恋愛の素晴らしさは、たがいに欠けているところを補いあえること
こんばんは。
神戸メンタルサービスの平です。
今回は、前々回からお届けしてきた、「30代半ば、キャリア・エリート女性の恋愛のお話」完結編です。
彼女はおとうさんをたいへん尊敬していました。
そして、自分ではまったく気づいていなかったのですが、おとうさんのような素敵な男性をゲットするには、おかあさんのような女性にならないと無理だと考えていたようです。
でも、お料理であれ、お掃除であれ、子どもだった彼女がおかあさんに勝てるはずはありません。
その結果、「私はとうてい、おかあさんにはかなわない」というコンプレックスを抱え込んだまま、彼女は女性としての人生をスタートさせてしまったようなのです。
彼女は子どものころから負けん気が強く、がんばり屋さんで、「男なんかに負けるもんか!」を合言葉にスポーツにも勉強にも打ち込んできた人でした。
でも、その裏側には、「おかあさんのような女らしい人には、私はなれっこない」、「どうせ私なんか‥‥」という思い込みがものすごく強く存在していました。
その彼女がおかあさんと恋愛に関する話をしてみたところ、自分自身の口から出てくる言葉に彼女自身、びっくりしたといいます。
「どうせ私なんか‥‥」という言葉が、考えられないほどたくさん出てきたのです。それこそ、オフィスではネバーギブアップの精神をもった女性キャリアとして有名だった彼女が、自分のなかにこれだけたくさんの情けない自分がいるということにはまったく気づいていませんでした。
その会話のとき、おかあさんは、彼女が自分のことを卑下するたびに、「そんなことないわよ、あなたのすばらしいところはね‥‥」と、彼女の魅力を伝え続けてくれたそうです。その一言一言が彼女の胸にしみわたり、何十年ぶりかで彼女はおかあさんの前でわんわんと泣いたそうです。
彼女は、うれしかったのです。
実際、彼女は学生時代の成績も仕事上のキャリアも、なにをとってもすばらしかったわけです。
しかし、このとき、おかあさんに認めてもらってはじめて、肩の力が抜けたんですね。
そして、目くじらを立ててがんばってきた彼女が、自然体の女性へとぐんと変わりだしたのです。
同僚や部下を励ますときも、これまでの彼女は、「がんばろうぜ!」とオシリを叩くようなやり方をしてきましたが、おかあさんとの会話後は、おかあさんが自分にしてくれたのと同じように、「あなたのどこがすばらしいのか」ということを相手に伝えられるようになったのです。
それがしっかりと身についてきたころ、彼女は部下の男性の価値もきちんと見てあげられるようになってきました。
すると、彼女はこう気づいたのです。「これは、どうやら恋愛じゃないみたい。ただ、彼が私の価値をちゃんと見てくれたということへの喜びだったのかも‥‥」。
それがどんどんはっきりしてくるにしがたい、部下を好きだった気持ちも小さくなっていったようでした。
結果的に、彼女は2年後に2つ年上の男性と結婚することになるのですが、彼女はそのとき、私にこう言ってくれました。
「もしも、あのとき、おかあさんと話して、自分を認めてもらうという経験をしていなかったら、私は、唯一、自分を認めてくれたと誤解した2つ年下の部下のことを、ずっと追いかけていたのかもしれません。
でも、あれは恋愛というよりも、疲れ切っていた私の心が、私を承認してくれる人を求めて引き起こしたものだと思います」。
さらに、彼女は続けました。「コンプレックスがあるがために、つねに勝ち続けなければいけないと思っていた人生でしたが、母が心から私を認めてくれていると感じた瞬間から、人生を楽しめるようになった気がします」。
私たち人間の心には、必ずコンプレックスというものが存在していて、私たちはいつもそれとケンカしています。
そして、コンプレックスを強く抱えすぎていると、その補償として、彼女と同じようなことがよく起こります。だれかが自分を認めてくれると、まるで恋をしたように感じてしまうのですね。
それは、まるで、砂漠を長く歩いたあとなら、どんな水を飲んでもおいしく感じるのと同じようなものです。
しかし、そこで恋に落ちたとしても、しばらくたったとき、「なんで私はこんな人に恋をしてしまったのかしら?」と思うことになります。
若いうちは、大なり小なり、そんな恋愛をすることが私たちにはあるようです。
かつて、私の先生が教えてくれた言葉に、「ほんとうの強さとは、弱さの中に入れるほど強いことだ」というものがあります。
あなたが自分のコンプレックスを人に話せるほど成熟したとき、あなたもほかの人のコンプレックスを受け入れてあげ、そして、おたがいに支え合うという、本来のパートナーシップを組むことができるでしょう。
恋愛でいちばんすばらしいことの一つは、たがいに欠けているところをたがいに補いあえることだと思います。
そして、あなたにも不十分なところがあるからこそ、パートナーが必要であり、そして、パートナーも同じ理由であなたを必要とするのです。
では、来週の恋愛心理学もお楽しみに!!