彼女が自分に許せなかったのは、“笑いあえる関係”だった
こんにちは 平です。
彼女は9歳のときに、交通事故で父親を亡くしました。
一人っ子の彼女は父親にとても愛され、彼女も大のパパッ子として育ってきました。
いつもパパに甘え、眠るときもパパと一緒、お休みの日はパパにドライブに連れていってもらって‥‥と、ママも嫉妬するほどのなかよし父娘でした。
しかし、交通事故の日を境に、パパは突然、彼女の前からいなくなってしまったわけです。
まもなく、専業主婦だった母親が生活のためにパートに出るようになると、彼女はカギっ子となり、まるでパパとママをいっぺんに失ったような状態になりました。
学校から帰ってきた彼女は、つねにアパートのドアを見つめて過ごしていたそうです。
「ママ、早く帰ってこないかな」と、ドアが開くのをひたすら待っていたのです。
しかし、専業主婦から急に働く主婦になった母親は、いつもクタクタになって家に帰ってきたので、彼女が甘えさせてもらうような余力はあまりありません。
また、彼女が欲しがるものはいつも父親が買ってくれたので、「あれが欲しい、これが欲しい」と母親に言ってみるのですが、「うちにそんなお金があるわけないでしょ」と言われてしまいます。
その結果、子どもらしい欲求がほとんど満たされないまま、彼女は大人へと成長していったわけです。
そんな彼女のご相談は恋愛にまつわることで、「彼氏ができても、心から好きになることができない」というものでした。
さらに、「つきあっていても、その人を“彼”という決まった場所に置きたくない」などと、わけのわからないことをおっしゃいます。
私は聞きました。
「でも、彼なんですよね?」
「まわりの人はそう思っているかもしれませんが、私の中ではそういう決まった人じゃないんですよね‥‥」
なんとも中途半端な回答ですが、私には、彼女が人を好きになることを非常に恐がっているように見えました。
つまり、心から好きな人が、自分の前からまた急に去っていってしまったら耐えられないと思っているわけです。
その防衛のために、「好きにならない」、「ほんとうに好きな人は作らない」と言っているのですね。
さらに、私には、彼女が“よろこびのドア”を閉めた状態にあるようにも感じられました。
もう二度と父親は帰ってこない、だから、あの当時のような楽しさと笑顔にあふれる生活ももうできないと感じているように見受けられたのです。
私は彼女を簡単なイメージワークに誘いました。
「目の前に、重いドアがあります。これは、あなたが子どものときに閉めたものです」
「このドアを開けると、そこにはおとうさんが帰ってきて、楽しそうに団らんする家族があります。もう一度、このドアの向こうに行ってみましょう」
このワークに、彼女は激しい拒否反応を示しました。
その拒否反応は、「どれだけ望んでも、もうそれは私には与えられない‥‥」という彼女の心の痛みそのものでした。
彼女の母親は、よく泣きながらこう言っていたそうです。
「もう、昔には戻れないのよ。がまんして生きるしか仕方がないの」
この言葉がまるで呪いのように、彼女の信念に変わっていったわけです。
イメージワークの中で、「ムリよ! 私はもうもらえないの!」と泣き叫ぶ彼女に、私は問いかけました。
「欲しいの、欲しくないの? どっちなの?」
「‥‥欲しいに決まってるじゃないの!」
そういった瞬間、彼女は泣き崩れ、そして、もう一度、よろこびを手にしたいという自分の気持ちを心から実感したのです。
その後、彼女が選んだパートナーは、やさしくて、いつも素敵な笑顔を彼女に向けている男性でした。
彼女が自分に対していちばん許せなかったのは、“笑いあえる関係”をふたたびもつことだったようなのです。
では、来週の『恋愛心理学』もお楽しみに!!