愛についての一考察

見失った“愛”は取り戻せる

人間は生物の本質として人を愛したいし、人から愛されたい、人との関係性を持ちたいと思う生き物です。しかし、人間が本来持っている“愛”が否定されると、人間不信や社会不信が大きく膨らみます。それは“愛”を無くした状態ではなく、見失った状態に過ぎません。私たちは何かのきっかけで見失った“愛”を取り戻すことができます。

私たちの心の成長過程では、養育者の影響を大きく受けます。

養育者はまた、養育者が育った時代や生育環境、現在の社会やコミュニティーの影響を受けています。

関西弁を喋る養育者の下では関西弁を話す子供が育ちます。英語で日常生活を送っている家庭の子供は英語を話すようになります。言葉のみならず、考え方や生活習慣なども同じです。

人間以外の動物は、生まれた時にはほぼ完成形に近い形で生まれてきます。例えば馬は生まれてすぐに立ち上がりますが、人間は10か月程でようやく、つかまり立ちができる程度です。人間は他の動物と比べると、ある意味未発達の早産なのです。

この状態は、養育者に依存しなければならないことを意味しています。

そして養育者に依存することで“今の環境”で生きている養育者から生き方を学ぶのです。例えば、北極圏で生きている人々には北極圏での生き方が、南の国で生きている人には南の国での生き方があり、それを学ぶわけです。

また、私たち人間の脳は、どのような環境でも生き延びられるように脳の仕組みが環境順応型になっています。これも他の動物とは異なるところです。

私たち人間の脳は生まれてきたときには未完成で、おおよそ20歳ぐらいまで発達が続くと言われています。生まれてきたときには、例えていえばソフトウエアがインストールされていないコンピューターのような状態です。基本機能は備わっていますが、ただの箱のような状態です。そこにソフトウエアを養育者や社会からインストールされて初めて機能しはじめるのです。

従って、私たちの子供の頃の出来事や体験は、その後の生き方、人生に大きく影響を与えます。特に依存しなければ生き延びられない養育者との関係は、絶対的な影響力があります。

私たちは多くの場合、自分を育ててくれる、面倒を見てくれる、わかってくれる養育者との関係の中に“愛”を感じ、信頼を置きます。

たとえどんな親であっても、です。一時的にせよ、です。

そして、私たちの心の奥深くには養育者から愛された記憶が残り、養育者への信頼があり、それが心の礎となります。これは、人間という生物が生き残るために遺伝的に仕組まれた“仕組み”ということができます。

従って、人間という生物は、本質的には人を愛したいし、人から愛されたい、人との関係性を持ちたいと思う生き物なのです。

しかしある時、何らかのきっかけでその養育者との関係性が崩れることがあります。

客観的にみれば、些細な出来事のこともよくあるのですが、主観的には一大事と捉えてそれが大きく影響するのです。その何らかの出来事をきっかけとして「養育者は私を愛してくれていない」「養育者は信頼がおけない」「私に原因があり、私は愛されるべき存在ではないのかもしれない」との思いや疑念が湧き上がるのです。

その後それらの思いや疑念が払拭されないと、先の“愛”とそれを打ち消す感情の相克が生まれます。この相克を心理学では“アンビバレントな感情”と言います。

人間が本来持っている“愛”が否定されると、人間不信や社会不信が大きく膨らみます。これは、その人が持っている“愛”を失ったわけではなくて、他の人間や社会から自分を守るために“愛”を見失った状況です。

本来人間は、好むと好まざるとにかかわらず、遺伝的に愛を求め、愛を与えたい、人間関係を築きたい生物ですから、この状態はとても苦しい状態です。

人間は苦しい状態に長く置かれると、順応の為に感覚が鈍麻(反応が鈍くなる)しますから、そのうちその状態が苦しいことすら忘れて、そのような状態を当たり前に感じるようになります。

そうすると、本来は遺伝的に心地よい“愛”の状態を忘れた状態で生きることを選択し続けるのです。

しかし、ふと何かのきっかけで見失った“愛”を取り戻すことができます。その人の中に“愛”が失われたわけではない証拠ですね。

そのきっかけがいつやってくるのか、どこからやってくるのかは人により様々です。しかし、誰にでもそのきっかけは何度も何度も繰り返しやって来ていて、それを見えなくしているか、見ようとしていないか、受け入れ準備が整っていないかでやり過ごしてしまっているのです。

既成概念にとらわれずに、あなたが本当に心地よいというのはどのような状態でしょうか。あるいは今まで体験した中でどのような状態だったでしょうか。
こんなことを考えるのも、あなたの中にある大いなる“愛”に気付くきっかけになるかもしれませんね。

(完)

この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。