依頼の心理学

仕事上でも、日常生活の中でも、誰かに対して依頼をすることがよくあります。
依頼は言葉で行うこともあれば、文書で行うこともありますね。
しかし、こちらの意図通りに依頼が実行されないこともしばしば経験します。
それは、何故なのでしょうか?
また、どうすれば意図通りに実行してもらう可能性を高めることができるのでしょうか?

私たちは自分の見方で世の中を見ています。
そこには物事をどのように捉えるかという、単に音を聞く耳や、何かを見る目といったセンサーのみではなく、聞いたもの、見たものを理解し、判断する脳の機能が大きな影響を及ぼしています。
私たちは耳で聞く、目で見ると考えがちですが、そういった意味では実は脳で聞き、脳で見ているのです。
センサーから脳に至り判断するまでを、認知と呼んでいます。

脳の認識は、その人が今まで経験してきた出来事や、誰かから教えられた事柄、自分で工夫して決めた事柄が影響します。
例えば、犬に追いかけられてとても怖い思いをした人は、犬を見たときに怖いと思うでしょうし、子供の頃から犬を飼っていて犬に愛着を持った人は犬を見たときに可愛いと思います。
このように、見えたものや聞こえた事柄の捉え方は人により様々なのです。

依頼を行ってその意図通りに実行されない時には、依頼側の問題と受ける側の問題が絡み合います。

依頼側の問題で最も多いのは、自分がわかっているので人もわかるだろうという前提で依頼を出してしまうことです。
そうすると、依頼を受ける立場からは依頼自体が曖昧になっていましまい、依頼を受ける側の解釈が入り込む余地が生まれてきます。
それを防ぐためにもできるだけ丁寧に伝えることが、依頼をする側の意図通りにスムーズに事を運ぶ秘訣ではないかと思います。
そして、相手が依頼内容のみならずその意図を理解しているかどうかを確認することができれば、問題を生じる可能性は小さくなります。

依頼を受ける側の問題で多いのは、依頼を勝手に解釈して確認をしないことです。
確認をすると「こんなこともわからないのか」と思われてしまうのではないかと思ったり、中には明確に不機嫌になる相手もいたりするので、そんな時にはついつい確認を怠ってしまい、「こうだろう」と決めて指示された事柄を自分の解釈で進めてしまって、後で大変なことになるということもまま起こります。
依頼の仕方が悪いとはいえ、それでは物事がうまく進みませんから、不明な点は勇気をもって確認することが必要です。
依頼されたことを何のためにするのかという、根本に立ち返ることが重要かと思います。
一般に言語のみのコミュニケーションでは伝えたいことの10%程度しか伝わらないと言われています。
この確率を上げるためにも指示や依頼をする側と指示や依頼を受ける側の、お互いの努力が必要なのではないかと思います。

さて、文書で何かを依頼したりすることもよくあります。
これも正確な意図を伝えるのはなかなか難しいことです。
文書で依頼が伝わらない理由には依頼側、受け取り側それぞれに問題があります。
先ずは受け取り側の問題から言えば、言葉を正確に理解できない(ある意味、言葉を大切にしていない)場合や、注意が散漫である場合があります。
特にややこしいと感じる依頼は面倒くささが先に立つこともあり、ついつい読み飛ばしてしまうということがあったりします。
これは受け取り側固有の問題であり、注意深く文書を読む訓練をする必要があります。

一方、依頼側で気を付ける点は、読みやすい短文とすることや、理解し易くするために二重否定文は使用しないこと、重要なポイントは目立つようにすること、例を入れることです。
私がよく使っている手を少しご紹介すると、目立つようにするためにはその部分を引き出して手書きでコメントを入れます。
整然と並んだ中で乱れた字は違和感を覚えて注意を引きやすくなります。
また、例を入れることでより具体的にイメージがわきやすくなります。
例えば、「遡って記載ください」と書いた場合と「遡って(2021年、2020年・・・)記載ください」を比べてみると、後者の方がよりイメージが湧きやすいのではないでしょうか。
自分の思い込みを横に置いて、読む相手の立場で依頼内容が伝わるかイメージする、相手がどこを読み違えるかイメージすることができれば、問題は発生しにくくなると思います。

もっとも、コミュニケーションの齟齬は100%無くなることはありません。
様々な経験を経て、工夫を凝らして少しずつ齟齬を無くしていくしかないのではないかと思います。

この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。