褒め言葉に隠された期待が苦しい 〜潜在意識レベルで愛と同等に定義してきたものとは

愛したいからこそ、自分にかけるプレッシャーがある

褒め言葉には、今後の活躍に対する期待が隠されていることがあります。他人の期待に応えなければと自分にプレッシャーをかけやすい人は、期待を察知すると義務を課されたようで苦しくなることがあります。あなたの愛し方を見直すことで、他人の褒め言葉をありがたく受け取れるようになりましょう。

人に褒められることは、一般的には喜ばしいことかもしれませんが、Aさんは自分が褒められることが苦手だと言います。
つい先日も、会社で大きなプロジェクトのリーダーに抜擢されたAさん。同期に「君は出世頭だな。」と言われ、後輩に「かっこいいですね。」と言われたときに、嫌だなという思いがしました。激励されて嬉しいようにも頭では思うけれど、なんだか嫌な気分がするというのです。

出世頭だと言われると、これからも同期の中で最も仕事ができなければいけない気がするし、かっこいいと言われると、失敗できないぞと自分にプレッシャーがかかっている気がすると言います。
出世頭であり続けなければ、失敗せずに成功し続けなければ、相手がきっとがっかりするだろうと思い、がっかりされるのが嫌なので、相手の期待に応えなければと思うのだそうです。

私たちが他人のことを褒めるとき、「これまで」や「今」のことを褒めるだけではなく、たとえば会社の上司が「いつも頑張っているな。」というときは、「これからもよろしく頼むよ。」というように「今後」に対する期待が含まれていることもあるかもしれません。

ですからAさんが、人から褒められたときに、その褒め言葉の裏に「今後の自分」に対する期待が含まれているように感じることは、間違いではないかもしれません。

では、Aさんを褒めた人たちは、Aさんに「これからも」そうであって欲しいと、どれだけ強く思っているのでしょうか。たしかに「出世頭」とか「かっこいい」というAさんが、これからもそうであれば喜ばしいという思いはあるでしょう。とはいえ、Aさんのことを「そうであるべきだ」とは思っていないはずです。
つまり他人の期待というのは、それほど相手を束縛するほどのものではないことが多いようです。「そうであったらいいな。」くらいのもので、たとえそうでなかったとしても、ひどくガッカリすることは少ないのかもしれません。

周りはそれほど期待していなくても、Aさんが他人の期待には大きな強制力があると認識しているようなのです。いったいAさんはなぜこうなったのでしょうか。

Aさんは子ども時代、学校のテストで悪い点を取ると親にひどく叱られたそうです。叱られた後に母親の顔を盗み見ると、とても残念そうな表情をしていたのが目に焼きついているといいます。
その顔を見るのが嫌で一生懸命に勉強をしたそうです。
Aさんは叱られたくないという理由で勉強をし、親の機嫌を損ねたくないという理由で就職先を決めました。

そうやって親の期待に添うことばかりやってきたので、他人の期待にも応えようとしてしまうようだとAさんは考えていました。ということは、一生このままなのでしょうか。

親が厳しく怖かったから親の言う通りにやってきたというのは、確かにそうかもしれません。そしてまた別の見方をすると、Aさんは親を喜ばせたくて、そのために期待に応えようとしてきたとも考えられます。学校で良い点を取ると、母親が喜ぶことをAさんは知っていたからです。
大切な人に喜んでもらおうと思って、心から何かをすることを、「愛する」と言います。

私たちは何かをやめられないとき、無意識にはそれをやめたくないと思っていることがあります。
中でも、自分でやっていることが潜在意識レベルで「愛だ」と認識していると、頭ではやめたいと思っていたとしても、やめられないことがあるようなのです。私たちにとって愛することがどれほど大切であるかがわかるかもしれません。

親に喜んでもらいたいと思って、一生懸命に 期待に応えようとしてきたAさん。
Aさんにとって期待に応えて頑張ることは、愛することだったのかもしれません。
幼い頃からずっと期待に応えることで、必死に愛を伝えようとしてきたのかもしれません。

まずは他人の期待を感じ取ったときに、期待に応えたいように感じてしまうのは、自分の愛ゆえであることなのだと思ってみてもいいかもしれません。
他人が何かを強制的にさせようとしているのではなく、自分の愛情が、人を大切にしたいと思うからこそ、期待に応えようとしてしまうのだなと思ってみるのです。

そのうえで、幼い頃は期待に応えることこそが、愛を表現する方法だと思っていたとしても、大人になった今では、いくらでも他に愛を伝えるやり方はあるはずなのです。

つまり期待には、応えてもいいし、応えなくても良く、どちらでもAさんの自由であると理解することが大切かもしれません。

そうやって、自分のやりたい方法で相手を大切にしてみるうちに、相手の褒め言葉は、その裏に期待という意味合いが含まれていたとしても、それは単に相手が相手のやりたい方法で、あなたへの信愛や友情などを表現しているだけであり、あなたはそれをただ喜んで受け取っておけばいいのだということに気づかれるのではないでしょうか。

(了)

この記事を書いたカウンセラー

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職場の人間関係、夫婦・家族の問題を主に扱う。 「解決したい問題がある時に、悪いところを探して正そうとするのではなく、自分の魅力や才能を受け取れば物事を全く別の見方で捉えることができ、自分の枠から自由になり、のびのびと楽に毎日を送れるようになる」というスタンスでカウンセリングを行っている。