職場に必ずいる(かもしれない)苦手な人。
あれこれ試してみたけれど、どうにもコミュニケーションがうまく取れないということはありますよね。
苦手だし好きでないけれど、仕事だから話さないといけないときなど、イヤだな〜と思ってしまうのではないでしょうか。
私はかつて、自分よりひと回りほど年上の女性で苦手な先輩がいました。
バリバリ仕事ができるけれど、口が悪くいつも誰かを批判しているので、私も怒られそうで怖いなと思っていました。
できれば近づきたくないと思い、どうしても話さないといけないときだけ、言葉少なく話しかけるようにしていました。
実は私だけでなく、同じ部署の多くの人が、彼女を敬遠していたのです。
ある朝、私はみんなより少し早く出勤し、前日に残してしまっていた仕事をせっせと片付けていました。
しばらくすると、ひとり、またひとりと同じ部署の人が出社してきました。
私はオフィスの入り口近くの席だったので、誰かが入ってくるたびにパソコンの画面から目を離し、「おはようございます」と挨拶をしていました。
入り口のドアがまた開いたとき、私はパソコンを見ている視界の端に、カラフルな服を着た女性が見えました。
私が個人的に親しくしていた〇〇ちゃんだと思いました。
彼女はいつもカラフルでセンスの良い服装をしていたのです。
私はパソコンの画面から目を離すと同時に、とびきりの笑顔と明るい声で〇〇ちゃんに声をかけました。「おはようございま〜す!」と。
ところが、その挨拶が終わらないうちに、そこに立っていたのが〇〇ちゃんではなく、例の私が苦手としていた先輩だったことに気づきました。
「やば・・・い」
そう思ったけれど、すでにニコニコ笑顔でものすごく親し気な挨拶をしてしまっていました。
「間違えました、すみません。」と言おうか、と思ったとき、その先輩が言ったんです。
「あら、今日はご機嫌ね。おはよう。」
そのときの先輩は、私が見たことのないほど、なんだか嬉しそうな、楽しそうな顔でした。
私は間違えたことを伝えるのをやめて、恥ずかしそうに「あ、はい・・」とだけ言いました。
その日、午後3時くらいになって、そろそろ小腹がすいてきたので、おやつをコンビニに買いにいこうかなと思っていると、私の席にその先輩がやってきました。
手にはお皿にのったケーキが。
え?なに?と思ったとき、彼女が言ったんです。
「これ、お客さんからいただいたんだけど、よかったらどうぞ。」
彼女はそう言ってケーキを私のデスクに置き、にこやかに自分の席に戻っていきました。
私はありがたく、そのケーキをいただきました。
隣の席の同僚が、怪訝そうにそれを見ていました。
そして私はこの一件で知ったのです。
苦手な人に話しかけるとき、私はいつも「あなたのことは苦手です。」という顔と態度をしていました。
もちろんわざとではありません。
そういうとき、たいてい相手は怪訝そうにこちらを見て、なんとなく冷たい態度をしてきました。
好きな人に話しかけるときは反対に、「あなたのことは大好きよ。」という顔と態度をしており、相手も「私も好きだよ。」という態度を返してくれていました。
今回はじめて間違えて、苦手な人に対し、あたかも好きな人ですという顔と態度をしてしまいました。
すると相手は、「あら嬉しい、私も好きかも。」とでも言いたげな態度をしてきたのです。
好意の返報性といいますが、人は好意を示されると好意で返そうという心理が働きます。
反対に、嫌悪の報復性といいますが、人は嫌悪を示されると嫌悪で返そうという心理が働きます。
相手とうまくいかないと思うとき、私たちは相手に原因があると思うことがありますが、実は私たち自身が、自覚せずとも苦手意識を先に相手に表現してしまっているのかもしれません。
あなたが好きな人に対する顔つきや態度は、好きな人限定であることはわかりますが、それをそのまま苦手な人に表現してみるだけで、物事は意外とうまくまわったりすることがあるようです。
あなたは好きな人にどのような顔、声、態度で接していますか?
それをそのままコピーして、苦手な人にプレゼントしてみてください。
きっとその人は喜ぶのではないでしょうか。
そんな簡単なことでも、私たちはなかなかそれをやろうとしません。
なぜなら、そのように人を騙すような、心にもないことを言ったりしたりするなんて誠実ではない、と思うからかもしれません。
ところが、苦手な人とうまくコミュニケーションができないな、と悩んでいる時点で、あなたはとても誠実に、その人とうまくやっていきたいという気持ちを持っているということだと私は思います。
だからこそ、その気持ちに正直になるために、あなたの好意を相手に向けてみてはいかがでしょうか。