大人になることを先送りしたくなる理由
こんにちは 平です。
子どものころ、風邪をひいたり、お腹が痛かったりすると、いつになくおかあさんとおとうさんが優しかった‥‥、そんな経験はみなさんにもあるのではないでしょうか。
この経験は、「自分がより弱く、悪い状態になることで、まわりの人に愛してもらえるのではないか」という思いを作ります。
とくに、自分に自信がないときほど、この思いは顕著になりがちです。
私たちの心の中には“自尊感情”というものがあります。
これは、「だれかの役に立ちたい」という思いであり、実際、だれかの役に立つことで、私たちは自分に大きな自信をもつことができます。
ところが、現代社会は恵まれた社会であり、子どもたちは与えられるばかりで、自分がだれかの役に立ったり、なにかに貢献したりというチャンスはじつはあまりありません。
その結果、“自尊感情”があまり育たず、成長し、大人の社会に出ることに大きな不安を感じるという人が非常に多いような気がします。
いままで、人の役に立つような経験をあまりしてこなかったぶん、「社会に出たら犠牲的に生きなければならない」などという不安に飲み込まれてしまったりするのですね。
日本がまだ貧しかったころ、いまのみなさんには信じられないかもしれませんが、「早く大人になりたい」という子どもたちが非常にたくさんいました。
その大きな理由が、「大人になるとお酒が飲める」です。
これは、お酒が飲みたいというよりも、身近な大人たちが楽しそうに、うれしそうに、おいしそうにお酒を飲む様子を見て、自分もそれを体験したいと思ったということだったといいます。
貧しい時代は、楽しいことやうれしいこと、おいしいものはそうたくさんはありませんでした。
その中で、非常に魅力的に感じられた数少ないものの一つがお酒だったということでしょう。
「大人になったら、こんながまんばかりしている子ども時代から解放される!」と昔の子どもたちは思っていたようなのです。
しかしながら、いまはまったくこれが逆になっています。
豊かかつ恵まれすぎの時代の子どもたちは、「大人たちよりも、自分たちのほうがよっぽど楽しい」と思っています。
そして、「大人の社会に出たら、こんなに楽しんでばかりはいられないぞ」と思い、そう思うだけで、大人になることを先送りしたくなるわけです。
この“大人になりたくない子どもたち”は、パートナーシップや結婚についても否定的に捉えていることが少なくありません。
“彼”や“彼女”という関係であるうちはよいのですが、そのパートナーと結婚し、さらに子どもをもつとなると、急に腰が引けるようなのです。
前述の大人になることへの不安と同様、「家庭をもったら楽しみを犠牲にしたり、わがままな子どもに振り回されたりしなければならない」と思ったりするわけです。
もちろん、これは投影です。「自分が親にしてもらっていたことを、今度は親としての自分が子どもにしてやらなければならない」と思うわけです。
しかしながら、愛されて育ってきたいまどきの子どもたちは、心にゆとりがある場合が多いようです。
ですから、昔のように、ストレスのせいで攻撃的な子どもになったり、不良と呼ばれる暴力的な子どもになったりする例は激減しています。
心にゆとりがある度合いだけ、愛や親密感というものが現実的にそこにあり、昔の子どものように、競争に勝って強くあらねばならないという思いはほとんどもっていません。
競争して獲物を得る必要がないほど与えられ、豊かに育ってきているということですね。
その結果、自己主張したり、パートナーをゲットするために努力するという傾向は弱まっているようです。
代わりに、来たものを受け止めるという、草食系の男女関係が主流になっているわけです。
昔の大人たちは、競争原理の中で「勝ち取る」という目的をもって生きてきました。
しかし、満たされて育ったいまの子どもたちは競争原理から離れ、穏やかな性質の大人へと成長していくことが多いようです。
では、来週の『恋愛心理学』もお楽しみに!!