変化することへの怖れ
その原因は自分自身が変化する怖れです。自分自身を変化させるコツは、自分にどのようなパターンがあるのか、どうしてそのようなパターンを持っているのか自身の心と向き合ってみることです。
私たちは何か新たな行動を起こそうとするときには必ず心理的抵抗を感じます。
特に、その行動が、従来からの自分の姿勢や方法、手段と異なると感じるときには強くなります。
敗北感、自分の価値が無くなるような感じ、惨めな感じ、本来の自分ではなくなる感じ、失敗するのではないかという考えなどが出てきます。
例えば、会社を移ろうかどうか迷っている場合を例にとって考えてみると、状況や人にもよりますが、何かに敗北して会社を去っていく感じを抱き惨めな感覚になったり、仲間を見捨てるような感覚が出て来て本来はそのようなことはしない自分が自分ではなくなる感じがしたり、転職が失敗するのではないかという考えが出てきたりします。
実は、いずれの感覚や考えも、その根底にあるのは変化することへの“怖れ”なのです。
私たちは“変わる”ことに対して怖れを抱きがちです。
今の、曲がりなりにも“安定した状態”から“未知の状態”に移行するわけですから、当たり前と言えば当たり前のことかもしれません。
世間には病院嫌いの人がたまにおられます。
熱があっても、どんなにしんどくても「絶対に病院には行かない」と周囲の助言や説得を頑固なまでにはねつける人です。
注射が怖いのか、あの病院独特の雰囲気が性に合わないのか、はたまた以前に何か問題があったのかわかりませんが、とにかく病院には行かないと心のどこかで決めているのです。
しかしながら、例えば何かの病気やケガで痛くてどうにも我慢できないとなると、そういう人でも多くの場合は病院に行きます。
病院を怖れる気持ちよりも、今の痛さを何とかしたいとか、この先自分がどんなに苦しむかわからないという怖れの方が上回ったからです。
病院には行かないと心に決めているのが抵抗、そして抵抗しきれなくなって病院に行く事を選択するのがその抵抗を打破したという形です。
まだ抵抗している状態の方が楽な場合、抵抗があることは避けて通ろうとします。
しかし、追い詰められて抵抗する事が苦しくなると、その抵抗をやむなく放棄して宗旨替えを行うのです。
変化に対する怖れもこれと同じです。
今の状態から変化するよりも、そのままの状態であり続けた方がまだいいと感じている時には変化することを躊躇します。
それを正当化するために、様々な心理的な抵抗を使って理由付けを行うのです。
直感的には「変化した方がいい」と感じていたり、わかっていたりするのですが、心理的抵抗を使ってそれを打ち消そうとするのです。
カウンセリングで色々なお話をお伺いしていると、今の苦しい状況を変えたい、しかし自分は変化したくない、できれば自分の変化は最小限に留めたいとお話をされる方がいらっしゃいます。
しかし、今の状況を生み出したのは自分自身の行動や考え方ですから、状況を変えるには、今までのやり方とは異なったアプローチをする、すなわち自分のやり方を変えることが必要になるのです。
自分のやり方を変えるには、それまで持っていた考え方や認知のパターン、自己攻撃性、怖れに着目しすぎる“考える癖”などを変化させる必要があります。
これらを劇的に変化させることができれば状況も劇的に変化させることができますが、長年の自身のパターンですから、それはなかなか難しいのではないかと思います。
劇的に変化をさせなくとも、実は変化させられるところを少しずつ変化してみるだけでも効果はあります。
徐々にですが、少しの変化がご自分のパターンに影響を与え、ご自分の言動が少し変化し、それが自分以外の外の世界へ影響を与えて外から返ってくる反応が変化します。また、自分の内側にある未だ変化させることができなかった部分に対しても波及して変化をさせていきます。
いきなり大きく変化しようと思うと心理的抵抗が大きくなり、変化へのハードルが高くなります。
また、自身の変化に対する効果に大きく期待し過ぎると状況の変化が遅々として進まない感じがして「状況が変わらない」と投げやりになってしまったりします。
状況を変化させるコツは、自分にどのようなパターンがあるのか、どうしてそのようなパターンを持っているのか自身の心と向き合い、変化させることが可能なパターンを少しで結構ですので変えてみるのです。
冒頭の例を使えば、敗北感が変化に対して邪魔をしている場合、
なぜ敗北感を感じるのか→なぜ競争しているのか→本当は誰と競争しているのか
といった感じで自分の内面と向き合ってみることです。
ちなみに、敗北感は多くの場合、理想の自分との競争です。
そうすると、自分が感じる敗北感の奥にある意味を見出すことができて、敗北感を感じる自分についての理解が進みます。
この場合、いきなり敗北感を感じなくすることは難しいでしょうから、敗北感の中でも「こういう時には敗北感を感じなくていい」という部分を見つけることができれば、敗北感による心理的抵抗は緩和されることになります。
また、敗北感を感じることが自分の心理パターンであることがわかると、それは心の癖ですから、敗北感が出てきたときに「また癖が出た」と少し軽めに扱うことができるようになります。
(完)