ネガティブな側面を受け入れ、愛し、サポートすること
こんばんは
神戸メンタルサービスの平です。
私は温泉マニアで、日本全国の温泉に入りにいっています。
東に地元の人しか知らない秘湯があると聞けば出張の合間を縫って行き、西に源泉掛け流しの名湯があると聞けば出張の日程を無理やり変更しても訪れるというぐらい、温泉が大好きなのであります。
そして、私は温泉マニアの中でも“泉質マニア”といわれるのですが、とりわけお湯にこだわったマニアなのであります。
旅館がボロボロであろうが、潰れそうであろうが、泉質さえ良ければそれで幸せなのであります。
さて、とくに東北地方の場合、泉質の素晴らしい温泉は混浴であることが多いものです。
日本人は古来より温泉を好んできましたが、温泉はそもそもは“療養泉”と呼ばれ、病気を治すためのものと考えられていました。
そして、よい温泉ほど湯量は大量とはいえず、小さな湯船が一つしかないような温泉も少なくありません。泉質のよい温泉に混浴が多いのには、こんな理由があるわけです。
また、温泉にはさまざまな病気の人が訪れますが、その中にはリウマチなど関節の不調があるために歩行が著しく困難な人もたくさんいらっしゃいます。
その場合は介助する人が必要ですが、夫婦で訪れ、片方が脚の悪いパートナーを介助したり、高齢のご夫婦が互いにサポートしあいながら入浴したりということも地方ではよくあります。そのためにも療養のための温泉は混浴であることが必要なのです。
あるとき、私が東北のある温泉につかっていたところ、高齢の女性が、同じく高齢でリウマチをおもちのご主人を支えながら入ってこられました。
混浴の温泉というと、若い女子のギャルなんかが紛れ込んでこないかなと思うわけですが、私の長い温泉人生で、そのような状況に出逢ったことは一度もありません。
それどころか、年配の女性が入ってこられることもほとんどないのです。
その一方、“老老介護”という言葉がありますが、高齢のご夫婦がたがいにサポートしあいながら、療養泉としての温泉に入浴される場面はちょくちょく見かけます。
この東北の温泉でであったご夫婦がまさにそれで、おじいさんを支えるために手を貸したところ、おばあさんから感謝されてしまいました。
で、聞いてみたのです。
「いつもこのようにして入浴されているのですか?」
「ええ。この人がリウマチを発症し、入浴介助が必要になったとき、私はまだ40代前半でした。混浴のお風呂に入るなんて、恥ずかしくて仕方なかったのですが、そんなことも言っていられない状況で‥‥。そのうち、自分の性別を忘れました」
そう言って、奥さまは豪快に笑います。その笑顔の素晴らしかったこと、美しかったこと‥‥。
おそらく昭和10年前後のお生まれのお二人だと思うのですが、とりわけ女性のみなさんは恥の概念が強い世代ではないかと思います。
しかし、そんなこと以上にご主人を思いやる奥さまのすべての思いがあの笑顔に凝縮されていると思い、いたく感動させられたことを憶えています。
若いときの私たちは、情熱やロマンスで人を愛します。
しかしながら、年齢とともに、私たちはそれぞれいくつももっているネガティブな側面を受け入れ、愛し、サポートすることにより、愛情がどんどん成熟していくように私は思っています。
このご夫婦にとって、温泉での入浴というのは週に1回のイベントになっているようです。介助しながらの温泉というものが、どうやら、ご夫婦の絆を強化しているようなのです。
ご主人は寡黙な方のようでしたが、私に向かって「こいつには、頭が上がらないのですよ」と微笑みながら言ってくださいました。
そのときのご主人の目元のやさしさに、このご夫婦の絆を見たと感じたのでした。
来週の恋愛心理学もお楽しみに!!