だよ」と褒められても、戸惑うかもしれませんね。
自分が「得意」なことが早くに分かり、それを伸ばすことに集中すると若くして成功します。多くの一流のアスリートや芸術家は、この「早咲きの才能」を伸ばす領域と環境を見つけることができた人たちです。
そこまでではなくとも、仕事であれ、家事であれ、趣味であれ、私たちは、自分が「できる」ことを繰り返しやっていますので、自ずと、どちらかといえば「得意」なことをやっています。
そして、もし、ブレイクスルーを探しているのだとすれば、そのどちらかといえば「得意」なことで行き詰っているのです。「得意」だと思っていたことがどん詰まりならば、もう「できる」ことなど他に無いと思うので、落ち込み、焦り、絶望するのです。
○あえて「苦手」に取り組んでみる
そんなとき、これまで自分が「苦手」だと思い、逃げ回っていたこと、いい加減に済ませてきたこと、人任せでいいと思っていたことに取り組んでみると、思わぬ「気づき」に恵まれます。
例えば、あなたは人のニーズを汲むのが「得意」で、お客さまの痒いところに手が届くように自社の商品の使い方を提案し、売り込むトップセールスマンだったとします。ところが、事務仕事は超「苦手」で、注意して書類を作っても、どこか漏れがあって先方から指摘を受けることが多く、困っています。
セールスマンにとっては数字が命ですから、普段ならば、できれば事務仕事はそれが得意な人に任せて、自分は「得意」な客まわりを優先します。「餅は餅屋」に任せて、それぞれが「得意」に専念するのが全体最適で、一般的には正解と言えます。
ところが、どうにも数字が作れなくなったとき、これまでのやり方で効果が上がらなくなったら、あえて期間限定でもいいので、「苦手」なことに取り組んでみことをお勧めします。
今まで、自分が「苦手」を理由に、避けてきたことの優先順位を上げて、取り組むのです。「事務仕事」に優先的に時間をとる、後回しにしてきた家族との団欒の時間を優先する、いつも自分の意見を通してきたのなら、奥様の言うことにすべて「はい」と言ってみる、など、あまりやって来なかったことをやります。いつもと逆のものを選んでみます。
「苦手」なことは、簡単にはできません。時間がかかりますし、意識的に注意を払わなくてはなりません。心理的に抵抗が出て、「面倒くさい」と思いますし、やりたくなくて、何かと気をそらす言い訳を探します。
私たちは、「できない」ことを突きつけられるのはとても辛いものです。敗北感を覚えますし、惨めな気持ちになります。「苦手」なことは覚えも悪いですし、なかなか要領を得ませんから、一つ一つステップを踏まないとできないまどろっこしさもあります。
でも、そもそも自分が「できない」ことをやろうとするのですから、ゼロから「できる」ようになるために必要なステップを踏む謙虚さを持ちやすいです。思い通りに行かない時に、自分のやり方ではなくて、人に助けてもらう、人の指示に従うなど、「苦手」なことをするためには、他者を頼みにせざるを得ないかもしれません。そんな立場に自分を置いてみると、自分流を手放してこそ学べることがたくさんあります。何よりも、「できない」ことを受け入れることが「できる」ようになると、心がどっしりと座るような自信がつきます。
○「期待」を手放すとまた「フロー(流れ)」に乗れる
「得意」なことをしていると、どうしても自分はもっとできてもいいはず、というプレッシャーを自分にかけてしまいます。それも、夢を見て、目標を高く持つだけではなくて、「これくらいはできなくてはいけない」、「できない自分は最低ではないか」、「このままでは大切な人をがっかりさせてしまう」、「失敗したら生きていけない」など、どんどん自分を追い込むようになります。
このような自分に対する過度な「期待」とその裏返しの無用な自責と自己攻撃が、インスピレーションとクリエイティビティを阻害して、自分を袋小路に追い詰めることになります。
「苦手」なことに対しては、そこまで自分に「期待」をかけずにいられるので、「できない」ことを容認するなかで、新しい発想ができます。「できなくてはいけない」というプレッシャーから自分を解放するだけでも、少し楽になるはずです。
肩の力を抜いて、「得意」なことでも、「できない」を容認すると、狭くなりすぎた視野が広がり、次の具体的な小さな目標が見えてきます。その小さな目標の一つ一つに、「苦手」なことを攻略するときのように取り組むことで、また「フロー(流れ)」に乗ることができます。
>>>『ブレイクスルー(突破口)はどこにある?(4)〜大きな手放しはあなたを生まれ変わらせてくれる〜』へ続く