わかってあげたいという愛

大切な人が悲しんでいる時、思いやる気持ちはあるのに、どんな声を掛けたらいいのかわからなくなってしまう事はありませんか?
そんな私の体験を、分かち合いたいと思います。

もう10年ほど前のことです。
彼女と私の子は同学年で生まれました。
彼女は里帰りしてお産をし、私たちは遠く離れてしまいました。
「こっちに戻ってきたらお互い赤ちゃんを会わせようね」と約束をしていましたが、彼女はなかなか帰ってきませんでした。

彼女の赤ちゃんには、強いアレルギーがありました。
彼女は実家で両親の助けを借りながら子育てをしていました。
はじめは病院にもかかっていたようですが、簡単に治るものではないこと、強い薬を使うことに彼女は不安を感じていました。
それにアレルギーは見てわかるもので、他人の赤ちゃんと自分の赤ちゃんの見た目の違いや、赤ちゃんを見た人の口々にする言葉に彼女はひどく傷ついていました。

そのうちに赤ちゃんを他人に見られること、育て方や治療法に意見されることを拒み、病院にも検診にも行かなくなったと言っていました。
彼女のご主人の両親や親せきに、その選択を反対され、彼女は責められたように感じ苦しんでいました。

赤ちゃんの治療や検診をやめたことが、いいのか悪いのかは私にはわかりませんでした。
私が彼女の立場なら同じことをするかもしれないと思いましたし、知識の乏しい私が、何か意見を言っていいようには思えませんでした。
彼女は薬を使わない方法でアレルギーにいいものを、一生懸命探しては試していました。
私はその話をただ聞くだけでした。
私たちは頻繁にメールでやり取りをしていました。

しかしある日突然、赤ちゃんが亡くなったという連絡が入りました。
私にもとてもショックなことでした。
彼女が赤ちゃんをとても大切にしていたことはよくわかっていましたし、赤ちゃんのためにどれほど手を尽くしてきたか、周りからの何気ない言葉に傷つき耐えてきたことか知っていたからです。
私は何をどう伝えるのがいいのかわからず、お悔やみの言葉をメールで返しました。
そしてそのメールに一言返事が来たまましばらくお互いに連絡を取り合わない日々が続きました。

しかし私は、いつも彼女がどうしているか、どんな風に過ごしているのか気になっていました。
自分を責めて、毎日泣いて暮らしているのではないかと思うと、私はたまらなく苦しくなりました。
子供を亡くした経験のない私には到底わからない悲しみや苦しさですが、彼女の気持ちを少しでも理解したいと思っていました。
そして、「もう少しも悲しくならないように」と願っていました。
友人が明るく笑って過ごせていたらとばかり思っていました。

連絡をしなくなって半年くらいしてから、私は彼女にメールをしました。
傷つけたらどうしようと怖くて、とても勇気がいりましたが、彼女を少しでも優しく明るい気持ちにしてあげたいと思い、庭の花の写真に「きれいに咲いたよ」と一文だけ添えてメールを送りました。

彼女はすぐに返事をくれました。
「元気?」「きれいだね」「ありがとう」と明るい言葉が返ってきました。
私は彼女らしいさっぱりとした明るい言葉に、彼女が元気そうで、私のメールで傷ついたりしていないようで、ほっとして涙が出ました。
それから写真と一文だけのメールのやりとりは、頻繁ではないけれど数年続きました。

そのうちに、彼女からとても嬉しい知らせがありました。
再び赤ちゃんができたのです。
この嬉しい知らせから写真と一文だけのメールのやりとりは終わりました。

現在彼女には2人の子供がいます。
毎年、年賀状は写真付きで、子供たちの成長を知らせてくれます。
今では私の子供のことも気に掛けてくれて、「もう何歳だね、大きくなったね」と言ってくれます。
最近も、子育ての悩みや愚痴をメールでやり取りしたばかりです。

今の私なら、彼女に「あなたが自分を責めていないか、泣いて暮らしてはいないかと、これ以上あなたを傷つけたらと思うと、連絡するのが怖かった」「私には、我が子を亡くした苦しみは到底わからないけれど、あなたが笑って過ごしていたらいいなと思っていた」「どうしたらあなたに寄り添うことができる?」と伝え聞くことができたかもしれません。

あの時の私は、友人の苦しみに触れることはできませんでした。
それでも彼女は、私の思いをいつも理解しようとしてくれて、いつもすぐにメールの返事を返してくれました。
私たちは、お互いを思いやる気持ちで、繋がることができました。
私は友人から、相手の思いをわかってあげたいという気持ちも愛であること、自信を持っていいということを教えてもらったと思っています。

これからは、大切な人が苦しさを抱えている時には、私から心を開いて、もっと深く繋がっていく勇気を持とうと決めています。
愛と勇気を教えてくれた友人に、とても感謝しています。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

夫婦の危機を乗り越えた経験から 夫婦関係修復、男女関係の問題を得意とする。 また子育て、家族、自分自身の性格の相談も多い。 「声に癒される」「話していて元気になった」と声を頂いている 介護福祉士として、老いと死を受け入れていく人達、その家族の心のケアを行っている。夫、息子、娘と4人暮らし