ハードワークに陥る心理
「本当はもっと心豊かに過ごしたい。けれど、ずっと仕事ばかりしている私。」
今の仕事は好きだと思えるけれど、毎日忙しすぎて余裕がないという方もいれば、一生懸命仕事に取り組んでいるけど、そこまで仕事にコミットしているわけでもない、という方もいらっしゃるでしょう。
ただ、休みもなく働いていると「このままでいいのか」と自分自身でも心配になってしまうこともないでしょうか。
実際、ハードワークがやめられないことが理由で、心身に不調をきたしたり、そこまでいかなくても毎日が楽しめないだとか、恋人や結婚生活がうまくいかなくなってしまった、という話もあるぐらいです。
では、どうしてハードワークにハマまってしまうのでしょうか。
今日は代表的な2つのハードワークにハマる理由をご紹介していきます。
○無価値感によって引き起こされるハードワーク
これは自分自身を「仕事する以外に価値のない人間」として扱ってしまうパターンです。
仕事する以外に自分は価値はない、と感じている意味で「無価値感」が影響していると見ることができます。
仕事がお好きな方ほどおわかりいただけると思うことかもしれませんが、仕事にどんどんはまり込んでいくと自分=仕事といった感覚を覚えるようになります。(私の場合で例えるならば、自分=カウンセラーといったアイデンティティを補償する感覚を持つような感じですね)。
今の自分があるのも、これだけの成果や評価を得ているのも仕事のおかげ。
だから、仕事を失ったり、仕事をしなかったら、今の自分はないと感じやすくなるイメージです。
これはとにかく頑張る人に多いパターンといえますね。「頑張っているからここにいられる」「これだけ頑張ってるから必要とされている」そう感じやすいわけです。
逆に言えば、「頑張っていなければ今の生活はない。居場所もなくなる」と感じやすいのです。
よって、ハードワークを続けるしかない、と感じてしまいますし、自分よりもできる人を見ると攻撃したくなったり、嫉妬する場合もあります。
ここでの問題は「自分自身を仕事する以外に価値のない人間として扱ってしまう」という部分にあります。
むしろ、仕事で自分の価値(アイデンティティ)を保証してしまっている状態が続く限り、ハードワークは手放しがたくなるということですね。
○罪悪感によって引き起こされるハードワーク
罪悪感とは「自分は毒だ」「自分は過ちや罪を犯したから罰せられるべきだ」という感覚をもたらす感情です。
平らくいえば、意識的、無意識的にかどうかは別にして、「そもそもの自分は良い人間ではない」という感覚があるということですね。
この場合、ハードワークを自分に課すことで、自分自身を攻撃するようになるのです。
いわば、仕事を自分の罰や、明確な自覚のない罪の意識に対する償いの手段に使っているというわけです。
これは、いわば「責任感が強い」と言われる方に多いパターンですね。
どんなことも「自分がやらなきゃダメなんです(やらないとダメなような気がする)」「私以外の人では勤まらないから私がやらなければ」「自分がやらない周囲の人に申し訳ない」と感じやすいのです。
その姿は、とても前向きで自分の未来を切り開いているような姿、というよりは、明らかに無理をしている、罰を受けているような姿になっていることが多いでしょう。
よって、周囲の人も「そこまで無理をしなくても」と思うのですが、自分がやらなければという責任感が強い反面、周囲の意見をあまり受け入れないので、なかなか支援者を得ることが難しくなり、たった一人でハードワークを続けることにもなります。
もし仕事を自分への罰として使っているならば、人に助けてもらっては罰の意味をなさない、とも言えるわけでして、ここになかなかハードワークをやめられない理由があるとも言えます。
○ハードワークを手放すための「目的設定」
ハードワークと対になる概念としてあげられるものは「ワーク・エンゲージメント」でしょう。
ワーク・エンゲージメントとは、仕事から「活力」を得ていて・仕事に誇りを持ち「熱意」を持って取り組み、仕事に「没頭」できる
そんな「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素が揃った状態のことを指す言葉です。
目的意識なく、この3つの要素が揃うことはなかなかありませんよね。
つまり、ハードワークを手放すことを考えるなら「仕事に取り組む目的」そのものを見つめ直すことです。
ただ、これは気持ちの余裕がないときほど難しくなりますから、まずは一旦休息を取ってから考えていただくといいことだと思います。
また、人によっては哲学的な問いになるかとも思います。
ただ、この自分が設定した「目的」に気づくことは重要なことでもあるのです。
例えば、「自己実現」という場合もあるでしょうし、「大切なパートナーや家族のため」という場合もあるでしょう。
「自分が貢献できることを与えたい」「社会参加している感覚がほしい」という場合もあるでしょう。
もしそういった目的を再設定できるならば、「自分が潰れては本末転倒だ」と理解できるやもしれません。
つまり、「ハードワークを行ってきたこと自体を否定する」のではなく、自分が潰れない方法で頑張ることができるバランスの良い過ごし方を見つける意識を持つこともできるようになる、というわけです。
また、そもそも僕たちの成長プロセスには、自分自身がより強くなるために、キャリアアップ・ステップアップするために、熱心に仕事に取り組むべき時期というものもあります。
それは、自分にとっての大きな成長期・転換期であればあるほど、熱心に仕事と向き合うことが必要になるのです。
ただこれは「無価値な自分」を補償するものでも、「自分に罰を与えて苦しめる」ものでもありません。
つまり、ハードワークしている現状を、前向きな成長という意味で乗り越えていく目的意識を持つことが重要なのです。
この目的設定の足かせとなるのが抱えてきた無価値感、罪悪感などです。
よって、実際のカウンセリングでは潜在的な心の領域を扱うことで、より前向きでバランス良く、熱心に仕事と向き合える自分に変化していくことも可能となると考えられています。
最後になりますが、とはいえ、今の身体状態、心の状態も決して無視はできません。
既に、意欲的になれない、何をしていても辛い、何もかもどうでも良くなる、などとお感じならば、まずきちんと今の自分に目を向けて、心だけでなく身体的なケアを優先していただくことが重要です。
ときには十分な休息を取る、環境を変えるなどの措置が有効に作用することもあります。
この場合も「自分が潰れては本末転倒」だとお考えいただくことが重要ではないでしょうか。
(完)