自分への期待を手放すとき、とは
■期待の心理
心理学の考えの一つに、人は依存の段階から自立の段階に向けて成長していくという考えがあります。
自立の段階でも3段階にわかれていて、その3段階の一つに、期待のステージというものがあります。
このステージの特徴の一つとして、自分への期待をかけてしまいがちな傾向があるという特徴があります。
自分への期待とは、例えば、
「自分はもっとやれるはずだ」
「私はもっと頑張れるはずだ」
「私はもっと踏ん張れるはずだ」
というようなものです。
期待の心理という言い方をしているのですが、皆さんが身近に使っている言葉に置き換えると、自分へのプレッシャーという言い方になるでしょう。
そうすると「ああ、そんなことを思ったことは自分にもあるなぁ」とイメージしやすいかもしれませんね。
この自分への期待がポジティブな働きをすることがあります。
「自分はもっとやれるはずだ」と自分に期待をかけることで、超えれなかった壁を越えて成長できるというシチュエーションもあるでしょう。
「私はもっと頑張れるはずだ」と自分に期待をかけることで、もう一踏ん張りすることができるというシチュエーションもあるでしょう。
「私はもっと踏ん張れるはずだ」と自分に期待をかけることで、難局を踏ん張って打開していくというシチュエーションもあるでしょう。
というふうに、
自分への期待がポジティブな働きをして、プラス効果を産むことがあります。
このように書くと一見、ポジティブな働きをする心理のように見えるのですが、そうとは言いきれないのです。
時と場合によっては、これがネガティブな働きになってしまうことがあります。
■自分へ期待をかけ続ける人
気力や、体力が弱っている時に、この期待の心理が強く働いてしまうとマイナスの効果になっちゃう時があるのです。
例えば、
Aさんという人が、大量の仕事を抱えていたとします。
責任感が強いAさんは、
「これは私の担当の仕事だから、責任を持って私がやらなければ」
と、夜も遅くまで残業をして、残業しても裁けなかった仕事は家に持ち帰り、栄養ドリンクを飲みながら、そして眠い目をこすりながら家でも仕事をしていたとします。
家には栄養ドリンクの空き瓶が無数にゴロゴロ転がっているような様子。
それでも裁ききれなかった仕事は、休日も返上して担当分の仕事をするような生活を続けていたとします。
そんな生活を続けていたAさんは、だんだん心も体も疲れてきたとします。
気力がでにくくなり気分は鬱っぽい状態で会社にいくありさま。
体も睡眠不足でふらふら。
しかし、責任感が強いAさんは、
「私はもっと頑張れるはずだ」
と思い、頑張ろうとするのです。
しかし、そう思っても、気力がでにくくなり気分は鬱っぽい状態は変わらず、体力的にも限界で、今までのように、気力を振り絞ってもうひと頑張りすることができない状態になっていったとします。
そんな時に、
「もうひと頑張りできないなんて情けない」
とAさんは自分を責めてしまうのです。
そして、Aさんは、そんな自分を責めて、
「私は、もっとやれるはずだ」
「私は、もっと頑張れるはずだ」
「私は、もっと踏ん張れるはずだ」
と、自分を奮い立たせて頑張り続けようとするのです。
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さて、Aさんはどうなるでしょうか?
たぶん、どんどん疲弊して行くと思いませんか?
そうなっていくケースって実際に結構あるんです。
心が疲れてきだした時に心が発するペースダウンしなければいけないという信号や、休まなければいけない信号を無視して、「もっとやれるはずだ」「もっと頑張れるはずだ」「もっと踏ん張れるはずだ」と自分に期待をかけ続けると、より心が疲弊していく方向に進んでいくことがあります。
人によっては心が燃え尽きていくこともあります。
私はカウンセリングでクライアントさんに
「燃え尽き”まっしぐら”になるから、私はもっとやれるはずだと思うのは、今はやめておきましょう」
と言うことがあります。
時と場合によっては、”まっしぐら”という言葉を使うぐらい、自分へかける期待が心が燃え尽きていく要因になることがあるのです。
■作戦変更の勇気
スポーツでも、ビジネスでも、作戦や方針というものは最初に決めたことを一貫して続けるものではなく、状況にあわせて作戦を変えていくことが多いですよね?
例えば、サッカーで予選リーグの上位のチームが決勝トーナメントに進める仕組みの中、監督がとった作戦が予選リーグは守りを重視する作戦だったとします。
予選リーグの試合をどんどん消化していき、残り1試合になったとします。
今までの試合の勝ち点を計算すると、次の試合では、どうしても勝たないと上位チームに残れないようなことが見えてきたとします。
そこで監督は「引き分け狙いだったら守り重視でもいいかしれないけど、今度は絶対勝たなければいけないから攻撃重視にしよう」と作戦を変える・・・というように、作戦という物は状況にあわせて変えていきます。
ビジネスでも世の中の景気がよく会社の売上げが好調の時は銀行に借り入れをして、そのお金で新しく設備投資をして、事業拡大をする攻めの作戦をとっていた会社が、景気が悪くなると、事業拡大などはせず、なるべく支出を抑えて現状維持の作戦をとるなどは、よくあるようなお話かと思います。
作戦や方針というものは状況にあわせて、都度ベストの作戦や方針を選ぶものであります。
それは心のことについても一緒なんです。
心が元気で、気力に溢れている時は、「もっとやれるはずだ」「もっと頑張れるはずだ」「もっと踏ん張れるはずだ」と考えることがプラス効果を産むことがあります。
しかし、心が疲れている時は「もっとやれるはずだ」「もっと頑張れるはずだ」「もっと踏ん張れるはずだ」と自分へ期待をかけることは、心を疲弊させ、燃え尽きさせていきます。
マイナス効果になることが多いです。
そんな時は、自分に負荷をかける作戦ではなく、自分への負荷を減らす作戦をとる時なんです。
自分にかける期待を手放す時なんです。
そして心が元気な状態に回復するよう、スローペースで活動したり、時には一休みをしたりと、無理をせず過ごす作戦にすることがプラス効果につながりやすいです。
心が疲れている時には、作戦変更(方針変更)をする勇気を持ってみましょう。
ご自身にかける負荷を減らす作戦にしていきましょう。
■作戦変更時に抵抗感がでることがある
自分への負荷を減らす作戦をする時に人によっては罪悪感や、無価値感、惨めさ、情けなさ、恐れなどの感情がでてきて、その感情が抵抗感となり、作戦(方針)変更ができないことがあります。
(もしくは、作戦変更はするのですが、頭の中に「楽して良いのかなぁ」「頑張らなくていいのかなぁ」などが浮かんできて、作戦変更をした作戦に徹しきれないというような話も聞くことがあります)
そんな時は、誰かに相談してみてください。
一人でその抵抗感と戦うと、さらなる精神的な疲労をおこしかねません。
(精神的に疲労しているから負荷を減らす作戦を取るはずのに、さらなる精神的疲労を起こしてしまうのはよくありませんよね?)
その抵抗感を無くして、自分に負荷をかけない作戦をしていく為に、誰かに相談してご自身の負荷をかけなくていいことを人からも言い続けてもらうサポートをしてもらいましょう。
■仕事バージョンだけじゃない
前述に、仕事で心が疲れてしまった時に、心がますます疲弊していいく方向になる「もっとやれるはずだ」「もっと頑張れるはずだ」「もっと踏ん張れるはずだ」と自分への期待をかけるAさんという人の話を書きました。
仕事バージョンで例え話を書きましたが、他のシーンでも一緒です。
カウンセリングでも、恋愛バージョン、離婚問題バージョン、介護バージョン、子育てバージョンで、「もっとやれるはずだ」「もっと頑張れるはずだ」「もっと踏ん張れるはずだ」と自分への期待をかけ続けていくことで、心がますます疲弊していっている方、燃え尽きていっている方のお話をたくさんお聞きしてきました。
もしあなたが、今、仕事で、恋愛で、離婚問題で、介護で、子育てで(それ以外の他のバージョンでも)、心が疲れている時は、自分への期待を手放して、疲れている時にあった作戦(方針)にしていってくださいね。
(続)
- 心が疲れた時は疲れた自分を受けいれ自分を労ることがいる時
- 期待の心理が作る心の疲れ〜自分への期待を手放す時〜
- 完璧主義が作る心の疲弊〜完璧にできなくてもいい〜
- 問題を改善しようとして疲れてしまった〜知らない間に自己否定〜