なんで、こんな僕をきらわないんでしょうね?
こんにちは 平です。
その日、ご相談におみえになった彼は、某有名国立大学の理系の出身。
とても優秀な人なのですが、なぜか、ものすごく強いコンプレックスをおもちでした。
「あなたのような学歴の方が、なぜ、これほどまでのコンプレックスを‥‥?」
聞けば、彼は小中高と通して優秀な成績で、まわりの友人たちからあがめ奉られるほどだったとか。
大学受験の模試はA判定。もちろん、人生にコンプレックスを感じることなどもなく、難なく某有名国立大学に現役で入学したのです。
ところが、大学で数学の教室に入ったところ、まわりの人々のレベルについていけなかったのです。
そのクラスは、日本全国から集まった、ほんとうに一握りといえるような天才たちが、天才的な能力を発揮している場所だったそうです。
「こんな人たちと競争しても、まったく勝てない‥‥」
夏休み前に早くもそう確信した彼は、すっかり勉強する気を失ってしまったらしいのです。
もともと優秀な彼ですから、それなりに勉強することで単位をとることはできました。しかし、大学4年間の目標を見失ってしまったのです。
そんな中、彼は昔のことを思い出していました。
中学や高校のクラスには、たいてい劣等生と呼ばれる人たちがいました。
そんな彼等のことを、「なんのために、こいつら生きてるんだ。なまけ者が!」と彼はバカにしていたのです。
そして、「いま、まさに自分がそうなってしまった」と彼は感じ、自信をまったく失ってしまったのです。
そのまま彼の大学生活は過ぎていき、就職活動の時期がやってきました。
当然ながら、一流大学の学生である彼のもとには、一流企業からのオファーがたくさん来ます。
しかし、彼は恐かったのです。
「一流企業には自分が足元にもおよばない天才たちがいて、自分はまたみじめな気持ちになってしまうのだろう」、と。
そして、彼は起業家の道を歩むこととしたのです。
自分だけの道を歩めば、人と競争をしたり、あのみじめなコンプレックスを感じたりせずにすむと考えたわけです。
じつは彼は大学3年のとき、数学から情報処理の専攻へと転籍。もとから優秀な頭でしっかりと勉強したので、ITに関する力はそれなりに身につけていました。
結果的に彼の仕事は非常にうまくいき、20代で早くも実業家としての腕をふるうようになったのです。
しかし、その後、彼はその会社を数億円で売却。それを元手にオフィス物件を購入し、現在はその不動産収入で生活しています。
いわば、若くして隠居している状態です。
そのため、経済的には問題はないのですが、両親や友人から、さんざんいろいろなことをいわれるわけです。
「若いんだから、外で仕事しなさいよ」、「家に引きこもってばかりいないで、なにか社会貢献でもしたら?」などと。
しかし、彼は「成功したいまのうちにすべてを終え、二度と失敗することがないように」生きているわけです。
そんな彼ですが、現在、つきあっている彼女がいます。
当然といいますか、恐がりの自分は隠し、彼女の前では“正体不明のカッコいいお金持ち”を演じています。
その彼に、私はこう言いました。
「たった一人でいいので、あなたのことをぜんぶ知って、受け入れてくれる人が必要ですね。
あなたはこの社会において、まるで透明人間のように隠れて生きています。
万一、見つかってしまって、こんなに恐がりな人間だということがバレてしまったら、みんなに指をさされ、そして、またみじめな気持ちを味わうだろうと思っていますね。
あなたはおそらく、なに一つ、失敗をしたことはないでしょう。恐れを恐れ、失敗を恐れ、逃げまわってきましたからね。
しかし、すべて包み隠さず彼女に話さないと、あなたは彼女にとってワケのわからない人になってしまいます。
そして、そのままでは、いずれフラれてしまい、“ほーら、やっぱり”と思うことになりますよ」
後日、彼はガタガタとふるえながら、自分のことをすべて、彼女に話したそうです。
彼女は「よくわからない」というような顔をしながら、ただただ、「ふーん」と聞いてくれていたのだそうです。
「なんで、こんな僕をきらわないんでしょうね?」
自分を受け入れてくれる人などいないと思っていた彼でしたが、現在は一人ぼっちから二人ぼっちになって生きているのです。
では、来週の『恋愛心理学』もお楽しみに!!