仕事に意欲が湧かない〜自分の「好き」を理解する

Aさんは、仕事ができるし対人関係もうまくいっているそうですが、最近仕事への情熱が湧かなくなったと言います。
これまで人一倍努力もして、収入も十分得ているし、社内でも色々な仕事に挑戦し評価もされてきました。
会社の中で成功者とみなされているAさんは、部下や後輩たちの憧れでもあります。
しかしAさん自身がやる気が出なくて、まったく楽しくないと言うのです。

◇情熱のもと

これまでのAさんは、仕事が楽しくてやる気や集中力もあり、朝から晩までほぼ仕事一色だったそうです。
それほどまでに情熱を傾けてきた仕事に意欲が湧かなくなったので、毎日が灰色に見えてしまっていると言います。
Aさんとしては思い当たる原因が無いとのことで、どうすればまたかつてのように、生き生きと仕事ができるのかと悩んでいるとのことです。

私たちは何かに情熱を傾けるとき、そこに理由があるはずです。
Aさんにとって仕事は喜びであったと考えられるのですが、仕事の何がそれほどに喜びであったのでしょうか。

Aさんは言いました。社会人になってからというもの、努力して結果を出すことで、上司に褒められることがまず嬉しかったのだそうです。
継続して結果を出すと周りからも称賛され、お給料やボーナスにも反映され、やれば結果がついてくることが刺激的だと感じていたそうです。
同僚などに優越感を感じることも嬉しく、ますます仕事に精を出すことができたとも言います。

Aさんは恥ずかしそうに言いました。
「人と比べて優越感を感じ、チヤホヤされるのが嬉しかったなんて、私は性格が悪いのでしょうか。」

認められたいという欲求のことを承認欲求といいますが、私たちは誰でも、人に認められたいし、認められると嬉しいもので、恥ずかしいことではありません。

Aさんは、人に認められることで頑張れたということであれば、承認欲求がやる気の源であったと考えることができるかもしれません。

ところが、もともと能力も高く努力も怠らなかったAさんは、上司などに十分評価され、社内でも名誉を得ると、徐々にそれほど人に認められたいと思わなくなってきたと言います。
欲しいものは手に入れた、つまり承認欲求がある程度満たされたと感じているのかもしれません。

喉がカラカラに乾いているときは、水が飲みたくて仕方ないけれど、ある程度飲んだ後はそれほど飲み物を欲しないのと同じようなものかもしれません。

人に十分認められ、これ以上欲しい承認がないとしたら、仕事に対する意欲というのは、もう湧かないのでしょうか。

◇自分が本当に嬉しいと感じること

実は承認欲求には二つあり、他者から認められたいという気持ちは「低位の承認欲求」と呼ばれています。
一方、人にどう見られるかではなく、自分の内面から湧き上がる欲求を「高位の承認欲求」と言います。
高位の承認欲求は、自分の成長を感じたいとか達成感を得たいという思いでもあるかもしれません。

人に認められたい欲求は、褒められ尊敬されることで達成されるのかもしれませんが、自分がやりたいからやるという行動は、ひとつ達成されれば、またひとつ新たな目標や、さらに高い目標を持つこともできるでしょう。
そのため、仕事に取り組むときの動機が高次の承認欲求にもとづいていると、もう欲しいものはない、という状態にはなりにくいと言えるのかもしれません。

Aさんは、好きではないけどやらねばならない、という状況は得意だけれど、好きなことをやりましょうと言われても、自分は何が好きなのか、サッパリ分からないのだと言います。

私たちには、好きや嫌い、嬉しい、楽しいなど色々な感情がありますが、自分でたとえば「好き」という感情は悪いものだと思ってしまうと、その感情を抑圧し、感じにくくしてしまうことがあるのです。

人にもよりますが、私たちは子どもの頃から親に愛されるために、欲しいものを欲しいと言わず、我慢やあきらめを繰り返すことがあります。
すると大人になってからも、他人の意向ばかり気にし、空気を読んで、自分のやりたいことが分からなくなることがあるのです。

親や誰かに愛されるための行動は、私たちが親や誰かを愛する行動だったとも言えます。
つまり、褒められるために良い子になったのは、あなたが良い子になることで、誰かが楽になることを知っていたからとも考えられます。

心理学では、自分を数に入れる、という言い方をすることがあります。
人を喜ばせるだけでなく、自分のことも同じように、大切にできるようになりたいものです。
自分が何を好み、心からどうしたいと思っているのか、自分自身を理解していくことは、人生の目標や方向性を見つけることにもつながることがあります。
本当にやりたいことと仕事があらためて結びついたときに、仕事への新たな意欲を感じられるのかもしれません。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

職場の人間関係、夫婦・家族の問題を主に扱う。 「解決したい問題がある時に、悪いところを探して正そうとするのではなく、自分の魅力や才能を受け取れば物事を全く別の見方で捉えることができ、自分の枠から自由になり、のびのびと楽に毎日を送れるようになる」というスタンスでカウンセリングを行っている。