誰かに何かをお願いしたとき、お願いした相手が「やらされている感」を抱いてしまうとうまくいかなくなってしまうことがとても多いですね。
そこにはコミュニケーションに関する問題なども関わってくるのですが、基本的にはそれを依頼された人がやる“意義”を感じることがとても大切です。
依頼された人が感じるやる意義を「動機」、お願いする方がその意義を与えることを「動機付け」と言います。
人を何らかの行動に駆り立てる心の力(エネルギー)を「モチベーション」「動機」「欲求」「動因」と呼び、外部からその行動を行うように促す力を「誘因」と呼びます。
例えば、“金銭的に裕福になりたい”という気持ちがあり(動機)、頑張って働けばその分正当に見返りがもらえるという条件(誘因)があれば人は頑張って働きます。
動機と誘因がマッチしているわけです。
しかし一方、“金銭的に裕福になりたい”という気持ちよりも寧ろ“自由な時間が欲しい”という気持ちの方が勝っていれば、頑張って働けばその分正当に見返りがもらえるという条件があったとしても、動機と誘因がマッチしていません。
このケースでは、人はせいぜい、少し頑張る程度の働きしかしないことになります。
すなわち、人は動機と誘因がマッチしてこそ、その力を最大限に発揮する事ができるのです。
さて、では人はどのような事で動機づけされるのでしょうか?
動機づけについては、心理学で古くから研究されているいくつかの理論がありますが、その1つに「アダルファのERG理論」があります。
アダルファは、人の欲求を低次なものから
(1)生存(existence)
(2)関係(relatedness)
(3)成長(growth)
の3段階に分類し、これら3つの要求を満たそうとすることが動機になると説明しました。
“生存”の欲求とは、人間が生存するのに必要な物質的、生理的なものを求める要求です。 具体的には、食事や安全な住環境、賃金や福利厚生、安全な職場環境などです。
“関係”の欲求とは、人間関係の維持発展に関する欲求です。
具体的には、家族や友人、恋人、上司や同僚、部下などとの良好な関係です。
私たち人間は、生物学的に人とつながる本能(欲求)を持っています。
人により、その欲求が何らかの理由で抑圧されている場合もありますが、例えば赤ちゃんは生来的に母親などの保育者とつながる事ができるように様々な機能を持っています。
例えば、生まれたばかりの赤ちゃんの目の焦点距離は20〜30cmですが、これは哺乳など抱かれている状態で保育者と目が合う距離になっています。
“成長”の欲求とは、人間的に成長を求め、創造的で生産的であろうとする欲求です。
具体的には、スキルのアップや不得手な分野の克服、新しい分野へのチャレンジ、興味のある分野の深耕、人としての成長などです。
これら3段階の欲求は併存することもあり、高次の欲求が満足されないと低次な欲求の重要性が増していきます。
例えば、仕事で成長の欲求が満足できないと感じていたとしたら「食べるために仕事をしている」という生存の欲求から仕事をしているという状況になったりします。
また一方、低次な欲求が満足されると、その強度や重要性が低下していきます。
例えば、昇給により生活するには十分な賃金を得られるようになると、英会話を学んで自己研鑽するなど成長欲求を満足する方向に向かいます。
ただ、“成長”の欲求は、どれだけ成長してもその次の目標に向かうので、満足される事がありません。
これらの動機づけの観点から、今あなたがどんな動機でどのような行動をとっているかを見つめてみるのも、今の自分を冷静に見つめる良い機会なのではないでしょうか?
また、動機づけを行う方々は、部下の仕事に対する動機づけをどの段階を主として行うのが適切かを考え、それに応じた環境整備を行ってあげると、モチベーションの高い集団が形成できるのではないかと思います。