自分を追い込むクセからの解放~罪悪感や無価値感に隠れた感情を理解する

「やらざるを得ない」から「やりたいからやる」へ

自分を追い込むクセは、多くの場合かつて誰かが怖かったからなどのネガティブな理由で、仕方なくそうしてきたということがあるようです。いまあらためて、自分がそのようにしてきた心理的な訳を理解し、もっと楽に「やる」か「やらない」か選んでいかれる方法を考えます。

Aさんは温泉が好きで、最近お付き合いをはじめた彼とよく二人で温泉に行くそうです。
彼もAさんに影響されて温泉が好きになったとのこと。二人で同じ趣味を持つなんていいですねとよく言われるそうです。ところがAさんは浮かない表情でした。実はAさんは彼と温泉に行くと、ゆっくりお湯につかっていられないと言うのです。

日帰り温泉の男湯と女湯の暖簾(のれん)をそれぞれくぐった途端、Aさんの頭の中で徒競走のピストルが鳴ったかのように、非常に忙しい時間が始まるといいます。
大慌てで身体を洗って、大急ぎでお湯につかり、早着替え競争のように必死で着替えます。
そして彼との待ち合わせ場所に走って行き、それでも先に戻っていた彼が「いま出てきたところだよ。」と言うのを聞いて、Aさんは彼を待たせずに済んだという安堵、やるべきことをやった達成感、そして大きな疲労感でいっぱいになるそうです。

時間厳守は良いことだとも言えますが、Aさんにとって彼との温泉は、忙しくてリラクゼーションからは程遠いものになっていました。

◇自分を追い込む心理

Aさんはなぜそんなに、必死になって急ぐのでしょうか? Aさんに聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
「彼を待たせられないからです。待たせてしまって彼が不機嫌になるのが嫌なので。」

彼は相当時間に厳しい人なのでしょうか。
「いや、そういうわけではないですけど、でも男性って待つのが嫌いですよね。」

Aさんは、男性は待つのが嫌いだと思い、彼を待たせて不機嫌にさせたくない一心で、猛スピードで温泉に入っていたようです。

私たちは、かつて経験したことを、現在の状況に当てはめてしまうことがあります。心理学では投影といいますが、過去の経験や、過去に出会った人を現在に映し出し、目の前の人もきっと同じだろうと思ってしまうことがあるのです。

Aさんは子どもの頃、お父さんが非常に時間に厳しくて、「動作が遅い」「もっと早くしろ」「いつまで待たせるのだ」と、よく叱られていたといいます。幼いAさんは一生懸命になって、何をするにもいつも急いでいたそうです。

お父さんのように彼も、少しでも待たされると機嫌が悪くなるのだと信じて疑わないAさんでしたが、それを確かめるため、次に温泉に行った時に彼に直接聞いてみたそうです。
「今日は温泉に少しゆっくりつかってきてもいい? 少しお待たせしちゃうかもしれないけれど。」
それだけでも怒られるのではとびくびくしていたAさんでした。
ところが彼は笑顔でスマホを見せて、「ゲームしながら待っているから、ゆっくりしておいでよ。」と言ってくれたそうです。

「待たせてはいけない」と自分のおしりをたたいていたのは、Aさん自身だったこと、そして、もうそんなに急がなくてもいいのだと、ようやく解放された気がしたとのことでした。

◇それでも急いでしまう

彼は待つのが平気。
それが分かったAさんでしたが、だからと言ってゆっくり温泉につかっていられたわけではないようでした。もう急がなくていいのだと、何度も自分に言い聞かせたものの、やはり気持ちが焦ってしまうそうです。

私たちは頭で理解したことでも、潜在意識などの心が納得しないと行動できないことがあるようです。そのようなときは、そのできない訳に立ち戻ると良いかもしれません。

子どもの頃イライラしたお父さんを見て、Aさんはあんなにお父さんを嫌な気分にさせるのだから、自分はその存在自体が罪深いもの、あるいは価値のないものと思ったかもしれません。自分を否定するこのような考えが、必死に「急ぐ」ということに繋がったと考えることもできるのです。

とはいえ、もっと心の深い部分を見てみると、お父さんがイライラしないよう、急ぐことでお父さんを大切に扱いたかったという、Aさんの思いがあったのではないでしょうか。

つまりAさんは、本当に大切にしたい人を愛する方法として、相手を待たせない(自分が急ぐ)ということをやってきたと考えることができるかもしれません。
そして今、大切な彼を愛したいからこそ、急がなければと感じているのかもしれないのです。

このように、自分がやっていること(やめられずにいること)を、肯定的に理解し認めてあげることで、長らく自身を否定していた気持ちを緩められることがあります。

愛したいからこそ急いでしまうということが分かれば、その方法で彼を愛するのでもいいし、別の方法で愛してもいい、つまり急いでも急がなくてもどちらでも良いというように、自分に選択権があることが分かるかもしれません。
「今日はゆっくりしよう」とか「今日は急ごう」など、彼と相談しながらでも、Aさん自身で決められるようになると、急ぐことが切羽詰まったものにならなくなるのではないでしょうか。

「せざるを得ない」と自分を追い込むクセは、「やる・やらない」を選択できるようになることで楽になっていくのかもしれません。

(了)

この記事を書いたカウンセラー

About Author

職場の人間関係、夫婦・家族の問題を主に扱う。 「解決したい問題がある時に、悪いところを探して正そうとするのではなく、自分の魅力や才能を受け取れば物事を全く別の見方で捉えることができ、自分の枠から自由になり、のびのびと楽に毎日を送れるようになる」というスタンスでカウンセリングを行っている。