半分こ

私は2人姉妹で、2つ年下の妹がいます。
私たちは、子どものころたった1つ残ったおやつは、半分こにして食べていました。
私たち姉妹の育った家に、1つしかないおやつは、早い者勝ちとか譲るとか、1人が全部食べるというルールがありませんでした。
必ず母は半分こにしてくれました。

一緒に暮らしていた祖父母もよくおやつをくれましたが、なんでも平等に、ケンカにならないようにと私たちには1つずつ同じものをくれました。
ケーキでも大福でも、1つだけ残ったら半分に切ってもらって食べました。
半分しか食べられないことに不満を持ったことはありません。
当たり前のことでした。

だからなのか、結婚して夫と暮らし始めたころは、「えっ?」と思うことが何度もありました。
私が半分にしない限り、たった一つのプリンやお饅頭は夫が1人で食べてしまう、もしくは1つ丸ごと私にくれるのです。
「分けるなら要らない」と言うこともありましたし、いつの間にか食べられていたなんてこともありました。

おやつなので、そんなに大袈裟なことではないけれど、私は全部もらえたとしても、ちょっと申し訳なく、それほどうれしくなくて、さみしい感じがほんのりしました。
だからなるべく1つ残らないように買い物をしたものです。

いつもおやつを半分にしてくれていた母は、数年前から認知症になって、今は毎日デイサービスにお世話になっています。
偏食の母は、ご飯を食べたり食べなかったりするので、デイサービスの帰りにパンを1つ持たせてもらっています。
家にいるときに小腹がすいたら食べられるように、私と妹が毎月パンを用意しているのです。

私も妹も、月に1~2回程度実家に泊まりに帰って、母と過ごすのですが、デイサービスから帰ってくる母を出迎えたときに、母は「あら、いたの~」と嬉しそうな顔を見せます。
そして必ず手に持ったパンを私たちに見せて、「これおいしいのよ。半分食べる?」と言うのです。とても笑顔で。
認知症ですから、ちょっと前の出来事もすぐに忘れて、しばらくすると夫や子どもたちに同じように「半分こしようか?」「ねぇ食べない?」と声を掛けます。
私も妹も、今では夫や子どもたちもみんな、そんな母の様子に思わず笑ってしまいます。

母は、このパンだけではなくて、一緒にご飯を食べていても必ず「半分どうぞ」と言います。
この間は、器にたくさん盛ってある肉団子を、自分の小皿にとって、箸で半分に切って、半分は自分で食べて、半分を隣に座っている私の娘に小皿ごと差し出して「ほれ、おいしいよ」と言って食べるようすすめていました。
母は、その肉団子を気に入って何個も食べていましたが、毎回半分こにしていました。
母はどうしても、分け合いたいようでした。
私も妹もその様子を見て「お母さんって昔からそうだよね」と笑いました。

私は、1つのものを半分にわけて食べるというのは、ケンカにならないようにという知恵でもあるけれど、母の道徳的な教育だと思っていました。
そういうやさしさを持って欲しかったのだろうなとずっと思っていましたし、そういう女性でありたいなとも思っていました。

私と妹が子どものころ、いただき物でお花の形をしたきれいな色のキャンディが5本ありました。
ある日、学校から帰ってから、自分と妹も含めてお友達と5人で遊ぶことになりました。
私は、そのキャンディをちょうどみんなで1本ずつ分けられると思い、持って行ってみんなとそのキャンディを食べました。
すると、別の友達があとからやってきました。
私はもうキャンディがないので、後から来た友達にあげることができなかったので急いで家に帰って、なんか別のお菓子がないかと探していると、母に見つかってひどく叱られたことがありました。
母は、食べられなかった子がいたことをひどく怒ったのです。

私は、友達を悲しい気持ちになんかさせたくはなかったから、キャンディをあげられないことに申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
「もらえなくてもいいもんね」と強がった友達が遠くに感じられてさみしい気持ちになりました。
私は母に叱られたことより、あとから来た友達にあげるキャンディがないことでとても嫌な気持ちになったので、この出来事を今でもよく覚えています。

でも最近の母を見て、独り占めは意地悪だからダメ、分け合える優しい心がないとダメということを教えたかったのではないのかも知れないと思うようになりました。
もっとずっとシンプルで、分け合うこと、分かち合うことは心が喜ぶんだよと教えてくれたのかなと思うのです。
もしかすると母も分かち合えないさみしさを知っていたのかもしれません。

私は、「半分こ」して嬉しそうにする母を見るのが大好きです。
そんな母は、私と妹や夫や子どもたちに、あたたかい幸せの分かち合いの素晴らしさを教えてくれているんだろうなと思います。
色んな事を忘れてしまう母が、最後まで分かち合う喜びを忘れないでいてくれたらいいなと思います。
そして差し出された半分を笑顔で受け取って、ものすごく喜んであげたいなと思います。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

夫婦の危機を乗り越えた経験から 夫婦関係修復、男女関係の問題を得意とする。 また子育て、家族、自分自身の性格の相談も多い。 「声に癒される」「話していて元気になった」と声を頂いている 介護福祉士として、老いと死を受け入れていく人達、その家族の心のケアを行っている。夫、息子、娘と4人暮らし